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何もできなくても、生きてていいに決まってるじゃん

お盆の時期になると、晩年の祖父のことを思い出す。

祖父が亡くなったのはもう10年以上前の話だけれど、祖父のことは今でも定期的に夢で見る。夢の中の祖父は大体いつもめちゃくちゃ元気で優しくて、わたしはなんとなく少し安心する。


孫のわたしから見た祖父は「やさしくて真面目。でもその反動で、ぼやき癖とネガティブ思考が半端ない人」だった。

晩年の祖父は、肺の病気を患っていて、ちょっとした外出をするのにも酸素ボンベが必要だった。

とにかく「自分は肺の病気のせいで、こんなに何もできなくなってしまった」「こんなふうになってまで、生きていてもなんの意味もない」ということを、口を開けば言っていた。

大変な病気を抱えていたのだから、そういう気持ちになるのは当然のことだったと思う。

ただ、なんとなく、それだけじゃない感、というか。

病気になる前から祖父の中には「無価値感」とか「罪悪感」みたいなものが、ずーっとあったのではないかな?という感じ、がすごくあった。

大正生まれだった祖父は「自分は戦争にはいかなかった人間だ」ということに対して、負い目というか罪悪感を持っているようだった。

祖父のはなしによると、本来、祖父は戦争に行く予定で話が進んでいたのにもかかわらず、直前の健康診断的なもので引っかかって(元々、肺が弱かったから)戦争にはいかないことになったのだ、と言っていた。

「期待してみんなに送り出してもらったのに、自分が情けなかった」と言っていた。

"でもさ、そのおかげで、おじいちゃんが戦争にはいかなかったおかげで、おじいちゃんはその後おばあちゃんと結婚して、子孫がうまれて、で、わたしたちがいま生きてるんだからさあ。"

というようなことを、わたしなりの言葉で言ってみたことも何回もあるが、特に祖父には何も響いてはいないようだった。

"まあ、それもそうか。80すぎのおじいちゃんに、80年その考えで生き抜いてきた人に、孫娘がなにかを伝えようなんてのが無理なんだよねえ。"

ということに気付いてからのわたしは、祖父のはなしをひたすら遮らないで聞きつつ

うんうん。あーそうなの。ふーん。へえ~。

といった相槌を繰り返すbotと化した。

祖父は何度も「人の役に立つことができない」「価値を提供できない」ということが心苦しいのだ、ということも言っていた。

「でもさ、なんにもできなくたって、おじいちゃんは、ただそこにいてくれるだけでいいんだ。それにさ、できることは制限されてるかもしれないけどさ、好きな歌を聴いたりラジオを聴いたりはできるわけだよね...?」

ということを、わたしなりに伝えようとしてみるものの、祖父は「めぐちゃんはいい子だねえ、やさしいこと言ってくれるねえ」と言う返事が返ってきて、いつもそれだけだった。そして、例の「でももう自分は人の役に立つことができないから・・」というやつが再度はじまるのだった。

「いや、そうじゃなくて...わたしがやさしいとかやさしくないとかの、そういう論点じゃなくてさあ。。」ということを、わたしはいつも伝えようとして、でも伝わらなくて、あ、伝えてもしょうがないんだっけねえ。今更だよねえ。と思ったりした。

人の考えを変えるなんてできない。そんなことはわかっていても。それでも。

それでもわたしは優しすぎる祖父に「役に立つことができない人間は価値がない」という考えをインストールした、あらゆる存在を、わたしは心底恨めしいと思った。

時代背景なのか、家庭環境なのか、祖父がそれまで関わってきた人たちの影響なのか、生まれつきの性格なのか。理由はなんなのかわからないし、そのすべてが起因しているようにも思えた。わたしにはいろいろ想像することしかできなくて、わたしには何にもできることがないのが、やるせなかった。

でも、ああそうか。かく言う私だって、「何もできなくてもいいじゃない」なんてことを人には言うくせに。

自分自身、目の前の人になにもしてあげられないことをやるせなく思ったりしてるのだから、おなじようなものだな、と思ったりした。

結局、その人の人生は、その人のものだから、わたしがどうこうできる話ではないんだなあ、とか。わたしにできるのはやっぱり、「うんうん。あーそうなの。ふーん。へえ~。」みたいに。祖父の話を遮らないで否定しないで聴くことだけなんだよな、とか。

天国、とか、輪廻転生、なんてものが実際にあるのかないのか知らないけれど、まあ仮にあったとして。

祖父が「あの人生」を思い返したとき、それがすこしでも穏やかなものであったらいいなー、とか。今頃は来世で、前世の罪悪感とか、そういうのぜーんぶ忘れて、どこかで楽しく暮らしていたらいいなあ、元気にしてるかなあ?幸せになってね。なんてことを、ちょっと思わないでもない。お盆ですしね。

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