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Nで坂を下る

早朝の田舎道。
坂道の上で後ろに後続車がいないのをミラーで確認したら、クラッチレバーをキュッと握る。
エンジン音は小さくなり、滑らかに滑るタイヤ。
私とバイクが朝日に照らされた木々の間を通り過ぎていく。
ヘルメットのシールドをほんの少し開けて、わざと風切音を聞く。
インカムはつけない派。
小さなエンジン音と路面からの振動を感じながら長い坂道を下る。
静かな十数秒。感覚を研ぎ澄ます。
ひんやりとした空気と緑の匂いがする。
自分しか知らない小さな楽しみ。

前に車か信号機が見えたら終了。
速度に合わせてギアを選び繋いで、また心地よいエンジン音でバイクが答える。

朝のほんの少し、幸福を感じられる一瞬。
バイクに乗るまで知らなかった風景。

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