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学祭マジック

学祭マジックというと、学祭期間を経て恋人関係になることを意味する。「学祭魔法コイビトデキール」というわけだ。しかし僕の辞書にある学祭マジックは、まさしく「学祭でマジック」という意味である。

高校のクラス担任がマジシャンだった。けっこう実力があるらしく、たまに披露してもらったりしていた。だからかその先生のクラスでは、恒例的に学祭でマジックをすることのなっていた。例に違わず、僕らもマジックをすることになった。しかも僕がマジシャン担当になってしまった。

マジシャン担当は何人かいたが、大概は乗り気ではなかった。そりゃそうだろう。いくらマジシャン先生に教えてもらえるといっても、人前に立つのはしんどい。僕もやりたくなかった。ただ引き受けてしまった以上、どうしようもなかった。

学祭まで毎日練習をした。放課後になっても教室に残り、トランプを消したり、ボールを増やしたりしていた。できるようになるのは楽しかったが、人に見られるのは気恥ずかしかった。

こうして2週間、練習をこなして迎えた本番、予想外に楽しかった。自分の披露したマジックで人々が笑い、驚き、関心し、笑顔で帰っていく。僕はシフトが終わっても、他の人の代わりにやり続け、人を楽しませた。

幼少期から芸人になりたいって言うくらいには、人を喜ばすのが好きだった。しかし時間とともに、そんな気持ちも忘れていた。学祭マジックは忘れていた僕の根源を思い出させてくれた。何事もやってみないとわからないものである。

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