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焼け石を冷ます言葉

人によって、仕事に向き合うスタンスは違う。

・お金を稼げればそれでいい
・それなりにやりがいは持ってますよ
・もっと勉強していつか独立!
・もっともっとできるようになって社長 or 有名に!!

私はフリーでデザイナーをしているくらいなので、一番最後の人間に属している自覚はある。有名になりたいとは思わないが。
でも、そうじゃない仕事人が、世間では大半ではないだろうか。

そう。そうなんだよ。わかってはいるんだ。

君がどのスタンスかは知らない。
でもさ。
君を信頼してるお客さんが「サーバーの契約、これでいいんですかね?」って聞いた時に「あ、専門的なことは私はサッパリ分からないので」って返していたとしたら、お客さんはどれだけ心細いだろうと想像して、肩が震える。

もちろん専門的なことを的外れに勉強してドヤってたら怒るけど、やっぱり、もう少し勉強くらいはしてほしい。

そういう怒りに近いものが湧き上がるたびに、思い出す出来事がある。

フリーになる前、Web制作会社でバイトの子達の面倒を見ていた時の話だ。

Oくんはとても勉強熱心で、休日でも自分でサイトを作り、バイトから正社員、いつかは独立!と意欲のある子だった。

一方、Mさんは面白そうだから&お金を稼ぎたいという理由でバイトに来ていた。

その頃のWeb制作は、レイアウトは全てtableタグを使うテーブルコーディングから、デザイン部分はCSSで書こうというCSSコーディングの過渡期。
今でこそ当たり前のWeb標準コーディングは、勉強熱心な人達による産物でしかなかった。

会社でも少しずつWeb標準で組んでいこうかという方針を取り、勉強熱心なOくんは喜んでいた。
一方Mさんは、私にこう言った。

「その勉強は、就業時間内にすればいいんですよね?」

会社の立場からすれば、就業時間は作業をしてほしいので、可能であれば休日に自主的にやってくれるとありがたい。
だが、雇用される側からすれば、仕事にだけ必要な知識なので、就業時間にすべき勉強であるという主張もなんら間違っていない。

Mさんにとってこれは、Oくんのように将来を見据えての勉強には思わない。思えない。
そして、ならない。

この時、私は「ああ、見てる未来が違うのだ」と気付いた。

Web制作を仕事としてる人は、SNSを見ていてもOくんのように独立したい、もっともっと勉強したいという向上心に溢れる人が多かった。
だからこそ、彼女の純粋な言葉に、私の目からはウロコが大量に零れ落ちた。

そうだ、仕事に対するスタンスは、人によって違うのだ

そんな気付きもあって、私はMさんに勉強は就業時間内でも構わない、という回答をした。

仕事に対するスタンスを変えるのは、人生の生き方を変えろということに近い。
どうしてそれを他人ごときが押し付けていいのだろうか。

そんな経験があるから、私は君に「Webに携わるなら、サーバーやドメインの契約くらいこちらに確認せずともできるようになってもいいんじゃないですかね。せめて自分で契約からWordPressのインストールくらいまでは一度やってみるべきじゃないだろうか?」というメッセージを送ろうとして消した。

コーディングレスが主流となりつつある時代が来ている。
技術が進めば、頭で念じただけでサーバーの契約からセッティングまでできる時代がくるかもしれない。
そうなった時には無用の知識になるだろうし、直近で独立したいと思っていないのなら、不要の勉強だ。

向上心の押し付けはよくない。

だからこうして、私の後頭部をぶん殴ってウロコをこぼさせた出来事を思い出し、焼け石を冷ますのだ。

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