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意味不明小説集

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自分の意味不明小説や、noteで見かけた不条理だったりホラーだったりする、星新一系の意味不明ショートショート(1頁漫画も)をまとめています。
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#小説

創作》彼女が僕を殺した理由

冷たい真冬の海。 空も海面も真っ暗に淀む中、僕は静かに浮かんでいた。 自ら好んで入ったわけではない。 恋人が僕を突き落としたのだ。   話は半年前に遡る   僕には付き合ってもう数年になる恋人がいた。 彼女の名前は、ユキ。 同じ会社で働いている。 美人だし、家庭的で、同棲してもう3年は経つ。 いい年齢なので、そろそろ結婚を、なんて迫られていたが、考えの甘い僕は決断できないでいた。 そんなある日、僕はちょっとした気の迷いで、別の女の子と一夜を共にした。 もちろん、

戻る男

 男は20歳の誕生日を迎えた夜、今までの人生を後悔していた。  まだ20歳だと周りは言う。しかしもう20歳、人生の4分の1は過ぎているのだ。高校でもっと勉強しておけば良かった。中学で好きな娘に告白しておけば良かった。小学生の間にもっと楽しんでおけば良かったと。  「ああ、過去に戻りたい。」  男はそう呟いた。時計が12時を回った。  男はベットの上で目が覚めた。あれ、俺はいつの間に寝たんだ。昨夜の記憶を思い出そうとしていると、携帯にメッセージが届く。 『明日お前誕生日だろ?

【怖い話】持ち込み小説

これは出版社で編集者をしているBさんが体験した怖い話。 昔から物書きの登竜門として"持ち込み"という方法がある。 直接、出版社に作品を持ち込んだり送ったりして売り込むことで、今でこそ数は減ったものの、持ち込み作品からキラリと光る新人作家が生まれたりもする。 Bさんのもとにも日々いくつもの作品が持ち込まれてくる。 編集者の中には持ち込み作品には目もくれない人もいるが、Bさんは自身も若かりし頃、物書きを夢に見たこともあり、礼儀として持ち込み作品を一つずつ丁寧に読むのを習慣として

創作》コトバ集め

僕は世界の音という物を知らない。 言葉がどんな音で聞こえるのか、音楽がどんなものか知らない。 しかし、僕にはその人の発する言葉が美しいものかそうでないか、判る。 人は皆、言葉を発する時、羽を吐き出す。 美しい言葉なら純白に輝き、そうでなければ薄暗く、黒ずんでいる。 普通の人には見えていないようだ。 僕はその羽を「言羽」と呼んだ。 言羽は人の口から何枚か吐き出され、地面に落ちる前に消え去る。 たまに消えないで落ちているものもあり、僕はそれを拾い、ガラス瓶に集める事を趣味

創作》コトリの飼い方

「ねぇ、一つ頼みたいことがあるの」 付き合っている彼女がそう言った。 「私、明日から海外に仕事に行くのだけど、私のいない間、私の代わりにコトリの世話をしてくれないかしら?」 「コトリ?君飼っていたっけ?」 「えぇ。いつも一緒にいるの。淋しがり屋だから。でも仕事だし、コトリに構ってあげられないから」 「え、いつも一緒?」 「えぇ。今、私の肩にいるの。ほら、私のいない間、彼の言うことを聞くのよ?」 肩に向かってそう彼女が言う。 「え、ちょっと待って」 「今、貴方の肩に乗っ

創作》帰り道の猫

それは仕事を終えて、家に帰る途中のことだった。 「おい、お前」 頭上から声が降ってきた。 見上げると、太い木の枝にキジトラの猫が座っている。 「え、もしかして、今の……お前が?」 そんなバカな。 猫が人の言葉を話すなんて。 「ほかに誰がいる?」 信じられないという僕の表情など知る由もなく、猫はそう言った。 よく見れば、そいつは見知った猫だ。 近所の、おばあさんが一人で住んでいる古い一軒家の縁側でよく寝ている。 たまに玄関近くにいるので、声を時々かけたり、撫でたり

創作》引越し先の気になるところ

最近引っ越しをした。 築年数5年以内の、綺麗なマンション。 駅近で、見晴らしもよく、日当たり良好。 立地条件は申し分ないのだが、 1つだけ気になることがある。 実は水道の蛇口をひねると、 ざぁーっという水音にまじって、 死にたい、消えたい、いなくなりたい ボソボソと聞こえてくるのだ。 手を洗うたびに、 シャワーを流すたびに、 これが延々と聞こえ続けてくるので、 また引っ越すべきかどうか悩んでいる。

創作》ポスター

駅の改札の側の壁に、ポスターが貼ってある。 ダイエット食品のポスターだ。 ポスターの隅が少しだけ破れていて、悪戯心でめくってやった。 向こう側に、不健康そうな顔で笑う女の子がいた。 申し訳ない気持ちで、めくったところを元に戻した。 original post:http://novel.ark-under.net/short/ss/92

創作》私が手放したもの

その日は薄曇りの空だった。 けだるい朝、外に出るのも億劫。 しかし、行かなければ、社会的な信頼を失うだろう。 その日必要な書類を持っているのは私だけなのだから。 原付きで片道30分。 いつもの道だ。 通いなれた、なだらかな下り坂。 緩やかなカーブに合わせてハンドルをきっていた。 つもりだった。 タイヤは道に沿って大きなカーブを描くガードレールを目指していた。 近付いてくるガードレールの凹みまで、数えられるくらい、緩やかに時間が流れた。 気付いた瞬間にハンドルをきっ

創作》おにさんこちら

少し悩んでいることがある。 それは我が家での出来事。 大きめの部屋に一人暮ししているのだが、どうやら住人が僕以外にもいるようなのだ。 部屋でくつろいでいると突然浴室からシャワーの音がしたり、 トイレから出て電気を消して暫くするとまた電気が点いたり、 キッチンに立っていると靴箱を開け閉めする音がして、玄関を見ると靴が散乱していたり。 自分の頭がおかしくなったのか、と疑ったが、実際問題異常は起き続けている。 そんなある日、リビングで食事をとっていたらベットの上ではしゃぐよ

創作》明滅する世界

部屋の蛍光灯がチカチカと点滅し始めていた。 少し前からやばそうだな、と思っていたが、この繰り返される明滅はだいぶ気になる。 昔、部屋の蛍光灯が切れかけて点滅を始めたら、家の外も点滅をしている、そんな話を読んだことを思い出した。 新しい蛍光灯を買いに行こうと外に出た。 外でも部屋と同じ明滅が繰り返されていた。 これはマズイ。 あの話と一緒ではないか。 慌てて買いに行き、慌てて付け替えた。 部屋の明滅が止み、世界の明滅も止む。 ほっと安堵の息をつく。 そういえばあの話

宇宙大会議(SF)

・・・目が覚めると、真っ白い部屋にいた。 天井は円型のドーム状になっていて、部屋の中央に円卓が置かれている。 僕は円卓の一席に座っていた。 僕以外にも、円卓のそれぞれの席に人が座っていた。 いや、よく見ると彼らは人間じゃなかった。 恐竜のような見た目の鎧を着た生物、スライム状の有機生命体、テレビでよく見かける絵に描いたような宇宙人。 中には、かろうじて人型をした生物もいたけど、全身が真っ赤だった。 他にも奇妙な生物達がテーブルを囲んでいた。 ・・・これは夢だろうか。記憶の最

ショートショート「法律違反」

 私は目を疑った。  しかし、目の前の光景は現実である。  あの、憧れのアイドル歌手が、酒を飲んで酔っ払っているなんて……。  赤い光に照らされ、窓ガラス越しにうつる顔は、テレビやグラビアでは決して見ることが出来ないものだった。  何より、彼女はまだ十九歳だったはずである。明らかに違法行為だ。  私は意を決して声をかけた。 「あのう、すみません。あなた、ひょっとして、アイドルの……」  憧れの乙女は、ほろ酔い気分の緩んだ声で答えた。 「あれ、バレちゃった?」  何ら罪悪感は覚

かりそめの主(あるじ)

駅前商店街の十字路にある、8台分のスペースの月極駐車場。 ここには姿の見えない住人がいる。 木島の人生は、婚約者の女性の実家で、25歳の誕生日を祝ってもらった日に終わった。 気が付いたら駐車場で、花と線香に手を合わせる家族や友人の姿を眺めていた。声をかけても触れようとしても、誰も気づかない。 彼らの話から、酒に酔って歩いていた所を車にはねられ、この駐車場で息絶えたことを知った。 死んだら無になると思っていた木島だが、絶命した地に留まり続ける『地縛霊』となっていることに