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特別支援学校からの発信「交流及び共同学習」

みなさんは交流及び共同学習という言葉を聞いたことがありますか。今回はそんな交流及び共同学習とその実践例の紹介をしていきます。

交流及び共同学習って?

交流及び共同学習とは、障がいのある子どもとない子どもが学校教育の一環として活動を共にすることです。相互の触れ合いを通じて豊かな人間性を育むことを目的とする「交流」と教科等のねらいの達成を目的とする「共同学習」とに分かれます。

そして交流及び共同学習は学習指導要領などにも明記されています。新学習指導要領における交流及び共同学習についてはこちらの文部科学省ホームページに解説されています。

【小学校学習指導要領】
(12)学校がその目的を達成するため,地域や学校の実態等に応じ,家庭や地域の人々の協力を得るなど家庭や地域社会との連携を深めること。また,小学校間,幼稚園や保育所,中学校及び特別支援学校などとの間の連携や交流を図るとともに,障害のある幼児児童生徒との交流及び共同学習や高齢者などとの交流の機会を設けること。
(小学校学習指導要領 第1章第4の2(12)より)
*幼稚園、中学校、高等学校の学習指導要領にも同旨の記述があります。
【特別支援学校小学部・中学部学習指導要領】
(6)学校がその目的を達成するため,地域や学校の実態等に応じ,家庭や地域の人々の協力を得るなど家庭や地域社会との連携を深めること。また,学校相互の連携や交流を図ることにも努めること。特に,児童又は生徒の経験を広めて積極的な態度を養い,社会性や豊かな人間性をはぐくむために,学校の教育活動全体を通じて,小学校の児童又は中学校の生徒などと交流及び共同学習を計画的,組織的に行うとともに,地域の人々などと活動を共にする機会を積極的に設けること。
(特別支援学校小学部・中学部学習指導要領 第1章第2節第4の1(6)より)
【障害者基本法】
第14条  国及び地方公共団体は、障害のある児童及び生徒と障害のない児童及び生徒との交流及び共同学習を積極的に進めることによって、その相互理解を促進しなければならない。
(障害者基本法より)

交流及び共同学習を進める意義

日本は障がいの有無に関わらず、誰もが相互に人格と個性を尊重し合える共生社会の実現をめざしています。

交流及び共同学習には多様な人が共に暮らす共生社会に向けて、障がいのある子ども、障がいのない子どものどちらにも意義があるものです。

在学中の子どもたちにとって、自分たちの普段とは違う場にいる人と関わることは、どちらにとっても、経験を深めることや社会性を養うこと、豊かな人間性を育むこと、さらにお互いを尊重しあう大切さを学ぶ機会になります。

また卒業後を考えると、障がいのある子どもたちの多くは地域で過ごします。そんな中で、交流及び共同学習を通して同じ地域で過ごすお互いを知っておくことは、様々な人々とともに助け合う力になり、積極的な社会参加に繋がります。もちろん災害時など存在を知ってもらっておいて助かったという場面もあるでしょう。

一方、障がいのない子どもたちも進学先であるいは職場で、友人や同僚、あるいはお客さんとして障がいのある人と出会うでしょう。今は障害者差別解消法が施行され、障がいのある人が当たり前に社会の中にいます。障がいは遠い世界の話ではありません。さまざまな場で出会ったときに自分はどうするのかを考える機会にもなってもらえたらと思います。繰り返しになりますが、そのためにはお互いに知ることがとても大切なのです。

どんなことをしているの?

僕は支援学校に勤務しています。支援学校では、交流及び共同学習は近隣の学校と行うパターンと、子どもたちが住んでいる地域の居住地校と行うパターンの2つがありました。

近隣の学校とは基本的に学部、学年単位で取り組みます。参加者も児童会や生徒会などお互いの代表者同士から全員まで様々です。内容もお互いに同じ授業を過ごす共同学習から、校内や文化祭・作品展の見学、または作品の出展、手紙やビデオレターのやり取り、部活動の体験など様々です。支援学校同士で行う場合もありました。

居住地校との取組みは、交流及び共同を希望する支援学校在籍の子が自分の住んでいる地域の学校と行います。内容は相手校の行事参加や支援学級あるいは通常学級との交流及び共同学習で授業体験を行う場合もあります。内容は本人や保護者の希望をもとに相手校と調整して決定します。盲学校は県に1〜2校が大半なので、居住地校が近くになく連絡調整が大変でした笑。

実践例は『交流及び共同学習ガイド』をはじめ、参考にしたサイトに掲載されているものを是非読んでみてください。

あまり言いたくはありませんが、担当者の熱量によって内容は大きく変わるのが現実です(支援学級と通常学級の場合も同じようです)。盲学校にいたときに、近隣中学校の生徒会が来校して、単発で視覚障がいスポーツや点字を体験し、代表の子が「視覚障がいって大変だと思いました」と言って返って行った交流は果たしてする意味があったのか…と今でも思います。

こんな交流及び共同学習学習であってほしいな

一方、今所属している支援学校は近隣の学校とこまめに連絡を取り、交流に向けて取り組んでいます。支援学校教員による障がい理解の出前授業や、教員向けの障がい理解講座の開催などが行われています。今年度はコロナの影響があり今までとは違う形になりましたが、3カ年計画で交流が教育課程の中に組み込まれています。

出前授業では交流の内容に合わせて、「支援学校の子どもたちとどんなふうに関わったらいいのか」を紹介しています。他校の実践例を学んだこともありますが、この事前学習がお互いの理解を進めていく上でとても大切だと思っています。

通常学校の子どもたち(だけでなく教員も)にとって、障がいは遠い世界にあって自分たちには関係のないものという認識があるかも知れません。アフリカの最貧国で飢餓に苦しむ子どもたちと同じような遠い世界の話ではなく、自分の身近な世界の話だと思ってもらうためにはなにが必要なのでしょうか。

1つは事前学習を通じて「なぜ交流及び共同学習をするのか」「障がいとはなにか」「どう接すればいいのか」など体験したり伝えたりすることだと思います。単にアイマスクでの視覚障がい体験などをするだけでなく、「見えないからどう工夫しているのか(どうすれば障がいは障がいでなくなるのか)」「なぜ見えないことが障がいになるのか(社会の在り方によって障がいは変わる)」などを考える場が必要です。そうして考えることが、実際に障がいのある人と関わるときにどうすればいいのかを考えることに繋がります。

盲学校時代、交流及び共同学習ではなく介護等体験実習の話です。学生さんに「免許を取るために必要だから来られているかもしれないけれど、障害者差別解消法もあるし、今の世の中は共生社会に向かって進んでいる。障がいのある人が当たり前に社会の中にいて、障がいは遠い世界の話ではない、みなさんもどこかで接する場面があるだろう。だから今回を単なる経験で終わらせるのではなく、『見えないからこそどんな工夫をしたらいいのかな?どんな工夫をしているのかな?』という視点を持って過ごしてほしいです」と伝えると、彼らの目の色が変わり、感想文にもそのようなことをたくさん書いてもらえた経験があります。自分自身がどうするのかを当事者の立場で考えることはとても大事だと思います。

もう1つは、交流や体験学習を通して、「障がいと呼ばれる部分はあってもみんな同じなんだな」という当たり前のことに気づくことだと思います。障がいのある人は、できない存在、周りの人が助けないといけない存在とは限りません。おなじアニメやゲーム、アーティストが好きな子もいるでしょう。例えばアイマスク体験では、視覚障がいの子たちはどうしたらいいのかを具体的に教えてくれる先生になります。ゲームで上手くいったときにお互いにハイタッチして嬉しかったという想いを共有できたら、次も交流したくなるのかな。そんなふうに今まで凝り固まめられたイメージの障がい者像を崩すことができたらなと思います。今の支援学校の共同学習の感想にそのような声があり、嬉しく思いました。

後は、そんな交流及び共同学習を作り上げていくための教員間の熱意が必要になります。それと、熱意だけに頼るのではなく、人事異動があっても継続できるような教育課程上の位置づけやモデル化、システム化、お互いの役割分担化が必要です。

交流及び共同学習については学習指導要領にも明記されているのですから、特に居住地校との交流については市町村の教育委員会が音頭をとってもいいんじゃないかなと思います。

まとめ

交流及び共同学習に限らずですが、やらなければならないからやるのではあまり効果はありません。交流及び共同学習を通してどちらもの子どもたちにどんな経験をして欲しいのか、どんなことを考えて欲しいのかを考えると、どんな事前準備が必要なのか、どんな取組み内容にすればいいのかの形ができてくるのでしょう。

今回は僕の学校の先輩方が行なっている交流及び共同学習の在り方が素敵だなぁと思ったので、こんな記事を書かせてもらいました(残念ながら今年度はコロナ禍のため来年通りの形では実施できませんでしたが)。

また障がい理解に関しては、障がいのある当事者だけでなく、自分も含めた社会がどうあるべきかを当事者意識をもって考えられるような、「どうしてこの人たちが困らなあかんの?おかしいと思わへん?」というような教育が必要というツイートを拝見して共感しています。

いずれにせよ、これからも子どもたちにとって実りの多い交流及び共同学習が増えていきますように。そしてこの記事が少しでもその役に立てたら幸いです。


参考にしたサイト

文部科学省「交流及び共同学習ガイド」

奈良県の特別支援学校と小学校・中学校・高等学校との『交流及び共同学習』実践事例集

交流及び共同学習実践ガイドブックVol.1(新潟県特別支援学校長会)

交流及び共同学習の推進に関する研究(平成 28〜29 年度)研究成果報告書(国立特別支援教育総合研究所)



表紙の画像はNewsweek日本版より引用しました。