特別支援学校からの発信「ボトムアップとトップダウンの視点」
今回は子どもたちの支援にあたって役に立つ、ボトムアップとトップダウンという2つの視点について紹介していきます。
ボトムアップってどんなもの?
ボトムアップは、「下から一つずつ積み上げていく」という意味です。
会社経営などでは、現場からの提案(意見やアイデア)を基にして、トップが「組織としての意思決定」を行う管理方式のことをいいます。
(画像はThe起業&飲食経営より)
支援教育でいうボトムアップは、その子の実態(現状)からスタートする考え方のことです。
・できるようになりたい目標に対して、その子の能力がコツコツと積み上がっていくようにフォローしていく支援
・子どもの実態(発達段階)を考え、その段階にあった支援を行う指導
なんて言うとイメージできるでしょうか。
その子の現在地からスタートし、スモールステップで積み上げていくこのボトムアップは、特別支援教育では馴染みのある方法だと思います。
実態に合わせて必要なスキルを身につけていく、ソーシャルスキルトレーニングなどもこのボトムアップの考え方です。
具体的な例としては、字を書くことが苦手な子に対して、点つなぎや点図形で運筆の練習をする、視覚的なイメージで字の形を覚えられるようにする、眼球運動のビジョントレーニングをするなどの支援を通して、その子のつまずきの原因を分析し、その子自身が字を書くために必要な力をコツコツと鍛えていくといった感じでしょうか。
トップダウンってどんなもの?
トップダウンとは、「上からの要求に従う」という意味です。
会社経営などでは、「トップ(会長・社長・役員など)」が「意思決定」を行い、下の構成人員へと指示を流し、下層部(現場)がそれに基づいて行動していく管理方式のことをいいます。
(画像はThe起業&飲食経営より)
支援教育でいうトップダウンは、就労や生活、学習などで必要となる事柄からスタートする考え方です。
・環境を整えたり器具や周囲の人の力を借りたりすることで、できるようになりたい目標が最短ルートで実現されるようにフォローしていく方法
・その年齢に要求されるレベルに合わせて、指導を行う。もしくは、大人になったときに必要なことを考えて(逆算して)、そのための指導を行う方法
などと説明するとなんとなくイメージできるでしょうか。
例えば、自転車に乗ることを考えたときに、先程のボトムアップの視点なら、筋力やバランス感覚を鍛えてから自転車に乗り始めようとするでしょう。トップダウンの視点は、とりあえず自転車にのる練習をしていく中で、筋力やバランス感覚を覚えていくといった感じでしょうか。
特に高校(高等部)や大学からの進路を考えたときに、就労での作業やコミュニケーション、スケジュール、家庭生活での買い物や片付け、金銭管理、家事など必要なスキルをどうしていくのかといった課題が出てくることが多いでしょう。そのために必要なスキルを絞り込み、逆算して、早い段階から取り組んでいこうというライフスキルトレーニングやキャリア教育などはこのトップダウンの視点に立ったものであると言えるでしょう。
ちなみに、こちらのライフスキルトレーニングの本は、各年齢で身につけておいた方がいいライフスキルの一覧表などがあり、トップダウンの視点が学べるおすすめの本です。
ボトムアップとトップダウンの関係
支援が必要な子たちは、このボトムアップとトップダウンの2つの間で困難な状況になる場合があります。
どちらの視点も大切ですし、その間で揺れ動き悩んでしまう支援者や保護者の気持ちもよくわかります。
徐々に変化していく割合
このボトムアップとトップダウンの悩みはなかなか解決しませんし、子どもたちの年齢や発達段階によっても異なります。
幼児期〜児童期の小学部段階では、子どもの実態に合わせた課題を設定し、能力を高めたり新たなスキルを獲得していく、ボトムアップの支援が中心になると思います。
高等部段階では、卒業後の進路が目前に迫り、就労や社会生活に必要な力をつけるというトップダウンダウンの支援が必要不可欠です。
中学部はそのボトムアップとトップダウンの切り替えの時期で、子どもの力を伸ばしつつ、就労や社会生活に向けた具体的な方策についても考えていかないといけません。
このような考え方の違いから支援学校における学部間の縦の連携の難しさがあります。
このボトムアップとトップダウンの支援は、特定の時期で分かれるのではなく、徐々にその割合が変化していくものです。
(画像はBOZAN NOTEより)
特に小学部や中学部段階で、トップダウンの視点を持たずに子どもの実態だけを考えたボトムアップの支援を重ねていると、高等部で進路を考えたときに実態と現実のギャップに子どもたちが苦しむかもしれません。なので早い段階からトップダウンの視点を持っておく必要があります。大きくなれば自然とできるようになるとは限りません。
もちろん将来の進路ばかりみて実態に合わない、能力を超えた課題を押し付けすぎると、子どもの負担が大きくなり過ぎてしまうかもしれません。
ボトムアップとトップダウンのバランスが大切です…なかなかそのバランスは難しいのですが。
また青年期以降は、もっている能力からできる活動を設定していくリハビリテーションの視点も大切になってきます。
道具や環境を整えるという方法
ボトムアップかトップダウンかだけでなく、必要な課題に対して、道具や環境を工夫して対応するという視点も大切になります。
例えば、字を書くのが苦手な子が漢字学習に取り組む際、問題を選択式にしたり、パソコンやタブレットを使用したり、漢字カードを組み合わせて考えたりといった方法です。
(画像はオレンジスクールより)
それ以外にも、暗算が難しければ電卓を使う練習をしてもいいでしょう。最近はスマホのアプリがあるので持ち運びに不自由しませんし、レシートの写真を撮るだけで家計簿をつけてくれるアプリもあります。
(画像はTIME&SPACEより)
食事を考えたときに、自分でスーパーへ食材を買い物に行き調理するというだけでなく、冷凍食品やインスタント食品を利用してもいいですし、ヘルパーさんに買い物と料理を任せても、宅配サービスを利用してもいいでしょう。
僕自身、過去に自立活動の授業で給湯器を使ってカップ麺を食べる方法や冷凍食品を電子レンジで温めて食べるといった取り組みをしたこともあります。
(画像は医療人材ネットより)
移動が難しければ、移動支援や同行援護を利用したり、送迎サービスのある事業所を検討してもいいかもしれません。
そんな風に環境を整えたり、便利な道具を使ったり、制度を活用することで、それまでの課題が違って見えてくるかもしれません。
まとめ
ボトムアップとトップダウンという視点と、課題を乗り越えるために環境や道具を工夫するという視点についてお話ししました。
もちろん、子どもによって得意不得意の凸凹はありますし、実態が違えば目指すゴールも異なります。
このボトムアップとトップダウンの匙加減はとても難しく、僕自身も日々悩みながら子どもたちの課題や関わり方、環境調整を考えています。
過去には高等部で進路を目前にした危機感から厳しすぎる指導をしてしまい反省したことがあります。一方で、幼稚部や小学部の先生方へ進路についての話をしたり、一緒に施設を見学したこともあります。
僕自身はボトムアップに寄りながら、課題を楽に解決できる工夫を考えたいなと思っている派なのですが、同時にトップダウンの視点の大切さも理解しているつもりです。
そんなボトムアップとトップダウンの両方の視点を持つことが、日々の子どもたちとの関わりや支援に繋がればと思います。
参考にしたサイト
②オレンジスクール「支援の方法ーボトムアップとトップダウン」
③自閉症療育・支援フレームワークBOZAN NOTE!!「IEPとITPさらにIHPで考える教える内容(課題設定)/自閉症教育・支援」
④TEACHER'S JOB「スモールステップで教える方法と、子どもの意欲を生かして教える方法どちらが良いか? 〜トップダウンとボトムアップの違いを考える〜」
表紙の画像はLAFOOL SURVEYより引用しました。