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超・親父 | 読書感想『とんび』

こんな親父になれるのだろうか…。
でもヤッさんみたいに真っ直ぐに子どもを愛することができたら、親父としてこれ以上の誉れはないな、と思えるほど人情味たっぷりなストーリーでした。

小説『とんび』は昭和の高度成長期からバブルを経てバブル崩壊後の平成の時代を生きるある親父ヤッさんの不器用だけど真っ直ぐな子育て奮闘記、といった物語。

ネタバレあり、で存分に私の感想を述べる。

時代背景が違うので、最初ストーリーに入っていくのが少々抵抗を感じた私。それでも、芯の所の親父道と言えばいいのか、ヤッさんの生き様だったり、親子の葛藤だったりの部分は時代が変われど普遍的な内容。ところどころで感動が押し寄せてきた。

私自身、我が子の親父として後悔のないよう接しているつもり。それでもこの『とんび』のヤッさんの親父の愛情にはかなわない。個人的には子育てを始めることになったお父さんの時期に出会いたい本だな、と感じた。それくらい、この本には親父として大事にすべき心意気が詰まっている。

子どもと過ごせる時間は意外と短い

中卒で就職するなら十五年間、高卒でも十八年間。万が一、都会の大学へ行くのだとしても、やはり十八年間しか、一つ屋根の下では暮らせない。家族といっても、一緒にいられるのはこんなにも短いんだ、と──ヤスさん、十数年後の親子の別れを思って、早くもしょんぼりしてしまうのだった。

重松清「とんび」23頁

このストーリーでは同じ屋根の下で暮らす時期はせいぜい18年、と定義されている。これもあっという間の18年になるなぁという感覚だ。でも実は子どもと関わる期間というのはこれより実際には短い。

私はそのことを早い段階で知れて本当に良かった。子どもがまだ数ヶ月の頃、児童館で開催された「パパと子どもと遊ぼう」みたいな会に参加した時。会も終盤になって最後の締めの挨拶で、その児童館の職員の方が話し始めた。
「今、オムツ替えに離乳食にお風呂に入れたり、いろいろ大変ですよねー。でも、この目の前にいるお子さんと過ごす時間って案外短いんですよ。大人になる20歳までかな?と思ってしまうんですけど、実際には10歳くらいになるともうパパよりも友達と遊んだり、自分で色々出かけたりと関わる機会が減ってしまうんです。そう、たった10年しかないんですよねー。なのでこの短い期間を大切にしてください」

という話を聞いて私は驚愕したのを覚えている。
30代の前半はそうとは言え、仕事に忙殺されて子どもとの関わりが少なかったが、この言葉を知っていたからこそ、週末は子どもと関わる時間をより大切にできたと思う。あの児童館の職員の方は本当に大切な話をしてくれた。

と、「とんび」からは脱線してしまったが、この物語でも子どもの成長はあっという間という描写が出てくるので、そんなことを思い出した。


親は海のように

「雪は悲しみじゃ。悲しいことが、こげんして次から次に降っとるんじゃ、そげん想像してみい。地面にはどんどん悲しいことが積もっていく。色も真っ白に変わる。雪が溶けたあとには、地面はぐじゃぐじゃになってしまう。おまえは地面になったらいけん。海じゃ。なんぼ雪が降っても、それを黙って、知らん顔して吞み込んでいく海にならんといけん」

重松清「とんび」97頁

美佐子さんを事故で失ったヤッさんとアキラ。アキラが幼稚園でお母さんの似顔絵を描く時間に心が乱れた。ヤッさんもヤッさんでどうしていいか分からず酒に溺れる。みかねた和尚が荒れ狂う海に2人を連れて行き、説教をするシーン。

親とはこの海のような存在であれ、と説く。母なる海とも聞くし、まぁ我々生命は海から生まれたのだから海に包まれる安心感みたいなものを想像しやすいのだとも思う。それでもなかなか海のような心で子どもと接するのは難しい。

子どもだって1人の人間。立派な人間。言うことを聞かないことがたくさんあって、もういい加減にしてー!なんてことはしょっちゅうある。そんな時に、ああまた子供にキツく当たってしまった、子供の気持ちを分かってあげられなかった、とただ後悔するのか。それとも「親とは海の心持ち」と思い、受け止める姿勢を整えるのか、その違いが大きいのかな、と感じた。

ふるさとは「逃げ場所」

「ケツからげて逃げる場所がないといけんのよ、人間には。錦を飾らんでもええ、そげなことせんでええ。調子のええときには忘れときゃええ、ほいでも、つらいことがあったら備後のことを思いだせや。最後の最後に帰るところがあるんじゃ思うたら、ちょっとは元気が出るじゃろう、踏ん張れるじゃろうが」

重松清「とんび」367頁

うちの親父もおんなじこと言ってたなぁー、とついジーンとしてしまった。

私が就職を機に上京する際、「まぁ、上手くいかなかったら帰ってくればいいだけだから…」という言葉で東京に行く踏ん切りがついた。

親っていうのは、こうやっていつでも一方的に子供のことを思っているっていうのがいいんだろうな。

以上、「とんび」の感想をツラツラと書いてみました。親としての愛情や子育ての葛藤が描かれているストーリーは、どの時代に生きていても共感できる。

そして、ふとした時に思い出す、実際には子どもとの時間は短く、大切に過ごすべきってことを。

また、親とは海のような存在であり、受け止める姿勢が重要と。

最後に「ふるさと」があれば何でもできる!

ヤッさん、感動をありがとう。

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