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地域を越えた交わりが生む、想像を超える発見射水食卓会議レポート 後編

4月下旬。めぐるめく事務局と全国各地で食や農に携わるプレイヤーの計7名が富山県射水市を訪れました。午前中は港や里山で生産や加工に取り組む拠点のフィールドツアーを行い、射水市の多彩な地形が育む食のめぐみを体感しました。(フィールドツアーについて、詳しくはこちらのレポートでお伝えしています)
 

<日本のベニスと呼ばれている内川のまち並み> 

午後は、訪問メンバーと射水市で食をテーマに活動する方々が集まっての交流会、通称「食卓会議」を行いました。 食卓会議とは…地域へのフィールドツアーや交流会を通じて、地域間の学び合いを生み出すプログラムです。地域内だけではなく、地域外からの多様なプレイヤーの関わりが、地域内に新たな食と農のチャレンジを生み出す循環につながることを目指しています。 今回は前半に地域外のメンバー、後半に射水市のメンバーがお互いのチャレンジを共有し合いました。まずは地域外のメンバーの活動について、プレゼンテーションを引用する形でご紹介します。 地域外からのインプットセッション 


ハイブリッドアクアポニックス・石崎徹さん/新潟県新潟市

私たちは新潟県新潟市で「ハイブリッドアクアポニックス」に取り組んでいます。アクアポニックスは、水産養殖(Aquaculture)と水耕栽培(Hydroponics)からなる造語で、魚と植物を同じシステムで育てる新しい農業です。一般的には淡水を使いますが、私たちは海水を活用しています。海水で野菜が育つのか疑問に思う方も多いと思いますが、日本でも海水で育つネギの事例があります。
 
しかし、アクアポニックスは人件費と電力量の負担が問題点となっています。そこで、地域の特性を生かした再生可能エネルギーを活用して蓄電することで、電力量を抑えるハイブリッドシステムを開発しています。そしてIoTやウェアラブル端末を活用して人件費の削減を実現することで利幅を伸ばし、アクアポニックスでの陸上養殖を増やしていきたいです。
 
いずれは家庭でもアクアポニックスが普及して「○○さんの家のお魚」といったものが生まれてくると面白いですね。ハイブリッドアクアポニックスが広く普及し、平和的で有益な経済活動が実現する世界に近づけていきたいです。

70seeds・岡山史興さん/富山県舟橋村

70seedsでは、次の70年の世の中の“新しい当たり前”をつくることを目指しています。未来に残したい面白いことに挑戦する人の想いを形にする、パートナーのような存在です。ウェブメディアでの発信やブランディング支援に取り組んでいます。
 
地域の外側からだけでなく内側からの実践者でありたいとの想いもあり、私が子育てのために移住した富山県舟橋村では農業と地域をテーマに、住人のみなさんと一緒に活動をしています。子育てのイメージが強い舟橋村でも、農家さんたちが頑張ってつくっている食材があります。まずは地域の人たちに知ってもらうために“子ども”をキーワードにカボチャのブランド化に取り組み、イベントを企画したりふるさと納税の返礼品にしたりと、地域資源の商品開発を進めてきました。
 
また、私も含めて親たちが安心して子どもを預けられる学童保育をつくりたいという想いから、みんなで運営していく“みん営”がコンセプトの保育料無料の学童保育「fork toyama」を今年舟橋村で立ち上げました。自分たちが住む地域を誰かに任せるのではなく、みんなで関わっていける仕組みを築き上げていきたいです。

阪急阪神百貨店・竹林豊さん/大阪府大阪市

私が10年以上生鮮の営業部を担当している「阪急うめだ本店」では、食品の売り上げが約6割。“食の阪神”がキャッチフレーズになるほどで、百貨店では珍しいケースです。
 
弊社は阪急うめだ本店以外でも直営で八百屋を営んでおり、市場への仕入れや値段付け、売り場づくりも全て自分たちで行っています。これまではベクトルを都心に向けて、地方の産物を仕入れて都心で売ることに力を入れてきました。ところが、生産者さんや事業者さんとの繋がりも増えてお酒を酌み交わす仲にもなると「都心で売ってもらうのも嬉しいけど、自分たちの地域や生産者が元気になってほしい」という声を耳にするようになりました。
 
そこで、これからは地域にベクトルを向けていくべきではないかと考えて、産地を訪れるツアーを企画しました。ツアーを通してお客様にいろんな産地へ足を運んでいただき、生産者さんの生き様や息遣いを知ってもらいたいです。百貨店なのでお客様に喜んでもらうことが大事だと思うのですが、やっぱり生産者さんや産地に喜んでもらうことも大事にしていきたいです。

EATLAB・瀬尾裕樹子さん/石川県小松市

子育てをきっかけに2018年に夫婦で石川県小松市に移住しました。“持続可能な食文化を未来に繋ぐ”をコンセプトとしたシェアキッチン「EATLAB」を2019年にオープンし、小松市を拠点に食関連のイベントやメディアの運営に取り組んでいます。また、移住前からの私たちの強みであるマーケティングやITの開発技術を自治体や企業向けに提供しています。
 
EATLABでは、地域で食に関わる方々と一緒におこなうフードマーケットや、地域のおばあちゃんたちから郷土料理を教えてもらうイベントを開催しています。現代は一人でキッチンを使うことが多いですが、みんなで料理をつくるからこそ気づくこともあります。例えば、80代のおばあちゃんに郷土料理を習ってみると、米を一升炊くところから始まります。みなさんのお家には一升炊きの釜はなかなか無いですよね。時代のうつり変わりに沿ったレシピへアップデートさせていく必要があることも学びました。
 
関東にはない独自の食文化や地域ごとのしきたりが失われずに残っていることが、小松市の大きな魅力だと感じています。今後もどう守っていくかが課題です。永続する地域のあり方を考え、食文化を紡いでいきたいです。

射水市内のアウトプットセッション

次に、射水市内で活動しているみなさんのお話を伺いました。
 

みなとキッチン・大坪史弥さん

みなとキッチンは「魚食で人を紡いでいくキッチン」がコンセプトの、お魚専門のシェアキッチンです。世界では生産量が伸びている水産業界ですが、日本では漁獲量も就労者も減少しています。縮小傾向にある水産との“関わりしろ”を見出してもらうきっかけとなる場を目指して誕生しました。
 
事業としては、チャレンジキッチン、ワークショップ、商品開発と販売の3つです。生産者と料理人と消費者、みんなが「魚を食べること」をテーマにフラットに繋がることができる機会づくりを行っています。チャレンジキッチンには県内外から出店があり、魚介類の仕入れのサポートもさせていただいています。必ず富山湾の魚をメインメニューにひとつ入れてくださいというルールを設けています。富山湾で獲れる魚の種類はとても豊富なので、どのお魚をどんな風に食べようかと会話を交わしながらメニューを決めていくのは面白いです。
 
今後は魚食ファンコミュニティをつくっていきたいです。富山県内だけでなく、全国の地域同士の連携を進めていきたいという想いで、めぐるめくプロジェクトに参加しています。地域同士の競争ではなく、食をツールに地域間が繋がって、みんなが楽しめると嬉しいですね。

パークマンサーさん

射水市出身で、富山を出て芸能界で活動をしていました。2002年に軟式globeとしてバラエティ番組に出演し、大ブレイクを経験したのもつかの間。いろんなことが上手くいかなくなり、家に引きこもる時期もありました。そんなときに野菜を育ててみようと思い立ち、家庭菜園から農業をスタートさせました。土と触れ合う生活を始めると、笑顔になれて心も体も健康になりました。憧れていた銀座のシャンパンより、耕したばかりのふかふかの畑の土の上で飲む水が本当に美味しくて感動したことが今でも印象に残っています。
 
現在は富山市で農業とつくった作物の商品化に挑戦しています。富山市が特産化を目指す富山えごまも育てており「えごま伝道師」としても活動をしています。
 
昨年からは、僕がオーダーメイドで野菜を育てて、無農薬・化学肥料不使用で除草剤も使わずに育てた安心安全な野菜をお届けする畑のサブスク「あぐりdeぱくり」を始めました。消費者のみなさんと、もっとコミュニケーションを交わしながら野菜を育てていきたいと思います。
 
日頃SNSを活用して農業を発信していて思うのは、食は言葉がなくても世界に伝わる共通のコンテンツだということ。もしかしたら僕が育てた野菜も、世界中に届くかもしれないと希望を抱きつつ、学びながら頑張っていきたいです。 

しろえび倶楽部・野口和宏さん

白えび専業で漁が成り立つのは、世界でも富山湾の新湊漁港と岩瀬漁港の2箇所だけです。しかし、白えびはまだまだ認知不足だと感じています。「世界で富山だけ」そして「持続可能な漁」というポイントを白えびの新しい価値として売り出していこうと、2020年4月に「富山湾しろえび倶楽部」を設立しました。
 
新湊漁港の白えび漁が持続可能である理由は「プール制」と呼ばれる獲り方にあります。8隻の船が4隻ずつ2グループに分かれて、1日おきに操業する方法です。
例えば、Aグループが漁に出ているときは、Bグループは待機して競りを手伝います。次の日は反対にBグループが漁に出て、Aグループが待機します。水揚げ金は2つのグループを合わせた計8隻で集約し、8隻で均等に割り当てる。これがプール制です。プール制は、過度な競争を抑制し、資源保護を最優先に漁を行えるというメリットがあります。
 
白えび倶楽部では、新湊の持続可能な白えび漁を発信するため、漁業者だけでなく消費者・行政・仲買人・飲食店のみなさんを巻き込んだネットワークづくりを目指しています。味わい・体験・参加の3つのテーマを掲げて、みなさんに漁を実際に見てもらう機会などをつくっているんです。白えびの美しさや美味しさを体感し、魅力の発信に参加してもらいたいと活動をしています。
 
最近は、持続可能な白えび漁を世界へと発信していくためにも「海のエコラベル MSC認証」の取得に向けて動き出しました。持続可能な社会づくりに、漁業を通して貢献していきたいです。 

ウニとやさいくるプロジェクト・角裕太さん

 私はミニトマトの栽培をしています。でもミニトマトは嫌いです!そんな私が食べられる唯一の品種だけを栽培しており、なかでもフルーツのように甘いミニトマトだけを「呉羽キャンディ」と名付けて販売しています。私がミニトマトの味がすると判断したものは販売対象から外れてしまいます。
私たちのようにこだわりすぎている農家だけでなく、一般的にも市場に流通する際には規格外野菜と呼ばれる廃棄野菜が出ており、生産された野菜のうち、20〜30%が廃棄されている現状です。
 
一方、海では、増えすぎたウニが藻場を食い荒らすことが原因で、富山県を含む8割近くの都道府県で藻場が衰退するといった磯焼けが問題になっています。駆除したウニは実が少なく、食用にするためには養殖が必要です。餌などの費用負担も大きくなってしまいます。
 
そこで、駆除したウニを養殖する餌として破棄野菜を活用することでフードロスを減少させる「ウニとやさいくるプロジェクト」を立ち上げました。漁業における新たな事業や、ウニと野菜による人と環境に優しいサイクルをつくることを目指しています。プロジェクトチームは氷見高校の生徒さんが中心となって、地域の農家や若手事業者のみなさんと一緒にウニの養殖の実証実験に取り組んでいます。
 
今後はウニの商品化に挑戦し、企業や団体を巻き込みながら食育などのプロジェクトを富山から全国、世界へ拡大させていきたいです。これからも農業を通してワクワクを創造し、提供し続けられるように取り組んでいきます。 

クラフタン・竹中志光さん

北前船が寄港していた歴史が残る富山県は、昆布の消費量が日本一です。食材を昆布で挟み、一晩置くと出来上がる「昆布締め」は富山の郷土料理として今も愛されています。
 
「昆布文化を次の世代に紡いでいきたい」という想いで、昆布締め専門の飲食店「クラフタン」を6年前にオープンしました。クラフタンでは、魚・野菜・肉・きのこ・豆腐などさまざまな食材を昆布締めとして提供し、地元の方や観光客の方にも喜んでいただいています。
 
さらに今年は、昆布で美味しく健康で美しくなることをテーマとした宿「昆布ハウス」をオープンしました。昆布料理や、昆布の出汁を使ったオリジナルカクテルを開発しています。お風呂・サウナ・エステなどにも、昆布づくしのコンテンツを用意している唯一無二の場所です。昆布の歴史を学んだり、昆布締めをつくったりするワークショップの開催も考えています。
 
腸内環境改善や免疫力アップなど、調べれば調べるほど身体にいいこと満載の昆布。その魅力や食文化をちょっと変わった角度からお伝えすることで、新たな層におもしろいと興味を持っていただけるきっかけになる施設にしていきたいです。 

お互いのシェアを終えて

消費者だけでなく生産者もハッピーになれるような仕掛けの模索など、共通項を感じながら課題を共有する場となりました。「お互いのリソースを活かし合えないかな?」など、共に活動を広げていこうという声もありました。
 
最後に、ご参加の方々に感想を伺いました。
 
射水市地域おこし協力隊 山田さん
県内プレイヤーのみなさんのお話でも知らないことが多かったです。移住コンシェルジュとして、射水を訪れる方にお伝えできることが増えました。みなさんの拠点に足を運んでみたいと思います。
 
EATLAB 瀬尾さん
射水市と小松市は、農業の規模や「有名な産品があるわけではない」という感覚が似ていると思いましたが、食をテーマにたくさんのプレイヤーの方がいらっしゃるので面白いですね。地域を越えてつながることで、お互いが抱える似たような課題をシェアできたことがよかったです。
 
東京在住 鈴木さん
東京から見て、富山は食の宝庫だと感じています。魚のイメージが強かったのですが、魚以外にも食材が豊富で、いろんなことチャレンジしてるんだなと改めて学びました。また、新潟での海水を使ったアクアポニックスのお話には驚きました。富山湾の海水でウニとミニトマトを育てることが実現できたら面白いなと、今までの常識を超えた気づきがありました。
 

<集合写真>

地域と食についての知識と想像が、ぐっと広がった食卓会議。これからも食卓会議は地域を超えた交わりを仕掛け、新たな気づきとアクションへと繋げていきます。
 
射水市のみなさま、ありがとうございました!
 
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めぐるめくプロジェクトは、日本全国の地域との共創・連携を模索していきます。
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イベント情報や最新の取組みについても今後更新予定です。
(めぐるめくWEBサイト)
 


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