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#映画感想文340『シビル・ウォー アメリカ最後の日 』

映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日 (原題:Civil War)』(2024)を映画館で観てきた。

監督・脚本はアレックス・ガーランド、出演はキルステン・ダンスト、ワグネル・モウラ、ケイリー・スピーニー、スティーブン・マッキンリー・ヘンダーソン、ジェシー・プレモンス。

2024年製作、109分、アメリカ映画。

アメリカで内戦が起きている。独裁的な連邦政府に対して、テキサス州とカリフォルニア州の同盟からなる「西部勢力(Western Forces)」が戦争を仕掛けていく。なぜ、テキサスとカリフォルニアが同盟を組み、戦争が起きているのかの経緯は明かされない。ただ、保守とリベラルが組んでいるところに末世感が漂っている。

リー・スミス(キルステン・ダンスト)は著名な戦場カメラマン。これまで戦場に飛び込み、雑誌の表紙を飾るような、決定的な瞬間の写真を撮ってきた。その彼女と、ロイターの記者であるジョエル(ワグネル・モウラ)は、大統領の独占インタビューをするために、ニューヨークからワシントンDCに向かう。

先輩記者のサミー(スティーブン・マッキンリー・ヘンダーソン)は、巨体かつ老体で杖がなければ歩けないが、一緒に行きたいと言う。リーに憧れているジェシー(ケイリー・スピーニー)という23歳の女の子も、ニコンのフィルムカメラ片手に、取材に同行したいと申し出る。二人は、先輩と未来のジャーナリストを連れて、内戦のアメリカ国内を横断していく。

ロードムービーの形式を利用しているが、車を止めるたびに誰かが拷問されていたり、銃撃戦が起きる。あらゆるところに死体が転がり、見えない敵がジャーナリストにも銃口を向けてくる。軍服を着た人間が連邦政府側なのか、WF側なのかはわからない。

旅をしていく中、ジェシーは戦場カメラマンとして、めきめきと成長し、決定的な瞬間をとらえることに成功する。彼女は怯え、怖がり、嘔吐しながらも、向こう見ずに殺し合いの現場に飛び込み、シャッターを切る。一方のリーは先輩として、ジェシーを見守り、あるときは物理的にも助けながら、撮影をしていくのだが、徐々に恐怖が彼女の足をすくませる。彼女は戦争や人々の死を撮ることを生業としてきたカメラマンだが、それは彼女の記憶の中でトラウマとしても蓄積されている。リーは年を取り、恐怖をまざまざと感じられるようになる。若手のジェシーは恐怖に対して好奇心が上回り、彼女はそれを「生命の躍動を感じる」と表現する。そんな彼女をリーは複雑な表情で眺めるのだ。それは困惑した風でもあり、遠い過去の自分を見ているようでもあった。

終盤は、ホワイトハウスにWFが乗り込む。大銃撃戦かつ戦車まで出てくるのだが、連邦政府側の軍隊がほぼ機能していない。最後は大将の首取りとなり、ラストショットは大統領の死体を囲んで、軍人が歯をむき出しにして笑っている歴史的な一枚の写真。それがエンドロールにおまけとしてついてくる。(アメリカの軍人って、戦場や収容所で、なぜ、あんな写真を撮ってしまうのだろう、といつも疑問に思う)

アレックス・ガーランド監督の作品には「これっておかしくない?」という怒りが根底にある。真剣に怒って、その怒りをフィクションとないまぜにして、作品に昇華させていく。それは必ずしも大衆の共感を呼ぶものではないのだが、炭鉱のカナリヤのような役割を果たしているのだと思われる。

キルステン・ダンストは子役から活躍しているので「若い人」というイメージがあったが、本作ではすっぴん風でしわもほうれい線も隠さず、美しく見られなくてもいい、という決意が見られた。ケイリー・スピーニーは、ナタリー・ポートマンから影やミステリアスな雰囲気を取り除いたような人なので、今後さらに重宝されていく女優さんになるだろうと思った。

わたしは公開日初日の夜の回に行ったのだが、席は一割程度しか埋まっておらず、おそらく日本でヒットということにはならないのだろうが、見てよかった。ただ、「みんな見たほうがいいよ」とおすすめはできない。音と映像にあまりに臨場感があって、観客はエンターテインされるというよりは、ものすごいストレスにさらされる。それをいた気持ちいいと感じられる人にはいいが、心身が疲れている場合はダメージを感じると思う。(アジア人は問答無用で殺されちゃうしね)

わたしは最後の15分ぐらいの銃撃戦の爆音で耳が痛くなった。鼓膜のあたりでぷつぷつ音が鳴り始め、すわ突発性難聴かと思った。今もちょっと痛いような気がする。帰りも、息が詰まり、胸のあたりが苦しくなった。とても体に悪い映画だった。

(補足。難民キャンプのようになっているスタジアムに避難する人々は苦境を笑顔で乗り越えようとしていたし、子どもは元気に駆け回っていた。そのシーンはとても人間的だったと思う。A24、ありがとう、と思う。もし、アメリカ内戦を目の当りにしたら、わたしは涙すると同時にざまあみろと思うだろう。アメリカに対する感情は愛憎半ばで、おそらく世界中の人々がそのような相反する気持ちを抱えているのではないだろうか)


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