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特別支援学校からの発信『なぜ学ぶのか伝わってます?』

先日、外部の方から授業について学ぶ機会がありました。その中で考えたことについて、つらつらと書いてみます。

僕たち教員の側からすれば、学習指導要領や教科書の内容を教えるということは当たり前かもしれません。まぁそれが仕事ですから。

でも、視点を子どもたちの側に映してみると、学ぶというのはそう簡単な話ではありません。「なんでこんなことを学ばないといけないんだ」「将来の役に立たないだろ」と考え、勉強が苦手ならそんな思いは勉強しない理由になってしまいます。

もちろん学ぶことそれ自体が好きな子もたくさんいます。それに別に学ぶことが苦でもない子もたくさんいます。でもそんな子たちは大抵、「勉強ができる」側の子たちです(そして教員になる人のほとんどは勉強ができた側でもあります)。

僕が働く支援学校中学部の段階では、子どもたちに「なぜ学ぶのか、学んだことがこの先どう役立つのか」という学ぶ意義を伝え、本人が納得して学びに向かうのはとても大切なことだと思っています。なんせ地域の小学校6年間で学ぶことが嫌いになり、「勉強なんてしたくない、やる必要がない」と思って入学してくる子たちがたくさんいますから。

詩の授業でなぜ表現技法を使うのか

ある先輩の授業では、国語で詩について学んでいました。詩の授業の中では、比喩表現や反復法(繰り返し)、体言止め、倒置法、オノマトペ(擬音語、擬態語)などの表現技法を習い、詩を作る中でそれらの技法を使うよう指導します。

(画像は中学受験ナビより)

学習指導要領にあるから、教科書に載っているからただ漫然と教えるのでは、子どもたちに「なぜ表現技法を使わないといけないのか」の理由が伝わりません。

そもそも詩をはじめ、作文など書くことには『相手に伝えること』という目的があります。

相手に伝えるということを考えたときに、ただ場面や心情を描写した文章と、表現技法を駆使して描写した文章だと受け手の印象は随分と変わってきます。元の文章と表現技法を活用した文章を並べて子どもたちに印象を尋ねてみます。

(画像はみんなの教育技術より)

そうやって推敲を重ねていく中で、『自分が一番伝えたいこと』も明確になってくるのです。

そう子どもたちが理解するなら、表現技法はしなければならない義務や条件から、自分の伝えたいことを彩る筆や絵の具やクレパスに変わっていくのです。

なぜ表やグラフを学ぶのか

数学で扱う表やグラフについても同じです。

ずばり表やグラフのメリットはわかりやすさにあります。長い文章を聞いたり、読んだりするよりも、まだ見た瞬間に大小や変化の度合いがわかるのです(それだけに騙されないよう注意しないといけないのですが…)。

そして棒グラフ、折れ線グラフ、帯グラフ/円グラフにはそれぞれの特徴があります。

(画像はWingArc1stより)

それぞれのグラフの特徴を理解することで、伝えたい内容にあったグラフを選択し、相手にわかりやすく伝えることができるようになるのです。

法律や福祉制度について

憲法や法令と聞くと堅いイメージですが…
例えばお店で勝手に充電するのはオッケーでしょうか?友だちのものを借りたままでいてもいいのでしょうか?周りの友だちが言っているから「死ね」と言っても罪には問われないのでしょうか?

そんなことはありません。僕はなぜルールが必要なのか(逆説的にルールがなかったらどうなるのか?)を子どもたちと話し合った上で、生活上で知っておいた方がいい法律や条例について伝えます(こども六法をよく使います)。

たとえ口約束でも契約になる、法律を知らなくても罪に問われる、複数人でやったから罪が軽くなるということはないなんて子どもたちが聴いてドキリとするような内容も紹介します。

そんな学びを通して、「法律を知っておいた方がお得だ、いや、法律を知らないと困ったことになるかも」と子どもたちが気付くなら、学びに向かう姿勢も変わってくるはずです。

福祉制度もそうです。

今は保護者が全部やってくれてあるかもしれませんが、この先もずっとそういうわけにはいけません。働き出した後、親亡き後のことも考える必要があります。

それに福祉制度を紹介していく中で、特に料金の割引や無料で利用できる施設など役立ちそうな情報がどんどん出てきます。役に立つというのは子どもたちの学ぶ意義に直結します。

説得力のあるシチュエーション設定も

社会でお金について扱ったときに、学校周辺の飲食店やスーパーのチラシを集めてきて「1週間の昼食メニューを考える」という取り組みをしたことがあります。

子どもたちの中には、毎月定額のお小遣いを貯めて欲しいものを買っている子もいれば、親にお願いすれば無制限に欲しいものを買ってもらえる子もいます。少額だからとゲームに課金し、最終的に課金総額が何万円にも膨れ上がってしまった子もいます。

1週間の昼食メニューでは、それが1ヶ月になった金額や1年間になった金額も計算しました。すると子どもたちは「えっ…こんな金額に膨れ上がるの??」と驚きの表示です。1日1,000円なら1週間で5,000円、1ヶ月で2万円、1年間で24万円にもなります(メガネに勧められた豪華な昼食メニューでもっともっと高い金額の子もいました)。

以前の授業で百均でアルバイト従業員2人の給料を稼ぐためにいくつ商品を売ればいいのかを計算して(もちろん20個!とかではなく、仕入れ代や家賃、光熱水費、減価償却費なんていう難しい話もちょこっとしています)、「お金を稼ぐのは思っていたよりも大変だ」と意識している子どもたちにとってはこの1年間で24万円というお金の積み重ねのパワーは大きな驚きになったようです。

それがゲームの課金が気付けば高額になってしまうように、チリも積もれば山となるイメージを持ってお金に対する認識の変化につながればなと思いました。

(画像はマナミのつらつらブログより)

もうひとつ、作詩や作文などをはじめ先ほどの表やグラフなど伝えることが大事なのは言うまでもありません。でも、子どもたちの中には「別に伝えることなんてないし…」「伝えるの苦手だから…」と考えている子たちもたくさんいます。

でも今は一億総発信者時代、誰もがSNSで発信している時代です。例えばYouTuberになって動画配信するときに、「わかりやすく伝わる」ことが成功の秘訣の1つになります。「あなたがYouTuberならどうすればわかりやすく伝わるのか?」なんて場面を設定してみたら、自然とのめり込んでくれるかもしれません。

(画像はgori.meより)

単語で会話してしまい、助詞を使う練習をして欲しいなと思うような子には、例えばLINEのやり取りを見せて助詞のない単語だけのやり取りだと意図が上手く伝わらずにトラブルになってしまうかもしれないなんて例を示してみると「本当だ、助詞って大事なんだな」なんて考えてくれるかもしれません。

子どもたちが納得できるようなシチュエーションの場面設定も大切なのです。

楽しさを忘れずに

先輩の詩の授業では、タブレットを使用して画像から詩を考えたり、自分の考えた詩にあった画像を検索して貼り付けたりといった取り組みをされていました。

これが子どもたちの創作心に火をつけたようで、見学した授業では子どもたちは生き生きとした表情でタブレットを操作し、作詩を進めていました画像と合わさったそれは1つの作品になっていました。

こんな感じのイメージです

(画像はPinterestより)

タブレットを使ったことで自分のイメージに合った画像が探せる、あるいは画像を見てイメージが膨らむことを通して、子どもたちは積極的に創作活動に取り組んでいました。詩を作る楽しさに気づいていたんですね。

別の記事でも紹介しましたが、子どもたちが楽しみを発見したり、好きなことに関わったりするときのパワーにはものすごいものがあります。

子どもたちが楽しめる工夫も大事にしたいですよね。

まとめ

自分が授業をする時には「この学びがなにに繋がるのか、どう言う場面で役に立つのか」を伝えるようにしています。もう当たり前のように繰り返しているので、職場の同僚に指摘されたときに「えっ…みんなはやっていないんだ」なんて不思議に感じました。

思い起こせば採用されてすぐの若かりし頃に参加した研修会。そこで学ぶ意義を知ることがモチベーションになると聴いたことや、初任研で言語力の育成について学んだことが始まりなのだと思います。

盲学校時代は世界史や日本史を教えながら、「マルクス=アウレリウス=アントニヌスみたいなローマの五賢帝の名前や、御成敗式目(貞永式目)なんて言葉を覚えたところで生きていく上でたいして役には立たない…でも、授業で繰り返す「なぜこの出来事が起きたのか(なぜこうなったのか)」「その出来事が具体的にどう進んだのか」を知って、自分の言葉で説明できる力をつけることは絶対に役に立つから」と授業の最後に振り返りノートを書いてもらい、毎回コメントを返していました。高等部で進路に携わり、就労先で働くため、大学などの進学先で学ぶために何が必要なのかを考えたことも今の自分に大きく影響しているのだと思います。

今は知的障がいの支援学校で国社数理英の5教科や道徳など生活と直結する内容を教えています。なので「この学びがなにに繋がるのか、どう言う場面で役に立つのか」と子どもたちに伝える機会は増えました。

先輩の研究授業から、そんな当たり前のような取り組みの大切さを再認識し、紹介してみました。

今回の内容が、教える側の立場の方や、子どもたちの学びに向かう姿勢のお役に立てば幸いです。



表紙の画像は、シングル&ワーキングママのぽんちゃん日記より引用しました。