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【海藻サミット】日本の海の現状とは?海の豊かさを守るために、わたしたちにできることを考える

2023年11月4日(土)、5日(日)の2日にわたり、秋田県男鹿市で開催された海藻サミット。ブルーカーボンなどSDGs の面で世界の注目を集める「海藻」について、各国の専門家やシェフが集まり、さまざまな角度から議論する時間となりました。
 
めぐるめくプロジェクトでは4日(土)に、一般社団法人Chefs for the Blue代表の佐々木ひろこさん、合同会社シーベジタブル共同代表の友廣裕一さんのトークセッションと、金楠水産株式会社蛸匠の樟陽介さん、三菱地所株式会社めぐるめくプロジェクト担当の広瀬拓哉も参加した4名でクロストークを行いました。

一般社団法人Chefs for the Blue代表 佐々木ひろこさん

フード・ジャーナリストとして数多くの食の現場を取材してきた経験から、日本の水産資源に危機感を覚え、料理人とともに2017年一般社団法人Chefs for the Blueを設立。持続可能な海を目指した自治体・企業との協働プロジェクトやフードイベントなどを通して消費者の意識を変えることで水産資源を支える活動に取り組む。

合同会社シーベジタブル共同代表 友廣裕一さん

日本の農村漁村を巡る中で、日本の海藻が激減している事実を知り、海藻の種苗生産、陸上養殖、海上養殖に取り組む合同会社シーベジタブルを2016年に設立。現在は養殖業にとどまらず、海藻を用いた商品開発や消費拡大に向けたイベント企画にも取り組んでいる。

金楠水産株式会社 蛸匠 樟陽介さん

明石高校卒業後、築地市場で6年間働いたのち、創業約100年の明石のたこを扱う水産加工会社「金楠水産」へ。マダコ漁獲量の減少に、老舗「金楠水産」の4代目としてなにができるのかを考え、伝統の技術を引き継ぎながら、消費拡大に向けてEC販売にも取り組んでいます。

日本の海の豊かさを保つために

「海藻」の話を始める前に、そもそも日本の海について知る必要があります。日本の海の豊かさは他の国と比べてどういう状況なのでしょうか。「日本の海は豊か。水産業の衰退は地域の衰退に直結する。」と題して、一般社団法人Chefs for the Blue代表 佐々木さんは日本の海を取り巻く環境や現在の課題について次のように語りました。
 
 
佐々木さん「排他的経済水域を含めた日本の海の面積は世界で6番目、深さを掛け算した体積で見るとなんと世界で4番目です。さらに日本の周りには2本の寒流と2本の暖流、合わせて4本の海流があります。そしてこの海流に乗って季節ごとにさまざまな種類の魚が来遊します。こういった環境の日本近海には3,700種類の水生生物がいると言われています。世界全体で15,000種ですから、日本の海がどれだけ豊かなのかわかるでしょう。

日本は昔から、豊かな水産資源と共に食文化を形作ってきました。一方で、漁獲量が減少し、重要な文化が失われようとしているのも事実です。ニシンで言えば、1800年代に100万トン獲れていた漁獲量が、現在は数万トン。ウナギ養殖に用いるシラスウナギの採捕量もどんどん減少しています。減っているのはニシンやウナギだけではなく、漁業全体の漁獲量も減少しています。
 
佐々木さん「漁獲量のピークが1984年で、1282万トン。現在は395万トンでピークの1/3を下回っています。男鹿地域がメインとしている沿岸漁業でも、同じように減少傾向です。1995年の漁獲量を1とした時に各魚種の漁獲量がどれだけ減少しているかをみてみると、鮭類やサンマで1/5以下、タチウオで1/4です。」
 
なぜ漁獲量の減少が止まらないのか。理由は地域によってさまざまです。戦後から続く国土開発、乱獲、農業から出る窒素系の肥料による水質悪化、川から流れ込む栄養塩の減少、海外漁船による乱獲や地球温暖化。地球温暖化が進むと二酸化炭素が海に溶け込むことで酸性化が進み、生物の生態に影響を及ぼすこともあるそうです。
 
水産庁はこういった問題への対策として、持続可能な漁業を考えるということが明文化された漁業法を2020年に施行しました。この取り組みを活性化するためには漁業者の先にいる消費者が意識を変えることが重要だと佐々木さんは語ります。佐々木さんは例としてスペインのバスク地方のカタクチイワシ漁を挙げました。この事例では、カタクチイワシの不漁対策として講じられた禁漁に対して、消費者が理解を示して加工業者を支えたというエピソードもあります。

佐々木さん「消費者を巻き込むことが成功につながるのです。そのうえでシェフは消費者に対して何ができるかということをChefs for the Blueでは考えています。シェフは生産者と消費者を繋げる立場として、食にまつわるストーリーを語るキープレイヤーになれると思っています。
 
Chefs for the Blueが地域の海を見つめ直す方法として水族館とのコラボを行っています。新江ノ島水族館での取り組みでは、地域の魚が飼育されている大水槽の前でその魚を使った料理を提供しながらストーリーを語るイベントを実施。漁業の課題を共有し、消費者に考えてもらうきっかけを作ることができた、と語ります。
 
佐々木さん「魚の資源量を戻して海を豊かにする。そのためにはサプライチェーン全体が海に関心を持つことが必要だと思います。

海藻から日本の水産業を元気に

海藻の種苗生産や養殖、商品開発をしている合同会社シーベジタブル共同代表の友廣裕一さんは、「海藻が人も地域も、そして海そのものも幸せにする」というテーマで参加者に語りかけました。
 
シーベジタブルでは、有名レストランや企業とのコラボイベントを通して海藻の消費拡大に取り組んでいます。海藻を食べる習慣がない国のシェフから注目を集めるなど、海藻は多くの国の人から新しい食材として注目を集めているそうです。
 
世界で注目を集める海藻ですが、日本での海藻の生産量は著しい減少傾向にあります。天然のマコンブはピーク時に700トン獲れていたところ、現在はほぼ壊滅状態。ノリはピーク時に100億枚獲れていましたが、現在は48億枚です。海藻は天然に生えているものを収穫することが多く、養殖技術の進歩は遅いといいます。
 
友廣さん「種苗生産がされている海藻はコンブ、ノリ、モズク、ワカメの4種類だけ。地域でおいしいと言われている天然の海藻があっても、生えてこなくなってしまったらもう育てることができないんです。
 
海藻が減少している主な原因は海藻食生物の食害だとされています。本来冬場に摂餌活性が低下する水生生物が、冬場の水温上昇により動き回れるようになったことで、冬に芽生える海藻を食べ尽くしてしまう現象です。海水温の上昇により、南方系の魚が生息海域を北へ広げるなど生態系の変化も起きていると、友廣さんは解説します。
 
友廣さん「本当にものすごいスピードで海藻が減っています。私は各地で海に潜って調査をしていますが、海底が見えないくらい生えていた場所なのに、数年後行ってみたらほぼなくなっているなんてことも。藻場が持続的に発展するためには、海藻の海面養殖しかない。海面で海藻を育てる方法を模索する必要があると思っています。
 
シーベジタブルでは、約30種類の海藻の種苗生産を行っています。種苗生産や養殖技術が確立することで、これまで利用できなかった環境でも海藻を育てることが可能に。海藻養殖が生態系にどんな影響を与えるかも研究者を巻き込んで調査中です。海藻養殖のおかげで微生物が増えて、それを食べる魚も増えていけば、海洋生態系に良い影響を与えるのではという予測を立てています。
 
生産した海藻の出口をどう整えていくかも課題。和食で利用されることが多い海藻は、食べ方が固定化されていることもあって海藻の消費量は減少傾向にあります。海藻の食品としてのポテンシャルを活かせるように、レシピや新しい保存方法の考案、チョコレートとのコラボ、​​発酵させて醤油やドリンクを作るなど模索を続けています。
 
友廣さん「海藻はいろんな可能性があります。海藻にまつわる新しい食文化をつくることで、海藻の消費が拡大し養殖に取り組みたいと思う漁師さんが増える、海藻が増えることで海も豊かになる。海藻を通じた新しい循環をつくることを目指して活動しています。」

日本の海を守るために消費者ができることとは

つづいて、佐々木さん、友廣さんに加え、金楠水産の樟さん、めぐるめくプロジェクト広瀬の4名で「海から食卓まで、フードチェーンから語る海の未来」というテーマでクロストークを行いました。
 
まずはこれまで出てきた魚や海藻の減少が具体的にどれくらい危機的な状況なのかについて掘り下げていきます。このまま日本の水産業の状況が何も変わらなければ10年後どうなってしまうのか、樟さんと友廣さんそれぞれの観点から述べられました。
 
樟さん「正直、資源が回復できないところまで減少してしまっている段階の魚種もあると思います。明石漁協でも昔は獲れたけど、今は獲れないという魚は本当に多いですね。地域によっては、漁獲量の減少で地域経済へ影響が出て、衰退していく漁村は多いと思います。」
 
友廣さん「藻場の観点でいうと、海藻養殖を進めて藻場とみなすということができれば増やす手立てはあるのかなと思います。天然の藻場を増やすのは正直難しいと思います。海藻の場合は、食害生物がいなくなったら一気に回復することも考えられるので、他の生物に比べればまだ状況は明るいかなと。」
 
さらに、佐々木さんは地域水産業の衰退はコミュニティの衰退につながるという観点で、想いを語ります。
 
佐々木さん「秋田県でいうと県魚のハタハタも漁獲量が減少して、禁漁したものの回復しなかったという事例もあります。一方で、南方で獲れていた魚が東北海域で水揚げすることも増えてきました。でも、馴染みのない魚だから買い手がつかない。環境の変化で水揚げされる魚種が変化するのであれば、消費者も順応して、新しい文化をつくっていくことを考える必要があると思います。」
 
農業に比べて消費者の感度が高くはない漁業。3人は、普段食べている魚の価格が高騰しているなら、他のよく獲れている魚種の利用を考える必要があると語ります。
 
Chefs for the Blueが行った水族館でのイベントを通じて、消費者の意識を変える意味を実感した佐々木さん。友廣さんはさまざまな販売イベントをおこなうなかで、消費者のなかでも感度の違いがあることも感じているといいます。明石の樟さんは水産物消費のハードルを下げる目的でタコ加工業者が作るたこやきの開発を進めており、加工業者として感じる想いを語ります。
 
樟さん「魚が減っているとは言われていても、無くなっているとは言われていない。消費者は一大事だとは思っていないんじゃないかと思います。水産に関わる業者が消費者に直接語りかける機会を作ることが必要だと思います。
 
続いての話題は、3人が考える日本の魚食文化の良さについて。佐々木さんは、食文化全体を含めて日本の強みを語ります。
 
佐々木さん「日本の魚食文化の価値として、流通経路の確立と食料供給の観点があると思っています。各漁村から水揚げ物を集荷して流通させる機能があり、生の品質のいい魚を手に入れやすい点は海外のシェフから羨ましがられることも多いです。食料供給の面で言えば、魚の自給率は59%。自分たちの国で供給できるタンパク質が豊富にあるのは価値あることです。」
 
そして話題は、現在の流通経路の課題、バリューチェーンの中で大きな影響を生み出すことができるキーマンは誰になるのかについて。

友廣さん「最初に小さく成功事例を作ってから、巻き込んでいくようにしています。水産業界では漁師さんとどれくらいコミュニケーションをとれるのかが、技術の実装に影響しているなと感じます。水揚げから販売までの流れの川上と川下に距離があるので、その距離を縮めていくために、料理人や小売店を生産者と引き合わせてコミュニケーションをとることも大切だと思います。」
 
佐々木さんはバリューチェーンの中の特定のプレイヤーではなくて、水産業の問題に一人ひとりが課題を持って知ろうとすることが重要だと語ります。
 
佐々木さん「13万人しかいない漁業者が海のことを全部管理していることに疑問を持つべきなんです。誰のものでもない水産資源がどう管理されているのかをきちんと見つめることが必要だと思います。
 
水産業を取り巻く問題に、消費者が関心を持つことが重要であるという結論を踏まえてトークセッションは終了。会場からの質問を受け付け、議論は続きます。

参加者からは、水産業に関わる問題や食の安全性について消費者はどうやって情報を得ればいいのか?海藻の種苗生産の問題点、海藻の消費を広げていくうえでの課題などの質問が挙がります。
最後に水産業に関心を持つ場づくりができればいいのでは?という質問があがりました。
 
佐々木さん「水産に関わるさまざまな進路を目指す学生たちがつながることで、社会人になったときも異業種間に横のつながりがある。それが水産の課題を解決する一つの方法になるといいなと思います。」
 
一見、ディープな話題にも聞こえる水産業の話。ディープな話題ではなく、当たり前に議論できるようになったときに、日本の水産業はさらに良くなるだろうという希望を持ってトークセッションは終了しました。

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