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文字のフォントとポイントの話「えっ、ゴシック体で大きくするだけじゃダメなんですか??」

多くの見えている人は、普段あまり意識せず10.5ポイント(ポイントは文字の大きさのことです)のMS明朝体を使っていることが多いのではないでしょうか。これはWordの基本設定ですね。

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(画像は記者撮影より)

でも視覚障害者の中でも大半を占める弱視の人にとっては、明朝体が見にくい人も多いのです。また文字のポイントも大事です(大きければ大きい方が見やすいのか?実はそうではない場合があります。)今回は文字のフォントとポイントを説明したいと思います。

まずはフォントの話から。

1 フォントについて

代表的なものは明朝体、ゴシック体、教科書体の3つです。それぞれの特徴を説明します。

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(画像は保健師のまとめブログより)

1.明朝体

新聞や論文、小説の本文や、レポート、企画書、報告書などの資料などによく利用されているフォントです。横線に対して縦線が太く、横線の右端、曲り角の右肩に三角形の山(ウロコ)があるのが特徴です。トメ、ハネ、ハライがきちんとわかるようにデザインされています。晴眼(ふつうに見えていること)の方が長い文章を読むのに適しています。

2.ゴシック体

線が一定の太さではっきりしていて見やすく、ウロコがほとんどないのが特徴です。一般に弱視の方に見やすいフォントとされていて、僕の働く盲学校で作る資料は基本的にゴシック体です。PowerPointなどプレゼン資料を作る際にも、遠くからはっきり見えるので適しています。

3.教科書体

名前の通り教科書の文字として使用されるフォントです。明朝体近いデザインですが、一画一画の書き順がわかるようにデザインされているのが特徴です。

まとめるとこんな感じですね。

このような特徴から、弱視の低視力の方や白濁のある方には、太くてはっきりしている「ゴシック体」が見やすいことが多いです。

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(画像は伝わるデザインより)

ただゴシック体にも欠点があります。

1つ目は、線が太いが故に、「書」や「龍」と言った横線の多い文字で線と線の間がつまり、見にくくなるということ。

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(画像は記者作成より)

2つ目は、線を一定の太さにしたことで、トメ・ハネ・ハライがわかりにくいということ。

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(画像は記者作成より)

3つ目は、「な」のように本来別の画数の線がくっついてしまう、「山」の2画目のように画数がわかりにくい場合があること。「さ」や「そ」もフォントによって異なります。

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(画像は記者作成より)

4つ目は、一部のゴシック体では、ひらがなの「ち」と「さ」など区別がつきにくい文字が出てしまうこと。

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(画像はモリサワホームページより)

これらの欠点を理解しつつ、書字の際には明朝体や教科書体も活用してはどうでしょうか。

2 文章やスライドでの書体について

レポートや企画書、報告書などの資料では、ときに、数行、数十行に及ぶ長い文章を書くことがあります。このような長い文章(読む文章)には、明朝体などの「細い書体」が向いています。ゴシック体などの太い文字で長い文章を書くと紙面が黒々してしまうので、可読性が下がり、目にも大きな負担がかかってしまうからです。これは英文の場合も同じです。

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(画像は伝わるデザインより)

一方で、ポスターやスライドなど、一般に要点だけを端的に説明し、プレゼンテーションの補助的な役割をするも資料の文章は「読む」というよりは「見る」という意味合いの強い要素になります。このような文章では、可読性(読みやすさ)よりも視認性(遠くからでもしっかりと字が認識できること)が求められます。そのため、プレゼンスライドや学会発表のポスターなのでは、全体を通じて視認性の高いゴシック体やサンセリフ体を用いるのがよいようです。

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(画像は伝わるデザインより)

また文章のタイトルや小見出し、強調したい部分などは太字にしたり、視認性の高いゴシック体やサンセリフ体を用いるという方法もあります。

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(画像は伝わるデザインより)

詳細は伝わるデザイン「書体の使い分け」を読んでみてください。

3 UDフォントについて

また最近話題のUDフォントについても紹介します。

最近は株式会社モリサワのUDフォントが、2018年10月のWindows10アップデートにより自動でインストールされたことでも話題になっていますね。

UDフォントとは、誰もが使いやすいユニバーサルデザインの考え方から開発されたフォントです。例えば株式会社モリサワホームページでは、『モリサワUD書体は、「文字のかたちがわかりやすいこと」「読みまちがえにくいこと」「文章が読みやすいこと」をコンセプトに開発されました。』と説明されています。

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(画像はモリサワホームページより)

UDフォントというものの万能ではありません。UDフォントの中にも明朝体やゴシック体、教科書体などの種類があります。あくまでもそれまでの書体に比べてわかりやすく、読みやすいということなので、場面に応じて使い分けることを心がけましょう。

4 文字の大きさ(ポイント)について

続いて、文字の大きさの話です。

視覚障害者への配慮として、「文字は大きければ大きいほどいい」と思われている方も多いと思います。

確かに弱視の低視力の方や白濁のある方には、文字を大きくすることは有効です。

実際、16ポイントや22ポイントの拡大文字が、拡大教科書や試験問題などによく使用されます。

ただ視野障がいの方はこの限りではありません。視野は晴眼者の場合、上側が60度、下側が70度、内側(鼻側)が60度、外側(耳側) 100度です。

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(画像はパーソナルトレーナー清水広晃のブログより)

これが視野5度になると、腕を伸ばしたところのグー1個分くらいの範囲しか見えません(一度腕を伸ばしてグーにしてみてください)。

その範囲しか見えないのに、文字を拡大されると、一度に目に入る情報が少なくなりすぎてしまいます。

なので、視野が狭い場合は、文字を拡大すると逆に見辛くなる(小さい文字の方がいい)こともあるんです。

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(画像は記者作成より)

またポイントを大きくすればするほど一枚あたりに記載できる分量は減ります。つまり枚数が増えるのです(自作プリントなどで両面印刷が見にくい場合はさらに量が増えます)。

拡大教科書では、一冊の教科書を3冊に分冊することも珍しくありません(拡大教科書のページ番号とは別に、左上や右上に011-1のように通常教科書のページ番号が記載されています)。

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(画像は東書Eネットより)

かさばります。

重いのです。

なので、通常の教科書を拡大読書器やルーペを使用して読む、タブレット端末に教科書やプリントデータを取り込んだり、カメラで撮影して、拡大して読むという選択もあると思います。

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(画像はいけがみ眼科整形外科ホームページより)

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(画像はエッシェンバッハホームページより)

まとめ

いろいろと紹介しましたが、視覚障害の見え方は一人ひとり異なります。
目的や本人の見えやすさに応じてフォントやポイントを選ぶのが一番ということを覚えておいてください。

ちなみに僕が盲学校で5人クラスを教えていたときは、点字1名、14ポイント教科書体1名、16ポイントゴシック体2名、22ポイントゴシック体1名と自作プリントを個別に編集、印刷していました。

文字ポイントですが、A4用紙に16ポイントで作成し、B4用紙に拡大すると22ポイントの大きさになるのを知っておくと便利ですよ。

弱視の子への文書の注意点はまた紹介したいと思います。

また今回の表紙画像をはじめ、画像資料にはモリサワのフォント見本を使用させていただきました。


参考にしたサイト

伝わるデザイン 研究発表のユニバーサル

フォントだけでなく、色覚に配慮した配色、行間や配置など見やすいデザインなどについても解説されています。

眼科における視覚障害者への支援〜ロービジョンケア〜柳川リハビリテーション病院眼科・視覚リハビリテーション科 高橋 広


表紙の画像は株式会社モリサワから引用しました。