地域の枠を超えたこれからのまちづくりとは。わたしたちのまちづくりサミットーBEYOND LOCALーを男鹿市で開催
人口減少が進む日本のなかで、特に東京以外の地域での人不足・リソース不足が深刻になりつつあります。そんな時代だからこそ、各地域が手を取り合い、双方向で活性化していくことが必要不可欠ではないか。今回おこなわれたイベントの大きなテーマです。
会場となった秋田県は、人口減少率が日本トップ。なかでも、男鹿市は県内三番目に減少率が高いエリアです。この男鹿市に、地域内外からさまざまなプレイヤーが集結し、まちづくりに関する各地域のチャレンジやアイデアを発信・共有する場が設けられました。地域間で循環させることで、各地域の魅力を活かした「これからのまちづくり」を模索する場「わたしたちのまちづくりサミットーBEYONDLOCALー」です。
農と食を通じた地域と都市の豊かな関係づくりを目指す「めぐるめくプロジェクト」を始動した三菱地所株式会社、秋田県男鹿市でサケ造りの枠を超えて地域活性化を実践する株式会社稲とアガベ、「まちづくり」をアイデンティティに都市・地域でプロジェクトを進める三菱地所設計株式会社の3社が「わたまちサミット実行委員会」を結成し、運営を行いました。
<わたしたちのまちづくりサミット>
本レポートでは、サミット当日の様子をご紹介します。
稲とアガベの男鹿まち歩き
サミット開始前、有志15名が「稲とアガベ代表」の岡住さんが案内するまち歩きに参加しました。冷たい雨が吹き荒れる中、スタートしたまち歩き。秋田県の中でも半島に位置する男鹿市は、風が強いエリア。湾岸では洋上風力発電の建設が進んでいるといいます。
まずは、稲とアガベの案内から。
稲とアガベは、男鹿市で2021年に創業した「クラフトサケ」の醸造所。「クラフトサケ」は日本酒の製造技術をベースにし、副原料を加えることで生まれた新ジャンルのお酒です。例えば、ビールのようにホップを入れてみたり、ブドウを入れてフルーティーな味わいにしたり。りんごを入れて、日本酒とシードルのあいの子のようなお酒をつくることもできるそうです。
「このまちをお酒のまちにしたいんです」
まち歩きの冒頭で、稲とアガベの岡住さんが話ったのは”男鹿酒シティ構想”です。そう語る背景には、男鹿市の人口減少課題がありました。
「今のまま人口減少が進めば、僕が生きているうちに男鹿はなくなると思います。この町が未来に続くために動きたい。『男鹿=酒のまち』という認知ができれば、後世もこのまちを続けてくれるんじゃないかと」
福岡県出身の岡住さんですが、以前働いていた酒蔵がある秋田に恩返しをするために男鹿市で起業しました。人口が減っていくまちを、酒というツールを使って盛り上げようと活動しています。
その盛り上げ方は醸造所でクラフトサケをつくることに留まらず、レストランや宿の計画など「稲とアガベがあるから、男鹿に行こう」と思ってもらえるようなまちづくりを進めています。
まち歩きでも、次々に「この空き家はこれから変わっていく」と紹介する岡住さん。稲とアガベ醸造所の目の前の空き家は、男鹿の方が始めるラーメン屋になるそうです。岡住さんの夢に共感した博多一風堂が監修に入り、開店準備を進めています。
また、3月末に稲とアガベが新たにつくった食品加工所も、もともと空き家だった場所。お酒づくりをする中で生まれる酒粕を使った「発酵マヨ」を第一弾商品として販売予定です。その他にも、地元の有志の方が集まってできたカフェができたり、それがきっかけで若者が集い起業するなどのチャレンジが生まれているそうです。また、男鹿駅が移設されたことがきっかけで、男鹿市が元々の駅舎周辺の土地を買取り、広場としてどんどん整備を進めています。地域内外の多くの人が関わりながら、まちに新しい命が吹き込まれています。
「このまちのシャッターを開けたい」と話す岡住さんに連れられた、稲とアガベからサミット会場までの道のり。徒歩10分程度の範囲でもまちが変わっていく様子が感じられ、参加者一同ワクワクしました。
オープニングトーク
サミットのスタートは、実行委員長の岡住さん、司会の三菱地所設計の三好史晃さん、サミットを企画した三菱地所の広瀬のオープニングトークから。3人が今回の企画を男鹿で始めた理由を語ります。
広瀬「食と農をテーマにしたコミュニティ『めぐるめくプロジェクト』の取り組みを行うなかで、『地域内で完結させるのではなく、いろいろなプレイヤーが入り混じることが地域活性化につながるのではないか』と考えていました。岡住さんと出会い、地域における食とまちづくりの接点を考えていくうちに、今回のサミットの構想が生まれました」
三好さん「そこで声をかけていただいたのが弊社です。三菱地所設計は、建物を企画・設計するのがメインの仕事ではあるんですが、根底には“まちづくり”があります。建物をつくりながら、目指しているところはコミュニティを生むことなんです」
これは、三好さんが男鹿市にくる前に、オンラインで岡住さんから聞いた話で描いた男鹿市の絵だそうです。三好さんは「この絵に描かれているよりも、もっともっと広がりのある男鹿市を見つけていきたい」と話しました。
オープニングトークの最後には、男鹿市長にもご挨拶をいただきました。
菅原市長「私は71年間、男鹿市に住み続けていますが、こんなにいいところはないです。素晴らしい景観、漁れる140種類以上の魚、なまはげの伝統文化。人口が減少していても、男鹿はいいところだとみんな思っているんです。
今、男鹿にはいい風が吹いています。ひとつは洋上風力発電です。秋田県は日本の洋上風力がスタートした地。世界の脱炭素に貢献したいという思いがあります。もうひとつは利他の風です。岡住くんを初め、若い人たちがなんとか地域を活性化したいという思いを持って語ってくれています。利他の心を持った若者たちが来てくれて非常に嬉しいです。今までの概念にこだわらずにチャレンジするところに私は感心しています。だから、みんなで支援していきたい。新しい文化をつくっていくことが秋田県を変えて、日本を変えていく。みなさん、今日は一緒に盛り上げていきましょう!」
市長の熱い思いが会場にも伝わり、いよいよサミット本編が始まりました。3つの基調講演と2つのトークセッションを、それぞれ抜粋してお伝えしていきます。
基調講演|村岡浩司氏 「”世界があこがれる九州をつくる”を掲げる九州アイランドプロジェクト」
九州全域で飲食店を展開する一平ホールディングスの村岡さんは、「何かやれることあるか、と足掻いてきた3年間の記憶をみなさんにお届けします」と、コロナ禍からの再生を赤裸々に語りました。
「コロナでドーンと売上が下がってしまったなか、時間だけはありますから、散歩しながらずっと考えていました。そのうちひらめいたのは、『宮崎だけではできないけど、九州全域をつなぎ合わせればできることがある』ということ。例えば、宮崎県は小麦をつくっていませんが、九州全体を見ると日本の3割くらいの小麦をつくっています。注目されていない商品も、みんなで力を合わせてプロモーションしていくなど、広域経済圏でくくる発想は今までありませんでした。その結果、九州一帯でいくつもの新商品が生まれて成功したんです」
「新たな価値軸として、このまちしかできないことを『スーパーローカル』と僕らは呼んでいます。ローカルは場所の話じゃなくて、人や体験や、みんながまちの中で誇りに思っているものとか、そこでしか味わえないものとか、そういう意味です。『地方』『田舎』といえば途端に社会課題だけが目につきます。そうではなくて、価値に目を向けること。『めぐるめくプロジェクト』のご縁で宮崎の端っこからここに来て、みなさんとつながることができ、おもしろい時代の流れを感じています」
基調講演|岡住修兵氏 「男鹿の未来をつくる”男鹿酒シティ構想”」
岡住さんは「このプレゼンを通して、仲間集めがしたい」と話し始めました。
「僕は福岡県出身で、2014年に秋田市の蔵元・新政酒造株式会社で働き始めたことをきっかけに秋田県に引っ越してきました。『なんで秋田出身じゃないのに、こんなにやっているの』とよく言われますが、僕は秋田に恩義を感じているんです。秋田に来る前は精神的にボロボロで。けれど一念発起して、何か秋田にあるかもしれないと思って来たんです。新政酒造の人に支えてもらい、秋田の人たちに手を繋いでもらい、引っ張り上げてもらって、僕は今、生きているんですよね。真剣に“秋田の人に生かされている”という感覚があります。僕はこの秋田に恩返しがしたいんです。その方法として、まちに仕事をつくりたい。そう言っていたら、本当に多くの方が手伝いをしてくれています。お酒を通して来てくれた人に『あなたの力が必要なので、人生のうち1%の力を使ってくれませんか』と聞くと、大体みんな10%くらい使ってくれるんです」
「実は、2023年3月22日の『男鹿市の日』に、まちづくりの会社をつくります。この後登壇いただく石田さんと、稲とアガベCFOの斉藤さんと、僕とで。お酒以外の新たなコンテンツとして、鵜ノ崎海岸のリブランディングをやっていきたいと思っています。このプレゼンを聞いて何か一緒にできそうだと思う方がいれば、ぜひお声がけください」
わたまちピッチ&トークセッション
登壇者のご紹介
宮本吾一氏|株式会社チャウス
石田遼氏|株式会社NewLocal
井上能孝氏|株式会社ファーマン
濱久貴氏|合同会社HOC
広瀬|三菱地所(司会)
各地域で活動する4名に登壇いただき、まずは「コロナ禍で注目されるリアルの価値。リアルで地域に人が来てくれるためには?」という問いを投げかけるところから、セッションはスタートしました。
村岡さん「コロナ禍で3年が経ち、オンラインはリアルを補完するものでしかないことがわかってきました。D2Cなどオンラインの領域でも伸びているのは、もともとリアルのお客様がいて、ストーリーに手触り感もあるもの。逆に今までオンラインだけでやってきた方々が、顧客理解のためにリアルショップをつくり始めるという現象が起きています。ローカルの熱量がある場所が重要だと考えます」
そこから、人が来てくれるための「関わりしろ」づくりに話が発展します。どうすれば外からも地域に関わってもらえるのでしょうか?
宮本さん「僕が考える関わりしろをつくる三段活用が「聞く」「頼る」「巻き込む」。以前、ハンバーガー屋を開業したんですが、僕は人生で一度もハンバーガーを焼いたことがない。料理人にハンバーガーのつくり方を聞いて、できたら試食してもらって。サイドメニューもほしいと相談したらメニューをつくってくれることになって、最後はお客さんまで呼んでくれた。頼ると他人事じゃなくなる。自分の「できない」をちゃんと伝えることが大事です」
関わりしろをつくった上で関係人口を増やしたいのか?人口を増やしたいのか?という議論には、岡住さんが答えました。
岡住さん「貪欲に人口を増やしたい思いはあるけれど、日本全体の人口が減っているなかで男鹿だけが増えることはありえないんですよね。だから人口を増やすということだけでなく、関係人口を増やすことが地域の活性化につながるんじゃないかと思います」
宮本さん「自分も田舎で生活していて、『どのくらい続くか』が大事だと感じています。地域の持続性を考えると、やはり関係人口の後には人口も増やす目標も必要ではないかと感じています」[1]
岡住さん「僕はとにかく、男鹿市で仕事を生み出し続けたい。今の高校生は親に『仕事がないから、秋田市、仙台、東京に行け』と言われて、みんな戻って来ないんですよ。『東京に行くよりも男鹿の方がおもしろい仕事がある』と、いかに思わせるかが僕のなかでは重要です」
最後に、それぞれの地域で活躍されている登壇者のみなさんが感じる、男鹿の可能性を伺いました。
濱さん「パワーのある岡住さんがやるまちづくりは早いし、力強いものができると思います。その次にはそのまちをまち全員で背負っていかなきゃいけない。地域の子育て世代やおじいちゃん・おばあちゃんが1%でもチャレンジしたものが積み上がって100%になるような、アナログな仕組みづくりは僕らがずっとやってきていることなのでお手伝いできれば」
井上さん「男鹿には農林水産業が全て集まっているので、例えば、『一次産業のインターン制度』みたいなことができるとおもしろいかと思います。いきなり長期ではなく、1週間から最長1ヶ月くらいでいろいろな仕事ができるとか。1年を通して季節を感じながら一次産業に従事できる傍らでリモートワークOK、みたいな、都市部の人が求めるアプローチができる素地を感じます」
トークセッションの最後は、広瀬がこう締めくくりました。
広瀬「今まではイベントを行うのも東京が多かった。都市・地方の構造ではなく、”ローカル”で頑張る同士で応援する仕組みが大切だと考えます。まさにこのサミットがそういう場として機能し、これからも継続して行えたらと思っています」
広瀬さん、こちら当日おっしゃっていただいたことから編集により意訳しているため、念の為ニュアンスなどご確認いただけますと幸いです。
基調講演|東海林諭宣「ヤマキウ南倉庫をはじめとするエリアリノベーション」
株式会社SeeVisionsというデザイン会社を運営しながら、株式会社スパイラル・エーでリノベーションによるまちづくり・飲食事業を展開される東海林さん。秋田県で人口が減り始めた2006年に起業し、どんどん人口が減っていくなかで何かできることがないかと始めたのが「まちの共有地づくり」でした。
「『共有地づくり』で最初に手掛けたのは、秋田市の中心市街地で行った『亀の町プロジェクト』です。当時、人が寄り付かなかった『狸小路』という長屋をリノベーションしたんです。KAMEBarというスペインバルを皮切りに少しずつ店が増えていくにつれ、人通りも増え『治安がよくなったね』と地元の人に言われました。2店舗目を出店した後、50mほど離れたところの空きビル『ヤマキウビル』を見つけてリノベーションをしたことで、エリア全体に変化が生まれ始めました」
「『ヤマキウビル』のオーナーが保有する倉庫を活用し、『屋根付きの公園』をコンセプトに公共空間をつくろうとしたときのことです。総工費の1億5000万円をオーナーが投資してくれて。これはすごい話だと思っていて、オーナー自らがまちづくりに投資するこれからの可能性を感じました。『これは投資じゃない。地域貢献だ。』と言ってくれた、このオーナーのような方々と事業の運営をしていく手法はありなのでは、と思っています。現在、観光は非日常から日常にシフトしています。商店街が近い男鹿市船川エリアで観光をやるのであれば商店街の方々とのコミュニケーションなど『日常に入っていく観光』をつくることができると考えています」
おがまちトーク
菅原広二氏|男鹿市長
岡住修兵氏|稲とアガベ
東海林諭宣氏|SeeVisions
福島智哉氏|グルメストアフクシマ
創業105年、コロッケが名物のお肉とお惣菜の専門店の4代目。合同会社船川家守舎の立ち上げを行い、TOMOSU CAFEを男鹿市船川地区で共同運営している。
三好史晃氏|三菱地所設計(司会)
「おがまちトーク」と題したトークセッションでは、男鹿でまちづくりを実践されている5名が登壇し、男鹿の未来について語りました。まずは市長に本日のサミットの感想をお話しいただくところからスタートです。
菅原市長「朝、いつも格言を見るんです。今日は西郷隆盛の格言で『自分よりもふさわしい人がいたらいつでも職を辞せ』と書いていました。今回のサミットで、みなさんの頑張っている姿を見て非常に勇気をもらいました。男鹿の強みは切り口が多いところ。さまざまな方と交流しながら、個性を生かしたいと強く思いましたし、学んで新しいものをつくっていけたらと思っています」
岡住さん「市長、辞めないでくださいね(笑)困り事があると、いつも市長にLINEするんです。いつもすぐに返信をくれて『明日から動きます』と言ってくれて、実際動いてくれて。市長のおかげで僕が成り立っています」
東海林さん「僕は生まれも別の町で、事業をしているのも秋田市なので、これまで男鹿市にはあまり縁がありませんでした。けど、以前、秋田県の事業で商店街振興のセミナーとワークショップを10回ほどやったんですが、菅原市長が必ずいらっしゃって。そのおかげで僕は今日ここに来たのかなと思うところがあります。行政とも近い関係で物事が進んでいくのが地方ならではですね」
登壇者のひとり・福島さんが2020年5月から船川地区で「TOMOSU CAFE」を運営していることもあり、話は「船川地区の変化」について移っていきました。
福島さん「男鹿市出身でUターンしてきた3人で、『もっと日常をワクワクしたい』という思いから2015年から定期的にマルシェイベントを始めました。マルシェの回数を重ねると、今度はカフェがなかった船川地区に『カフェが欲しい』との声があったので、3人で合同会社『船川家守舎』を設立し、TOMOSU CAFEをスタートさせました。」
福島さんの取り組みが始まり、岡住さんが醸造所や食品加工所をつくり、船川エリアはどんどん空き家のシャッターが開いています。そんな「変化」についての議論で盛り上がったセッションの後半は、男鹿のこれからにも焦点が当たりました。会場の方が付箋に書いた「男鹿でやってみたいこと」を見ながらトークを展開。「空港があれば行きやすい」「子連れで行ける公共施設が増えてほしい」「サイクリングキャンプがしたい」など、さまざまな意見が集まりました。
それに対して、実現可能性を話し合った登壇者からは、「たしかに男鹿がお酒のまちになると、遠方から来る人がお酒を飲んで宿泊できる場所が必要」「屋根付きで子どもが遊べそうな建物を解放してくれるところがある」「サイクリストフレンドリーにするのは意外と難しくない。自転車をかけられるラックを置いておくだけでも、受け入れられている感覚があるかも」などの具体的な意見が飛び交いました。
今回の登壇者は、こういった「男鹿のこれから」を実現できる方々。どんどん可視化していき、形にしていく勢いが感じられました。
クロージングトーク
サミットの最後はクロージングトークです。
「今日、みなさんにもらったアドバイスは全てやります。いろいろやってみるなかで、男鹿だからこその課題解決策が出てくると思います。それが今後、秋田や東北、日本全国の課題解決になるかもしれない。みなさんさんにいただいたヒントを僕たちなりに形にして、ここに参加しているみなさんと一緒に『男鹿モデル』をつくっていきたいと、宣言させていただきます」
岡住さんの挨拶を最後に、「わたしたちのまちづくりサミットーBEYOND LOCALー」は閉会。改めて、男鹿という町の持つ可能性と、地域同士で知見を共有し、お互い前進していくことへの希望を感じる会となりました。
「わたしたちのまちづくりサミット」は、これからも各地で開催を予定しています。この会をきっかけに男鹿で生まれるもの、別の地で生まれるものにとてもワクワクしています。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?