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私が見た南国の星 第6集「最後の灯火」⑨

会社廃業処理

 しかし、私の仕事はこれで終ったわけではなかった。海口市へ移動したのは理由があった。七仙嶺のホテルを売却しても、まだ七仙温度暇村有限公司という会社は存在していた。この会社の存在を抹消しなければならなかった。そうでないと、いつまでも税金が課せられるからだ。この会社を設立にあたり、数多くの許可証があるので、一箇所ずつ抹消させなければならなかった。そして、まだ私の任務はこれからが大変だった。なぜならば、設立当初に申請した書類に不備がありながらも許可証が存在している。日本ではありえない現実に立たされた私は、どうしていいか分からなかった。外国企業なので、会社廃業に関しても厳しい検査が待っている。その検査の折に、提出をする書類が揃わない。各官庁の役人へ、何度も頭を下げて対処の方法を聞かなければならない。しかし、ワイロの存在する暗黙の世界に私の会社はワイロ無しで通用するのだろうか。そんな事を思いながら、最終的には会社の抹消に半年の年月がかかった。
 各方面で出会った役人が、とても良心的だったので、私は運が良かったのかもしれない。工商局外事課では、責任者の方がとても同情的な判断をされたので抹消もスムーズに終った。帰り際も笑顔で見送ってくれたので、正直ビックリした。
「本当にお疲れ様でした。これから、また何か問題があれば遠慮しないで電話を下さい」
とっさに笑顔で「謝謝~」と言った。でも本音は、「これは嘘でしょ!」心の中で呟いた私だった。その時は、中国にこんな親切な役人が存在しているなんて信じる事ができなかった。

海口のマンション暮らし

 海口市の自宅は、阿浪の友人から新築のマンションを賃貸してもらって
いた。愛犬2匹を飼うことも許されていた。しかし、ここはマンションなので、日本ならば犬の泣き声だけでも苦情が出る。いくら海南島だからといえども、ここは都会なので犬の鳴き声には神経を尖らせる毎日だった。我が家では、ホテル時代から勤務していた社員が、数名このマンションで一緒に暮らしていたので、寂しさを感じることも少なかった。犬の世話や掃除や料理なども分担してくれるので助かっていた。引っ越してから数日間は、マンションの住民からも白い目で見られるほど、我が家は大家族だった。
 ある日の出来事だった。ドアをノックする音に
「誰かしら?馮さん、ちょっと見てください」
彼女がドアを開けた瞬間だった。
「私たちは、ここのマンションの管理組合の者です。あなたの所は犬を飼っているでしょ。このマンションはペットは飼えません」
丁寧に説明をしてくれた。困った私は部屋の持ち主へ連絡をして助けを求めた。すると持ち主は
「大丈夫!私から説明をします。電話を代わってください」
と言われた。暫くしたら、
「わかりました。でも犬の登録書はありますか?登録書とは、予防接種をしている確認書の事だ。
「はい、ちょっと待ってください。私の愛犬たちは、生まれた時から予防注射をしていますので大丈夫です」
注射の種類と回数は、全て記録されていたので、彼等は文句が言えなくなり、そして、帰り際に
「ここでは犬を飼う人がいませんので、注意して飼ってください」
と低姿勢で言われた。私としても、何も文句は言えないかった。常識からすれば、マンションでペットを飼うのは苦情が出ても当たり前だからと、素直に受け止めた。馮さんは、自分の子供がいないのでレオとジュリーが可愛くてならないようだった。私の身の回りの心配してくれ、彼女は海口市に住んでも旦那様と別居をしてくれていたのだった。週一回は自宅へ戻り家事をしていたが、やはり犬たちがかわいくて、自宅へ戻る回数もだんだん減ってしまった。
「お姉さん、朝の散歩をしていたら、マンションの皆さんが、我が家の犬は綺麗だと誉めてくれましたよ」
とても嬉しそうな彼女だった。私は、そんな彼女の喜ぶ顔を見ながら楽しくなってきた。こうして、だんだんと海口市の生活にも慣れていったのだった。。

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