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他人の誘惑 | 読書『影響力の武器』前編

なぜ、人はあるパターンによって動かされるのか、時によっては騙されてしまうのか。これはどうも人間が長らくこの世界で生き抜くために培ってきた進化の証。

一つ一つの事象に頭を使って考えて答えを出している間に危機的状況に陥ってしまうことを防ぐために、頭で考えなくても行動が取れるようにと先人の知恵から身体に刻み込まれた行動パターン。

それは本来良い方向に活用すべきもの、だが現代社会においてはこれを自分の都合に良いように悪用されているのも実態。

著者はこの承諾誘導の技術を研究するため、訪問セールス、募金活動、広告マンに取材するだけでなく、教育プログラムに潜入して実際にそのノウハウの研修を受けたというからすごい。
だからこそこの本の内容はとても説得力があるし、具体的な例がたくさん詰まっていると読んでて感じた。

なぜ、私はこの本を手に取ったのか。
それは、本のタイトル通りに影響力を持ちたいから。ただ影響力を持ちたい、というところだけをみると何だか総理大臣にでもなりたいのか?と思ってしまうがそんな大きなことは思ってもいない。
ある年の年間目標を立てる際に、私の目標が具体的な内容に留まっていたことに気がついた。
英語が上手くなりたい、伝える力を磨きたい、問題解決能力を磨きたい、など。

そういった具体的な内容を「何で?」と問いて抽象度合いを上げていった。そうしたら、影響力という言葉にたどり着いた。

伝える力
↓なぜ?
コミュニケーション
↓なぜ?
魅力的な人になりたい
↓なぜ?
人の心を動かす人
↓なぜ?
影響力

そうして影響力という言葉を目標の上段に据え置いていた時期に、たまたまこの本が面白いよ!と会社の人がおすすめしていたのに触れて手にとってみた、というのがこの本との出会い。

この本の第一印象は、正直怖いと感じた。著者も上手いこと言うなあと。
武器というのは使うものの意図によって良くも悪くもなる。本に紹介されている例は結構悪用しているケースが多い。なのでどちらかというと、この本から受ける印象としては、世の中の悪い勧誘などに騙されないための処世術というのが真っ先に思い当たる。
要するに「取り扱い注意」ということだろう。意を決して内容を噛み砕いていく。

本書では誰かにイエスと言わせるための6つの原理が紹介されている。

返報性: 何かを受け取ると返さなければ、という心理
一貫性: 一旦買うと決めたら条件が変わっても買う
社会的証明: みんなが良いといっているものは良い
好意: 友達のおすすめは断りづらい
権威: 制服だけで信じてしまう
希少性: 期間限定、数量限定はつい買ってしまう

また6というのが何とも禍々しいではないか、と感じるところに私はすでに影響力の武器に翻弄されているのだろう。

この中から特にヤバい、と感じた項目について感想を書き出す。

第4章 社会的証明-真実は私たちに
この章は特に衝撃的な内容で強く印象に残る。社会的証明とは、他の人の意見や行動で物事を判断してしまう、という行動パターン。

例に挙げられているのは、バラエティ番組で乱用されている「笑い声」。あの機械的に追加された笑い声をウソだと分かっていても、人間はその場面を面白いと感じてしまう。他には、街頭インタビューを装ったコマーシャル。あたかも街中で突然インタビューをしてその商品を絶賛する、というパターン。当然これは役者さんが台本に沿ってただセリフを言っているだけに過ぎないのだが、人間は自分と同じような人の意見に影響を受けやすい、という傾向があるとのこと。

本来、社会的証明に反応するメカニズムというのは、人が不確かな事象にあった時や状況が曖昧な時に、瞬時に判断を下して危機的状況を回避するための進化の証。ただ、フィジカルなサバイバルを必要としなくなった現代においては、これを商売に利用するための擬似的な社会的証明が巷に溢れている。

このような誤った社会的証明に影響されないための方法は、
・自分と似ている他人による造られた証拠に対して敏感であること。
・他者の行動だけで判断しないこと。

著者曰く、こういったウソの社会的証明に自分が翻弄されている時は自分自身にも違和感を感じながらも流される、とのこと。なのでこういった時や、また常日頃から、状況の中にある他の証拠や客観的な事実、以前に体験したこと、そして自分自身の判断といった多様な判断軸を持っておくことが大事と説く。

みんなが同じように考えているときは、誰も深く考えていないときである。
ウォルター・リップマン | 影響力の武器 第4章冒頭より

この言葉を見た時に、これって「赤信号 みんなで渡れば 怖くない」というのも同じだなと。
赤信号を他の人が渡っているのを見た時こそ、自分の頭では警戒信号を発動し、自分の目で確かめて青になるのを待つ判断が出来るよう常に準備をしておきたい。

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