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[ショートショート]汝、隣人のために讃美歌を。


父の影響というものは、想像以上に人格を形成するうえで

外せないファクターとなっているだと思い知らされました。


小さい頃から、父と二人で旅行することが多かったんです。

車だったり電車だったり、方法は様々だし

海だったり山だったりと、方向も様々。


父は、沢山の人と触れ合えるからと、隣に座った方に話しかける。

もちろん胡散臭いと思われたり、迷惑と思われることも多いけど

父の無害そうな柔和な笑顔と、連れ添っている私のおかげで

通報されたことは今まで、一度もなかったんです。


「お!空いとる。なぁ、鈴。こっち来ぃ。空いとる。あ、姉さん、ごめんな。わしの自慢の娘じゃ。隣、よろしいじゃろか?娘、座らせて」

と、何気ない会話から始まって

「彼氏さんと遠距離なんか。そりゃえらいなぁ。いや、えらい。わしも妻と娘と離れて暮らすなっただけで吐きそうじゃ。じゃけ気持ちはようわかる。きっと彼氏さんも会いたいにきまっとる。わしにはわかる・・・」

なんていつの間にか身の上話しになって、その後、父を訪ねて家まで遊びに来たりする人や、結婚することになりましたと報告しに来る人も。


おかげで母は、いつも知らない人が父を訪ねてくることに慣れてしまい、いつも来客をもてなす準備に余念がない人になっていました。

私は母に似て悪く言えばキツイ顔、よく言えば澄ました美人らしいです。

ただ父は、自分よりも母に似たことを喜んでいたこともあって、性格が父に似たことをあまり喜んでいませんでした。


「鈴。汝、隣人に讃美歌を」

「なに?どういうこと?」

「わしは、自分だけじゃなくお前や母さんにも幸せでいて欲しいと思っとる。」

「知ってる」

「そして、袖振り合うも他生の縁と思っとる」

「知ってる」

「だからな、出会う人は幸せになって欲しいと思っとる」

「うん」

「お前も、隣人の為に讃美歌を・・・」

「うん」

「だから、鈴、隣人のために讃美歌を歌ったれや」

「Joy to the World, the Lord is come! 」

「まぁ、讃美歌じゃの」

「Let earth receive her King」

「ありがとうな。変な父ですまんかった」


父ですか?存命ですよ。今、帰省中なんですよ。

その変な父とりんご飴つくって子供に配る予定なんですけど、

えと、すみません、そうそう、サタケさんも来られます?

大丈夫ですよ。さっきもお話ししたとおり変な父と、感化された母

そして父のコピーの私ですから。

いっしょにりんご飴つくって、子供に配って喜ばれてみましょうよ。

なんだったら、ここで讃美歌歌っちゃいますよ?


What a friend we have in Jesus, All our sins and griefs to bear!・・・

え?恥ずかしい?

そうですか・・・ごめんなさい。


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