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(第3回)心地よい風とともに過ぎ去るもの

春の訪れに心踊ったり、夏のお祭りで踊ったり、暖かさは人を陽気にさせるものがある。
私の身の回りでもまた、思わぬタイミングで陽気さを感じる出来事があった。

それはひと仕事終えた、帰り道のこと。
雨上がりの夜道は一際人の姿が少なく、雫の落ちる音が時々パタっと聞こえてくる。そんな静かな道を注意深く歩いていると
「・・・・・・・♪」
遠くから鼻歌らきしものが私の耳をかすめた。
前方から、ごきげん男子学生が自転車に乗ってこちらへ向かってくるのが目に入った。

しつこいようだが、人の少ない夜道。
彼には申し訳ないが、こちらも最悪の事態に備え、今の平穏を疑いながら歩く。

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(ご機嫌を装っているが、何かの作戦だったらどうしよう。いざとなったらこの傘で防衛するしかないな…。)

私は傘の持ち方を最も力の入る持ち方にそっと変えた。
多分、はたから見れば変な持ち方でしかない。でも良いのだ、それで命が守れるならば。

いよいよすれ違いに差し掛かる。
私の注意はまさに彼へ120%、ある意味の熱い視線を注ぐ。
その日最大の緊張を持って迎えたその瞬間!

「フフフ〜ン……スウィ〜トメモリィィィイ〜♪」

男子学生はこうして軽快に去っていったのだった。
なんなら時差で心地よい風も届けてくれていた。

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聖子ちゃんとはなかなか良い嗜好ではないか。ごきげんさんはいいことだ。

そんなこんなで、夏は始まろうとしていた。




※この作品は、大阪のコワーキングスペースOBPアカデミア様より依頼をいただいているリーフレットで掲載されたものを、リライトしてお届けしています。

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