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言葉の正解は遠い彼方/愛おしき日常(第9回)

おそらくは、日本人の多くが自然と身につけているであろう”察する”。
ある時、帰った実家にて両親と夕飯の時間を過ごす中、私はこの”察する”文化を肌で感じていた。

父は基本面倒くさがりであり、言葉を省略する。
「お母さん、アレない?」

これに対し、万年反抗期の私は「はぁ?」と返事をしてしまうわけだが、母にとってはこんなもの初級編である。

ここでの正解は、「にんにく醤油」である。

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遂には後半、最高難度のフリに私は大敗を喫することになる。

「アレは?あの〜〜〜、アレよ。」

・・・わからん。ぜんっぜんわからん。

この”何なのか”を考える時間というのが無駄と判定したが最後、ますますイライラは募るばかり。
「はぁぁ???全然わからんし!」とキレ気味に返事をしたならば、
「ホレ!アレよ!なんとかっちゅーアレよ!」と逆ギレされる始末。

はて、これはどのように対処するのが正解なのか・・・

果てしなく広がる砂漠にひとり。
ぽつーん遠い目をしていたところ、母が登場した。

「あー、アレかな!アレはまだだにー!」

え?

ええ?

母恐るべしやん。

もはやこの場で私がかろうじて拾えたワードは、方言『だに』だけである。さすがは夫婦歴うん十年。
母親の能力をリスペクトしつつ、自分の未熟さが身に染みる食卓だった。

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