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厚労省白書「芸術・芸能分野で働く人々の労働環境を改善するために」

長時間労働、ハラスメント、トイレや更衣室が足りない、報酬が少ない、振り込みが遅いなど、働き方の問題は多いです。このような過重労働に厚労省が取り組みを始めました。10月に閣議決定された白書のコラムに、詳細が掲載されています。

令和4年過労死等白書より
芸術・芸能分野で働く人々の労働環境を改善するために」 (P190〜193)

「お気に入りのテレビドラマや映画を観ると、ワクワクしたり、感激して涙を流したりすることがあります。

 完成した作品の「美しいところ」だけに目が行きがちですが、…芸術・芸能の仕事に就く人の職業生活もバラ色とは限りません。」

 お気に入りのテレビドラマや映画を観ると、ワクワクしたり、感激して涙を流したりすることがあります。

歌番組に好きなミュージシャンが現れると、テレビの前で一緒に唄ってしまうこともあるでしょう。素晴らしいパフォーマンスは人間らしく生きるための糧であり、共に生きる社会の基盤にもなります。

そのために、社会全体で芸術・芸能とその担い手を支えていく必要があります。
芸術・芸能を担っているのは、表舞台で演じる芸能実演家と、いわゆる裏方として監督、撮影、照明、音響、美術、衣装などに取り組むスタッフ(芸能制作作業従事者)です。


芸術・芸能分野で働いていなければ、完成した作品の「美しいところ」だけに目が行きがちですが、人々に喜びや感動を与えるからといって、芸術・芸能の仕事に就く人の職業生活もバラ色とは限りません。

むしろ、一瞬のシーンを最高に創るために数時間から数日かけるなど、その作業量は並大抵のものではないでしょう。
こうした問題は長年にわたり注目されてきませんでした。

しかし、近年はもっと真摯に取り組むべき課題として変わってきています。

当事者団体が独自で調査した結果によると、改善すべき問題が挙げられています。

まず、芸術・芸能分野で働く人は、危険と隣り合わせで働いていることです。
例えば、次のような事故が起きています。
・テレビドラマの撮影中に俳優が大やけど
・歌舞伎俳優が花道から転落して腕を骨折
・ 照明係が天井裏の足場から落下して首を骨折
・ テレビ番組の収録中に倒れたセットの下敷きになり美術係が死亡
・ ミュージカルのリハーサル中に通訳係が舞台から転落して死亡
・ 連日の長時間勤務でよく眠れなかったスタッフによる自動車事故で同乗者が負傷


次に、芸術・芸能分野の仕事は肉体的・精神的に過酷なことです。
前述の当事者団体が実施した調査結果をみると、芸能従事者や関係するフリーランス約 300 名のうち、
「睡眠を充分にとれず仕事中に困った」という回答は 80%を超えていました。

実際、睡眠が6時間を下回るのは 65%、そのうち4時間未満であるのは 12%もおり、
仕事での徹夜を77%が経験しているとのことでした。


この調査結果によれば、睡眠の問題以外にも、仕事上のストレス要因は多岐にわたっ
ていました。

例えば、屋外での仕事では天気や騒音に左右されたり、トイレや更衣室がなかったりします。
また、仕事の契約がコンスタントに得られるか否かは個人ごとの差が大きく、仕事があっても収入が少ないと精神的にはきついといったことや、芸能従事者として働き続けられるかという将来への不安も常につきまとうという面もあるようです。このような事情からか、様々な困難が重なって、「仕事が原因でこのままでは生きていけない」と思ったことがある者は 37%となっていました。


ほかにも、各種のハラスメントの問題が指摘されています。芸能従事者や関係するフリーランス(約 1,200 名)に対する別の調査結果をみると、精神的な攻撃(脅迫、名誉毀損、侮辱等)を体験したり、見聞きしたりしたのは6割で、ハラスメント内容の中で最多でした。続いて、過大な要求、経済的な嫌がらせ、人間関係からの切り離し、私生活への過度な立ち入り、セクシャルハラスメントなどが挙げられています。

令和3(2021)年には、芸能従事者の働く環境の改善に向けて、行政による重要な動きがありました。
また、令和3年に見直された「過労死等防止のための対策に関する大綱(令和3年7月 30 日閣議決定)」では、自動車運転従事者、教職員、IT 産業、外食産業、医療、建設業、メディア業界とともに、「長時間労働の実態があるとの指摘がある業態等」として、芸術・芸能分野を調査研究の対象とすることが明記されました。このため、令和4(2022)年度から私たち労働安全衛生総合研究所の社会労働衛生研究グループが中心となって疫学調査を行うことになり、令和4年の秋に調査を実施する予定になっています。


調査にあたって、当事者団体へのヒアリングや関連省庁との協議に基づいて、調査票の作成などを行いました。


本調査を実施する上で重視しているのは、①芸能従事者がどのように働いているかをしっかり捉える、②これまでの調査で広く使われ、心身の健康度を適切に測れる質問項目を選ぶ、という二点です。こうすることで、芸術・芸能分野における働き方の特徴を明らかにできると考えられます。さらに、心身への影響の度合いを他の業職種で働く労働者と比べられるようにもなります。
なお、令和4年度は芸能実演家を調査し、令和5(2023)年度は芸能制作作業従事者を対象に調べる予定です。

・総務省、文化庁、厚生労働省、経済産業省が連名で、芸能従事者の就業中の事故防止対策等の徹底について、通達「芸能従事者の就業中の事故防止
対策等の徹底について」を発出(3月)
・ 労働者以外の「芸能従事者」が労災保険の特別加入制度の対象に追加
(4月)


海外に目を向けると、芸能従事者の健康と安全を守る調査研究や活動がとても活発であることが分かります。私どもの調査はこれからですが、夢と希望を与える芸術・芸能従事者がより魅力的なパフォーマンスを披露でき、それによって私たちのこころや生活がさらに豊かになるよう、芸術・芸能の担い手の労働環境を改善するために役立つデータの提供を目指したいと存じます。
(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所 
 社会労働衛生研究グループ、過労死等防止調査研究センター)

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