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私が見た南国の星 第3集「母性愛に生きて」⑨

「すてきな三にんぐみ」という絵本を思い出しました。絵本の三人組は泥棒さんでしたが、義賊でしたね。さて、この怪しい三人組の正体は?

怪しい三人の日本人

怪しい三人の日本人
「ママ、日本人が来ています!」
と言って、社員が私の車のところまで走って来た。
「どうしたの、日本人のお客様ですか。私に御用があるのですか」
と言って、車から降りてロビーへと向かった。ロビーでは三人の日本人男性の方が、私の到着を待っていた。
「いらっしゃいませ。お待たせをして申し訳ございませんでした。本日は私に何かご用があるのでしょうか」
と、私は言った。彼らは、知人から私のことを聞いて会いたいと思って来たとのことだった。三人は三亜市に住んでいると言われたので、年齢から見ても仕事で来ているのだろうと思った。ところが仕事ではなかったようだ。まだ働き盛りに見える三人は、何の目的があって海南島で暮らしているのだろう。
「静養でもされに来られたのでしょうか」
という、私の質問に対して、彼等の一人が笑い出した。どうして笑い出したのか不思議だったが、何となく私とは違う世界に住んでいる方たちように思えた。すると、もう一人の男性が私に質問をしてきた。
「ここのホテルのオーナーは、お医者様でしょ。何処の病院ですか」
突然の非常識な質問に驚いた。どうして初めて会った三人に、社長のプライベートの話をしなければならないのだろう。「この人たちは一体、何が目的なのだろう」と心の中で呟きながら、彼等の質問を上手にかわした。だらだらと会話は進み、私は少しイライラしてきた。話の要点がはっきりしないのは、私の性格では我慢ができなかった。そこで彼等の目的が知りたくて、ストレートに聞いてみた。
「すみません、今日の御用の趣旨を教えていただけませんか」
という私の言葉に、彼等も遠まわしな言い方を止めた。
「実は、このホテルの事を聞き、オーナーにお会いしたいと思い尋ねて来たのです。私たちは、このホテルの今後の業務に協力ができたらと思っています」
と言われても、私には、彼等がどのような協力をしたいのか、全く話の内容がわからなかったので、
「どんな協力でしょうか。お話によっては社長に連絡を致しますから教えていただけませんか」
と、丁寧に尋ねたが、はっきりとした答えは返ってこなかった。
 私は三人の中の一人が気になった。髪の色を赤く染めて、服装も海南島の若者と同じように派手なTシャツに半ズボン、そしてサンダル履きだった。
服装で相手を評価してはいけないと思うが、彼はこのホテルに遊びに来ただけの人にしか見えなかった。言葉遣いも、初対面なのに友達に話すような口調なので、印象が悪かった。そんな人が社長に会いたいと言われても会わせる気持ちにはなれなかった。時間も既に夕方過ぎだったので、
「すみません。私は先ほど三亜市から戻ったばかりで、まだ仕事がありますから簡単に要点だけをお話して頂けないでしょうか」
と、言った。彼等は、そんな不機嫌な私を察して、
「また次回、伺います。でも今日は遅くなってバスもありません。貴女のホテルの車で送ってくれませんか」
そんな図々しい言葉が、同じ日本人の口から出るなんて思いもよらなかった。びっくりしたのと腹立たしさで、頭の中が熱くなった。
「ここのホテルでは社用車しかございませんし、送迎はしていませんので、特別にお客さまだけをお送りするわけには参りません。どうかご理解をして頂けますようお願いします」
と、落ち着いて話そうと必死でそう言った。先ほどまで、中国人の立派な方々とお話をしてきたばかりだったので、この三人が恥ずかしい人種に見えた。
「こんな無礼な日本人が、この海南島で生活をしているなんて許せない!」心の中の気持ちと裏腹に、必死で作り笑いをした。でも私は本音が顔に出てしまう性格なので、少々無理があったのを自覚した。三人は、何やら相談をしていたが、
「わかりました。では、今日はここで宿泊をしますから安くして下さいね。それと、朝ごはんもサービスをしてくれませんか」
またまた図々しいのもいい加減にしてほしいと、言いたかった。もし、この客の言うとおりにしていたら、このホテルの風格も落ちると思い、上手に断ろうとした。
「少々お待ちいただけませんか。予約が入っているといけませんので」
言葉をあとに立ち上がり、フロントの事務所に行った。阿浪も、このやり取りを聞いていたらしくとても心配そうだった。
「阿浪、フロント社員には架空客名を予約表に書かせて用意しておいて」
その指示をして足早に三人の所へ戻った。そして、
「せっかくお泊りをして下さるのに申し訳ありません。今日は先ほど予約が入り満室になってしまいました。別のホテルへお泊りをお願いします」
落ち着きをとりもどし、作り笑顔でこう言った。
「嘘でしょ!貴女が帰ってくる前に社員から聞いたのですが、今日は暇だから満室は無理と言っていましたよ」
態度が一番悪い男性から言われたので、言い返そうとしたその時、天の神に気持ちが通じたのか、運良く隣のホテルに宿泊する予約客が団体で入ってきた。この団体は、自分たちが宿泊をするホテルをここだと勘違いをしたらしかった。
「良かった!」
と心の中で叫んだ。すると、阿浪は直ぐに団体客の所へ行き、客をそのまま客室まで案内した。普通はフロントで宿泊確認と記帳をしなければならないのだが、こんな状況なので仕方がない。団体客は大陸人だったので旅の疲れもあり、客室で早く休憩をしたかったようで部屋でくつろぎ始めてしまった。部屋を見せるだけのつもりでいた阿浪も少し困ってしまったようだった。例の三人にも、この状況が目に映ったので、先ほどの話が本当だったと思ったようで、
「わかりました。今日は帰りますので、いつか社長が来られたら連絡を下さい」
と、メモを残して去って行った。
 ほっとしたのも束の間、間違って来た団体客は部屋でくつろいでしまっているのだ。旅行会社の添乗員は、運転手と共にバスの給油に出掛けていて不在だったのでどうすることも出来なかった。暫くして、そのバスが戻り、ホテルを間違えてしまったことに気づいた添乗員は、団体客に説明をした。しかし、客たちは疲れていて移動を拒否して、
「隣のホテル予約をキャンセルしてほしい」
と言い出した。このホテルを気に入った数人の客が、
「このホテルでいいよ、間違えたのは旅行社の責任だから私たちには責任がないでしょ!」
と怒鳴りだした。添乗員は困り果てていた。なぜなら、キャンセル料金などの損失は添乗員の責任になってしまうからだった。私は、先ほどの日本人客を追い出すため神さまから戴いたプレゼントだと思い、隣と同じ料金にすることにした。そして、阿浪の力で隣のホテルでのキャンセル料金は無料になった。添乗員は、私たちに感謝の言葉を何度も言ってくれて、
「今後、レベルの高い客はこのホテルへ連れてきますから」
と,思いもしない言葉を言ってくれた。結局、この日は満室となり、不愉快な日本人たちだったが、彼らが売り上げに貢献してくれたことで、一件落着した。
 しかし、あの感じの悪い三人は、いったい何のために海南島にいるのか不思議でならなかった。それから数年間、彼等は時々このホテルへやってきたが、特別な話もしないので、私は彼らを普通の客として扱い、深い話をすることはなかった。風の便りによると、彼等はその後、この海南島を離れて大陸へ移ったという。いつか、この海南島で会うことがあるかもしれないが、その時は笑顔で挨拶をしたいと思っている。最初の印象があまりに悪かったのだが、今思うと、そこまで悪く思わなくてもよかったのかもしれないと、その時の自分が何だか恥ずかしくなり、今は少し反省している。
 

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