意味不明小説集

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戻る男

 男は20歳の誕生日を迎えた夜、今までの人生を後悔していた。  まだ20歳だと周りは言う。しかしもう20歳、人生の4分の1は過ぎているのだ。高校でもっと勉強しておけば良かった。中学で好きな娘に告白しておけば良かった。小学生の間にもっと楽しんでおけば良かったと。  「ああ、過去に戻りたい。」…

【怖い話】持ち込み小説

これは出版社で編集者をしているBさんが体験した怖い話。 昔から物書きの登竜門として"持ち込み"という方法がある。 直接、出版社に作品を持ち込んだり送ったりして売り込むことで、今でこそ数は減ったものの、持ち込み作品からキラリと光る新人作家が生まれたりもする。 Bさんのもとにも日々いくつも…

創作》コトバ集め

僕は世界の音という物を知らない。 言葉がどんな音で聞こえるのか、音楽がどんなものか知らない。 しかし、僕にはその人の発する言葉が美しいものかそうでないか、判る。 人は皆、言葉を発する時、羽を吐き出す。 美しい言葉なら純白に輝き、そうでなければ薄暗く、黒ずんでいる。 普通の人には見え…

創作》コトリの飼い方

「ねぇ、一つ頼みたいことがあるの」 付き合っている彼女がそう言った。 「私、明日から海外に仕事に行くのだけど、私のいない間、私の代わりにコトリの世話をしてくれないかしら?」 「コトリ?君飼っていたっけ?」 「えぇ。いつも一緒にいるの。淋しがり屋だから。でも仕事だし、コトリに構ってあ…

創作》帰り道の猫

それは仕事を終えて、家に帰る途中のことだった。 「おい、お前」 頭上から声が降ってきた。 見上げると、太い木の枝にキジトラの猫が座っている。 「え、もしかして、今の……お前が?」 そんなバカな。 猫が人の言葉を話すなんて。 「ほかに誰がいる?」 信じられないという僕の表情など知る由…

創作》引越し先の気になるところ

最近引っ越しをした。 築年数5年以内の、綺麗なマンション。 駅近で、見晴らしもよく、日当たり良好。 立地条件は申し分ないのだが、 1つだけ気になることがある。 実は水道の蛇口をひねると、 ざぁーっという水音にまじって、 死にたい、消えたい、いなくなりたい ボソボソと聞こえてくるのだ…

創作》ポスター

駅の改札の側の壁に、ポスターが貼ってある。 ダイエット食品のポスターだ。 ポスターの隅が少しだけ破れていて、悪戯心でめくってやった。 向こう側に、不健康そうな顔で笑う女の子がいた。 申し訳ない気持ちで、めくったところを元に戻した。 original post:http://novel.ark-under.net/short/

創作》私が手放したもの

その日は薄曇りの空だった。 けだるい朝、外に出るのも億劫。 しかし、行かなければ、社会的な信頼を失うだろう。 その日必要な書類を持っているのは私だけなのだから。 原付きで片道30分。 いつもの道だ。 通いなれた、なだらかな下り坂。 緩やかなカーブに合わせてハンドルをきっていた。 つもり…

創作》おにさんこちら

少し悩んでいることがある。 それは我が家での出来事。 大きめの部屋に一人暮ししているのだが、どうやら住人が僕以外にもいるようなのだ。 部屋でくつろいでいると突然浴室からシャワーの音がしたり、 トイレから出て電気を消して暫くするとまた電気が点いたり、 キッチンに立っていると靴箱を開け…

創作》明滅する世界

部屋の蛍光灯がチカチカと点滅し始めていた。 少し前からやばそうだな、と思っていたが、この繰り返される明滅はだいぶ気になる。 昔、部屋の蛍光灯が切れかけて点滅を始めたら、家の外も点滅をしている、そんな話を読んだことを思い出した。 新しい蛍光灯を買いに行こうと外に出た。 外でも部屋と同…