【全身麻酔中】痛みを判断する2つの軸
全身麻酔中
研修医
「心拍数と血圧があがったら患者さんが「痛がっている」っていうことですよね?」
麻酔科医
「基本はね。でもそうじゃないことも結構あるんだよ。」
例外もあるので、
総合的な判断が必要になります。
というのが前回の話でした。
今回は、
心拍数の上昇
血圧の上昇
が
本当に「痛み刺激」由来なのか?
その総合的な判断の仕方
についてまとめます。
(ちょっと長めの記事です。すみません、、。)
■2つの軸で考える(手術侵襲と鎮痛効果)
基本となる考え方の図です。
予測される
手術侵襲と鎮静効果が軸です。
わかりやすいのは
手術侵襲が大きくなって、鎮痛がうまくいっていない場合です。
このタイミングで
心拍数の上昇
血圧の上昇
しているなら「痛み」が原因といえるでしょう。
逆に
鎮痛はバッチリうまくできていて
手術侵襲はとても小さい場合
これは痛み以外の原因を考えることになります。
しかし
わかりにくい状況もあります。
鎮痛はうまくいっているつもりで
手術侵襲が大きくなったとき
鎮痛はあまりしていないけど
手術侵襲は小さいとき
このような状況のとき麻酔科医は
「本当に痛みが原因なのかな?」
と考えるわけです。
では次に
この判断の軸となっている
「手術侵襲の大小」
「鎮痛効果の成否」
について解説します。
■手術侵襲の大小を考える
手術侵襲の度合いを決める大きな要因は
2つあります。
手術している
部位とどのような操作をしているか
です。
これは意見が分かれます。
下に図でまとめてみました。
日頃
手術に立ち会い鎮痛をしている
個人的な麻酔科医の見解です。
補足で説明しますね!
- 手術部位
同じ刺激が人体に加わったとき
部位によってその侵襲度合いは違います。
個人的には
胸部 > 上腹部 > 下腹部 > 膝 > 腰
の順です。
が、実際にはもっと複雑です。
それぞれの部位で
神経が刺激されているのか、とか
筋肉が切断されているのか、とか
どの組織に侵襲が加わっているのか?
など考えなくてはいけない要素はたくさんあります。
- 手術操作
手術操作によっても侵襲は変わります。
個人的には
凝固止血 > 切開 > 剥離 > 圧迫 > 結紮
の順です。
が、これもまた複雑です。
使用するデバイス、モード、強度
など変数は多いです。
- 変化が大事
重要なのは
これらの要素を元に
「侵襲度合いがどう変化したか?」
を考えることです。
はじめの図でいうと
縦軸をどう動いているのか?
ということです。
これを予測するには
多くの経験が必要です。
考えるのに必要な要素が多いからです。
この能力は
多種多様な手術に立ち合い
バイタル変化をつぶさに見守る
麻酔科医の特殊スキルかもしれないですね!
■鎮痛効果の成否を考える
鎮痛の度合いは
効果の
範囲と強度をそれぞれ考えます。
- 範囲
硬膜外麻酔や脊髄くも膜下麻酔、神経ブロックなどの
区域麻酔を行う場合に重要です。
これらの麻酔は薬剤を入れた瞬間から
バッチリ効くわけではありません。
徐々に広がる麻酔です。
どのくらいの早さで、
どのくらいの範囲まで広がるか?
ここでは細かい説明をしませんが、
基本的には
薬剤濃度が濃い
薬剤量が多い
ほど
早く、広範囲に広がります。
そして徐々にその効果は弱まり
鎮痛範囲が狭くなっていきます。
これが手術部位を、
カバーできているか?
を考えます。
フェンタニルやレミフェンタニルなどの
静注薬ではあまり考えなくてもよい要素です。
- 強度
薬剤が手術部位をカバーできているとして、
その強度はどうでしょう。
充分侵襲に耐えられる状態ですか?
強度を決めるのは
薬剤の濃度と量です。
基本的に
濃いほど、量が多いほど
強い鎮痛効果を発揮します。
フェンタニルやレミフェンタニルなどの
静注薬では強度を具体的な数値で測ることができます。
薬物動態のシュミレーションソフトです。
最近は電子麻酔チャートの一部になっていますね。
ぜひ探してみて下さい。
投与量を入れると、
血中濃度がどのくらいか計算してくれます。
その昔はiphoneアプリでポチポチやっていました↓
Anestassist PK/PD
https://apps.apple.com/jp/app/anestassist-pk-pd/id325438803
どのくらいの濃度で
どのくらいの刺激に耐えられるのか
これを日々麻酔科医はインプットしています。
- やっぱり変化が大事
ここでも重要なのは
そのような要素を元に
「鎮痛効果がどう変化したか?」
を考えることです。
はじめの図でいうと
横軸をどう動いているのか?
ということです。
■さいごに
はじめの話に戻ります。
「総合的な判断で痛みを評価する」
の、中身は
予測される手術侵襲と鎮静効果を軸にして
- 2つの軸のどこにいるのか?
- それを決めるのに必要な要素はなにか?
を考えることです。
この予測精度を上げていくのが
麻酔科医のウデとも言えます!
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おつかれさまでした!
ここまでお読みいただきありがとうございます。
かなり長くなってしまいました😅
「ちょっとは役に立った」
「また読んでもいいかな」
と思った方、
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こんなところまで読んでくれたあなたは、
麻酔のことに相当興味があり
勉強熱心な方です。
「どうしてそうしたんだろう?」
麻酔科医が下す判断の一つ一つには理由があります。
気になりますよね?
このnoteがそれを紐解くための
一助になれば嬉しいです!
実はもっと体系的に
麻酔科医の「頭の中」を知る方法があります。
ベテラン麻酔科医の讃岐美智義先生が書いた
「やさしくわかる!麻酔科研修」です。
麻酔、その教育を知り尽くした著者が
麻酔の「考え方」をやさしく教えてくれます。
これから麻酔を学ぼうという方はぜひ手にとってみてください。
お読みいただきありがとうございます!頂いたサポートはコンテツ作成に還元していきます。よろしくおねがいします。