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「石の上にも三年仮説」を乗り越える【若手育成の科学】


「石の上にも3年仮説」の崩壊

仕事がしんどい時、このままこの会社に勤めていて良いのか漠然と悩んだ時、「とりあえず3年は我慢しよう」「辛くても我慢と努力が大切だ」などのアドバイスを受けた人も少なくないでしょう。

終身雇用がデフォルトであった時代においては、嫌な仕事や苦手な仕事を、我慢してやり続けることが美徳であり、それが成長の鍵でもありました。

しかしながら、6割以上の人が転職活動を経験し、実際に2人に1人が転職を経験する昨今*、「石の上にも3年仮説」は若者の共感を生んでいません

日本生産性本部が行った「新入社員働くことの意識」では、「好んで苦労する必要はない」と感じている人の割合は過去最高となり、最大54.3ポイントあった「若いうちは進んで苦労すべき」と感じている人とのポイントの差は過去最小の5.9ポイントになっています。

出典:平成31年度「新入社員働くことの意識調査

修行期間は必要でなくなったのか?

では、若者は苦労しなくても成長できるようになったのでしょうか?
「石の上に3年」仮説は若手育成にとって不要なものとなったのでしょうか?

研究ではこれと逆の結果が示されています。
職場の苦労の中でも、責任のある仕事や裁量の大きな仕事はチャレンジ・ストレッサーと呼ばれていますが、このチャレンジ・ストレッサーと個人の成長の関係は、逆U字の関連を持つことが明らかにされているのです。

つまり、負荷のない環境に身を置くだけで成長するのは難しく、ある程度ハードな経験が成長には必要なのです。

元論文:Ikeda(2023)The inverse U-shaped relationship between challenge stressors and workplace learning outcomes: a study of young employees in Japan

個人が石を選べる時代へ

では、石の上に3年座りたくない若手の成長を育成するためには、どうしたら良いのでしょうか?そのために、人事や上司ができることとしては、以下の2つがある考えます。

①個人のキャリアプランに沿った石を提供する
②石の価値をしっかり伝える

①個人のキャリアプランに沿った石を提供する

転職が当たり前になった時代において、ただ上司にやれと言われただけでは、辛い仕事を我慢したいと思えません

かつては、上司に指示された大仕事に取り組むことは、社内評価のUPや、昇進につながったかもしれません。けれども、転職も視野に入れながらキャリア形成を目指している若手たちには、ただ「やれ」と言われるだけでは、その意義や価値がわらないのです。

したがって、若手にハードな経験をさせる際は、単に会社都合で仕事を任せるのでなく、若手の将来のプランについて相談に乗りながら、彼ら彼女らに利益があるような選択肢を提供することが大切です。

キャリア教育を受け、「キャリア開発は自分軸でするもの」「やりがいがある仕事に就きたい」と考える若手には、自分に合った「石」を選べる環境が必要なのです。
こうした、石に座ることで、若手はもはや石に座ることを苦行と感じずに、楽しみながら仕事を行えるようになるかもしれません

②石の価値をしっかり伝える

また、個々のキャリアプランに沿った「石」を提供できない時や、まずは目の前のハードワークを乗り越えて欲しい時は「石の価値を伝える」という作戦も有効です。

先に述べたように、「やれと言われたら何でもやる」という考え方は徐々に弱まってきています。

そのため、ハードな仕事を任せる時は若手にとってどのような意味がある仕事なのか(若手本人にとっての価値)と、この仕事は誰のどのような幸せにつながっているのか(仕事自体の価値)を説明してあげることが大切です。

若手は、見習い的な仕事を担うことも少なくないため、自分の仕事の重要性を十分に理解していないケースも多くあります。経験が不足しているためにどのような学びが、理想のキャリアに必要なのか、わかっていないことも少なくありません。

したがって、例えば「今取り組んでいるリーダー経験はマネジメントスキルを学ぶのに役立つし、市場価値を高めることにだってつながるよ」「目の前の書類作成は、実は多くの子どもたちの命を救っているよ」などと、仕事の価値を伝えてあげることが重要となるのです。

"石"を"イス"と感じられる意味づけのマジックを

今ご紹介した2つの方法は、どちらもハードな経験の「仕事の意味づけ」を促すものでした。

他人から見て大変そうに見える仕事でも、自分にとって価値のある仕事ならば、楽しく正しく努力できるものです。

石の上にも三年いたくない若手の成長を促す上では、こうした意味づけのマジックが必要なのかもしれません。

参考文献
*株式会社リクルート「就業者の転職や価値観等に関する実態調査2022」
第1弾 転職経験や転職意向等について




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