実録!モラハラサバイバー13

塀のこと

 我が家の木の塀が壊れ始めたのは台風直撃された頃だったろうか・・・。我が家は木がふんだんに使われているので、メンテンナンスは必須なものの、1年おきのはずの塀のメンテナンスをしたのは記憶が正しければ2回。なので、ちょうど6年目頃からガタがくるのは、当然と言えば当然。
 裏庭に自力で工房を建てた日曜大工の爺(私の父)も、元船大工の近所のおじさんも、「手伝ってやる」と言ってくれ、直せ直せと言われ続け。
その度に「そうですね!」「なおさなきゃ!」と感じよく応えるものの放置する夫。塀はどんどん崩壊を続け、ちょっとの補修で済むレベルではなくなった。
いくら手伝う気があっても家主が重い腰を上げないので手出しできずにいた助っ人たちも「???」な状態だった。

見栄っ張りで、外面の良い夫が、「あの塀は気になんないのかね?」と、とっくに父を見限っていた次男が「高校受験終わったら俺がやる」と宣言。そして宣言通り高校受験を終えた春に塀を壊して作り直す工事を自力で開始した。
すると、である。次男が塀をいじり始めた途端、夫は数社の業者を呼び、相見積を取り出した。
手伝ってくれている爺やおじさんにも、なにより大仕事に取り掛かった我が子にも、どんだけ失礼か考えないのだろうか。
 
 「これくらい掛かるらしいけどどうする?ちゃんと業者入れた方がいいでしょ」と、平然と聞かれ、ずっと放置していたのに、せっかくの次男の挑戦に水を差すようなタイミングで見積を入れる真意を質した。
「へっ?俺、ずっと前から何社も見積もりいれてるよ」
ずっと家にいる私にバレないと思っている嘘に付き合うのも馬鹿らしく、とりあえず既に始まっているし、とっても良い経験だし放っておいてくれと却下した。

 朽ちた塀を壊し、コンクリを練り支柱を建て、木材を切り、塀を作る。その全ての行程を、頼もしいオブザーバー達に助けられながら次男は約半年間続けた。
 当然道行く人々の間で話題となり、通る人通る人に声を掛けられた。「頑張れ!」と差し入れをいただいたりもした。
 「3回失敗しても自分でやる方が安上がりだから安心しろ」との爺の言葉通り、半年かかったものの、塀は見積もりの1/5以下で完成した。
 なによりも、こんな大掛かりなものを作り上げた事、それも元気なうちに祖父とやれた作業は、きっと次男の一生の宝になると私は確信している。

 オブザーバーの1人、近所のおじちゃんが何度か呟いた。「父ちゃん、とうとうなんにもやんなかったな」
それどころか、おじちゃんには言えなかったけど、古い塀の残骸を燃やしてもらう為、私の実家へ何度か車で往復したことを夫は「ガソリンの無駄」と言ったのだ。5倍以上かけて業者を入れようとしていた夫にとって片道30分の道のりの祖父母の家に顔を出すことは単なる「無駄」なのだと心底悲しくなった。


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