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おどろけ!乾物屋さん【第2話】

「いきなり助けてください、と言われても困りますよ!」
健太はそう言って、慌ててアキラの手を振り解きました。

何をお願いされるか分かったもんじゃない。
そもそも、未来から来た、だって?そんなことができるはずがない。

こいつ、ちょっとイカれてるのかも。
だったら関わらない方が安全だ。

健太の言葉を聞いて、アキラはみるみるしょんぼりしていきます。
「あなたなら、きっと僕の願いを聞いてくれると思ったのになあ・・。
元々のエネルギーレベルは高いし、魔法の力を覚醒させられる才能があるのに・・。」

エネルギーレベル?魔法?
何言ってるんだこいつ。やっぱりイカれてる。

健太はそう思いましたが、アキラを見ると、どうにもかわいそうな気持ちになってしまうのも事実。
自分よりも明らかにイケメンでモテ指数が高そうな男をしょんぼりさせたのも、申し訳ないと同時に、実は少し気持ちがいい。
自分が心から必要とされているような気がして、久々に気分が高まるのも感じました。

そのとき、ふと、健太はいいことを思いつきました。

どうせ、こいつの悩みは店が繁盛しないことだろ。
売上を上げるためにどれでもいいから商品を買ってくれ、っていうお願いなんだろう。

だったら、最近仲良くなったSNSマーケティングの営業マンを紹介すればいい。そうすれば、見返りとして、生命保険に加入してもらえるかもしれない。
SNS運用代行の月額費用は高額だったけど、そんなことは知ったことか。
とにかく俺は、営業マンだ。全ての行動を、自分の営業に繋げる。
それで、温泉に行くんだ!

健太はアキラに言いました。
「話だけは聞いてあげるよ。僕は仕事が営業だ。いろんな人と繋がりがある。
だから、君の悩みを聞いて、誰か必要な人を紹介してあげられるかもしれない。」

健太の言葉を聞いて、アキラはその端正な顔立ちが光り輝いて見えるほどに笑顔になりました。
「話を聞いていただけるだけで嬉しいです!きっと、あなたのお役にも立てると思います!」

アキラはそういうと、健太にひとかけらの赤い乾物を差し出しました。

「まずはこれを召し上がってみてください。」

未来の乾物の魔法

アキラの手の上の乾物は、渦巻き模様がきれいな赤い小さなかけら。

「これは?」
健太の問いに、アキラはこう答えました。
「ビーツっていう、赤かぶの乾物です。」

かぶ?
こんな渦巻き模様のかぶなんて見たことがない。
それに、気のせいか、渦の部分から何やら光の煙のようなものが出ているような・・・?

誘われるように、アキラの手から乾物を取り、口に入れてみた。
ゆっくり噛んでみる。少し硬いが、噛んでいくと甘さを感じる。
かぶって、こんなに甘い味だったっけ?

すると、胸の真ん中の部分が暖かくなって、膨れ上がるような感覚がした。

胸の部分を見ると、ふんわりとした紫色の光の塊が浮いている。

「えっ!?なんだよこれ!?」

びっくりして後ろに飛び退くが、光も一緒についてきた。
どうやら健太の胸の部分から浮き上がっているようだ。

「なんだよこれっ!?」
怖くなって健太は叫んだ。このまま魂を抜かれちゃうんじゃないか?そう思ったからだ。

すると、アキラは静かな声で言った。
「これが、未来の乾物の力なんです。
このドライビーツは、あなたの心を写す鏡の魔法。」

健太が呆気に取られていると、アキラはそのまま解説を続けた。

「干しビーツを食べると、食べた人の心が「心を映す鏡」として外界に映し出されます。
この鏡は、食べた人の感情や思考を色と光の波動で表現します。
喜びや愛情などのポジティブな感情は温かく鮮やかな色彩で、悲しみや怒りなどのネガティブな感情は冷たく淡い色で現れます。

紫色は、不信の色。あなたは私を疑っていますね。」

「当たり前だろ!いきなり会ってすぐに助けてと言われて、はいそうですか、というほど俺はいい人じゃない。」
健太は焦って言った。本心だった。

すると、胸の部分の光が薄いピンク色に変わったではないか。
呆気に取られている健太にアキラがにっこり笑って言った。

「もちろんです。私はあなたが私を信用していないことを非難するためにビーツを食べてもらったのではない。
あなたが自分に嘘をつかないことで、あなた自身の健康が守られることを伝えたくて、試食してもらったのです。」

光の塊への驚きと、アキラが語る魔法の話に理解が追いつかず、健太が何も言えずに黙っているとアキラは続けます。

「多くの人が、自分の本当の気持ちとは違う行動をしているのが現代です。
だから、バランスが崩れて体が限界に達して、病気になってしまう。
病気で苦しむ人がとても多かった時代だと、大学の歴史の授業で学びました。」

アキラはきれいな顔をキュッと引き締めて言います。

「私は、この時代を食から変えたい。
この時代の人が、ひと本来のエネルギーを回復することで、結果として、未来の食糧危機を回避できると考えています。
そのためには、この時代の多くの人に乾物が持っている魔法のような力を広めなければならない。」

呆気に取られている健太を前にして、アキラは真剣な顔で続けます。

「僕を助けてくれる人が今日、この場所に来てくれることを、僕は知っていた。
それが、男なのか女なのか、人間じゃない生き物なのかはわからなかったけど。

君のようなまっすぐで正直な人が来てくれて嬉しいんだ。
どうか、もう少しだけ、話を聞いてくれないかな。」

未来から来たという彼の話が真実であるかどうかはわからない。
しかし、彼の目に映る切実な願いは、健太には無視できないものでした。

何より、彼の話に胸の奥がドクドクと、強く鳴り響くのが聞こえます。
もっとアキラの話を聞いた方がいいと感じている自分がいました。

「わかった。じゃあ、聞くだけ聞くよ。」
不思議な感覚を感じながら、健太はそう言ったのでした。

次回、アキラが語る未来の話をお楽しみに!


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