見出し画像

西京焼きでボヤ騒ぎ

アメリカに着いて1ヶ月程は夫の会社が手配してくれたホテルに滞在していた。洗濯機や冷蔵庫、調理器具などが完備されたタイプで、2ベッドルームのファミリー向け。お陰で中々快適にアメリカ生活をスタートすることが出来た。

ところで、アメリカのキッチンはなんというか、料理がしたくなるキッチンなのだ。

日本にいるときは、産後ということもあり、パルシステム様々であった。料理キットと肉・魚系の冷凍食品はパルシステムで、野菜系は徒歩1分の西友でサラダを購入。まな板と包丁を出すことさえ億劫で、大抵の食材は調理バサミで何とかなることを学んだ。気付けば一週間包丁を握っていないなんてこともざらであった。

そんなズボラな私が、アメリカに来てから毎日キッチンで包丁を握っているではないか。

外食は高く、便利な和食料理キットが無いという理由もあるが、何だか日本にいたときよりも料理に前向きになれるのだ。ディッシュウォッシャーがあり、料理の後片付けが楽で、大きいオーブンも完備されているので、何となくウキウキするのだと思う。

ズボラな私は意外にもお菓子やパンを焼く。お菓子やパンづくりは私にとって料理とは別モノで、精神統一の手段のひとつだ。夜中にパン生地をバンバンと無心になりながらこねると、なんだか心が落ち着く。
お菓子づくりはグラム単位できちっと計量して、お菓子づくりの約束事を守りながらきちっと作っていくと、確実に結果がかえってくる。上手くいかない時はどこかのプロセスでミスが発生しているので、その原因を探索し、打ち手を講じれば、美味しい成果に繋がる。
この過程がとても心地よいのだ。

さて話を戻すと、お菓子づくりをかじっている女子にとってビルトインの大きいオーブンはちょっとした憧れ。
恋い焦がれていたオーブンが目の前にあったら試したくなるものだ。

アメリカのオーブンには大抵2つの機能がある。お菓子やパンが焼けるBAKE、グリルのように使えるBROIL。
既にBAKEの方はサブレを焼いてみたので、その日はBROILを試そうと、分厚い豚ロースを西京漬けにして放り込んでみた。

アメリカは先達が沢山いるのでオーブンの使い方なんかも検索するとすぐに出てくる。ちょっと天井の電熱線と距離が近すぎるかなと思いながらも、”BROILする時はオーブンの上段に入れるべし!”とあった駐妻ブログの助言に忠実に従い待つこと数分。

コンロからゆらりゆらりと白い煙が上がってきた。(コンロの下にオーブンが設置されていて、オーブンの熱気がコンロの隙間から上ってくる構造。)
最初は「焼けてきたのかな。」なんて思い、換気扇をまわして悠長に構えていたが、どうも煙の濃さと量がおかしい。オーブンのドアを開けると、豚ロースからメラメラとオーブンいっぱいに赤い炎が上がっているではないか!

「これはまずいヤツ!」と瞬時に察知し、まずはスイッチをオフに。

しかし、オーブンを止めただけでは炎の勢いは収まらない。気付くと頭上からビービーとけたたましく火災報知器がうなり出した。もし直に消防署と繋がっていて、いきなり消防車がきてしまったらどうしようと動揺し、ドアと窓を開けて換気を開始。火が大きくなる前に消し止めないとと、消火活動を再開した。

この時点で豚ロースはまだ焦げきっておらず、ちょい焦げウェルダン。水をかけたら食べられなくなるかな、夕飯のおかずはどうしようかなと頭に過ぎったが、背に腹は代えられない。
次は大きなペットボトルに水を入れて、オーブンの中めがけて直接かけてみた。

き、、、消えた、、、、!!

煙はまだ部屋に充満しているが、火が消えると少し気持ちが落ち着いた。
今度は煙を追い出すべく、換気ルートを増強するも一向に火災報知器は止まらない。

息子を抱きかかえてフロントに出向き、火災報知器が鳴っている旨を伝えた。
フロントのお姉さんは息子を見て、「ベイビー超キュートね!係の人が部屋に行くから待っててね~!」と、物凄く軽い感じで応対してくれた。

夫も同僚に火災報知器を鳴らした話をしたら、「ああ、出張者がポップコーンでよくやるやつですね。」と言われたらしい。余談だが、アメリカのポップコーンは日本とは異なりレンチンタイプが主流。種類もめちゃくちゃ豊富だ。レンジには漏れなくポップコーンボタンが存在している。
私は火災報知器を鳴らして一大事だと思っていたが、どうやらここアメリカではよくあることらしい。

この時は火災報知器が鳴る=一大事だと思っていたので、些かフロントのお姉さんの対応にもやもやしながらも部屋に戻った。ビービー鳴っているのに係の人も全然来ないなと思っていると、暫くして火災報知器は無事鳴り止んで、その一時間後位に係りの人も到着した。「もう止まっているね~。」なんて言いながら、火災報知器が鳴ったら窓を開けて、火災報知器の周りを扇いで煙を感知させないようにするんだとアドバイスをして帰っていった。

何はともあれ息子に何もなくて本当に良かった。西京焼きもお焦げを取り除いて、何食わぬ顔で食卓に並べてみた。

後から叔母に聞いたのだが、ニューヨーク等の大都市は火災報知器が鳴ると消防車が来てしまうことがあるそうだが、郊外は火災報知器が消防署と繋がってないので大丈夫らしい。皆さんももしアメリカで火災報知器が鳴ることがあっても、ビビらず落ち着いて対応して欲しい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?