書籍紹介『マイノリティデザインー弱さを生かせる社会をつくろう』
『マイノリティデザインー弱さを生かせる社会をつくろう(澤田 智洋)』という本の紹介です。
この本に出会ったのは、「タイプライターはなぜ作られたか知っていますか?」というツイートからでした。
冒頭の質問の答えは、この本のはじめにで紹介されています。
話は変わって、19世紀のこと。
イタリアに住むエンジニア、ペッレグリーノ・トゥーリは、恋人と文通がしたいと思いました。でも、その恋人は視力を失いつつあり、紙に文字を書くことができませんでした。そこでトゥーリは、ある機械を発明しました。大切な人のために。そして、自分のために。
その発明は「タイプライター」。
タイプライターはのちにパーソナルコンピュータの「キーボード」へと進化し、視覚障害者だけではなく、今日の僕らみんなの暮らしを支えています(この本だって、キーボードによって打ち込まれ、つくられたものです)。
著者の澤田智洋さんはコピーライターとして働かれていました。そして生まれた息子の目が見えないことがわかります。
終わった、と思った。
見えない子って、どうやって育てたらいいんだろう。恋愛ってするのかな。幸せなんだろうか。その日から、仕事が手につかなくなりました。
僕の主な仕事は、映像やグラフィックを駆使して、広告をつくることです。それってつまり、僕がいくら美しいCMをつくったとしても、視覚障害のある息子には見ることができないということ。
「パパどんなしごとしてるの?」と聞かれたときに、説明できない仕事をやるのはどうなのか。僕がやっている仕事なんて、まったく意味がないんじゃないか。
なにをすればいいんだろう?どう働ければいいんだろう?32歳にして僕は、今まで拠り所にしていたやりがいをすべて失いつ、「からっぽ」になってしまったんです。
そこから澤田さんは、息子さんとの向き合い方を探すために、200人を超える障害当事者を訪ね、出会い続けます。その中で、片手で使えるライターと曲がるストローは、「障害のある人と共に発明された」というエピソードに出会い、「できないことがあるのは当人のせいではない。社会の方を変えればいいんだ」と思うようになります。そしてブラインドサッカーの体験会に参加し、「OFF T!ME(オフタイム)」というネーミングを提案し、「OFF T!ME」は日本ブラインドサッカー協会の収益の柱のひとつにまで成長します。「OFF T!ME」の名付けの親が澤田さんだったなんて。
この仕事が、いちクリエイターとしても、息子の親としても、ターニングポイントになりました。「目が見えない」という、ある意味での「弱さ」が、見方を変えると新しい価値になることを目の当たりにしたからです。
…
でもマイノリティだからこそ、社会のあらゆるところに潜んでいる不完全さに気づくことができるかもしれない。「ここ、危ないですよ!」「もっとこうしたほうがいいですよ!」と、その穴を埋めることで、健常者にとってもより生きやすい世界にが変えることができるかもしれない。
だからこそ、「弱さ」という逆風そのものを、追い風に変えたい。そしていつか、「弱さを生かせる社会」を息子に残したいー。
「マイノリティデザイン」ーマイノリティを起点に、世界をより良い場所にする。このちょっと仰々しい言葉が、僕の人生のコンセプトになりました。
そこから澤田さんの怒涛のプロジェクトラッシュが始まります。
福祉アイテムである義足を、ファッションアイテムに再解釈する「切断ヴィーナスショー」。
(画像は毎日新聞より)
視覚障害者が「横断歩道を勇気と度胸と勘で渡っている」という話を聞いて開発した、ボディシェアリングロボット「NIN_NIN(ニンニン)」。
(画像はsoarより)
ユナイテッドアローズと立ち上げた、ひとりの身体障害者の悩みから新しい服をつくるレーベル「014(ALL FOR ONE)」。
(画像はUNITED ARROWSより)
障害者だけでなく、高齢化する社会を逆手にとった音楽グループ「爺-POP」のプロデュース。
(画像は電通報より)
脈絡のないように見えるかもしれませんが、どれもこれも「マイノリティなもの・人・悩み」からスタートしたプロジェクトです。澤田さんはそんなプロジェクトを通して、マイノリティとは「今はまだ社会のメインストリームには乗っていない、次なる未来の主役」、つまり「社会的弱者」という狭義の解釈ではなく、「社会の伸びしろ」だと考えるようになります。
そして澤田さん自身の中にあった「極度の運動音痴」というマイノリティから、「スポーツ弱者(Sports Mimority)」という言葉を考え、「スポーツ弱者を、世界からなくす」ことをミッションに世界ゆるスポーツ協会を立ち上げます。
ハンドソープボール、イモムシラグビー 、ベビーバスケ、スピードリフティング、顔借競争、ハンぎょボール…どれも「勝ったらうれしい、負けてもうれしい」「運動音痴の人でもオリンピック選手に勝てる」「健常者と障害者の垣根をなくした」新しいスポーツです。面白そうじゃありませんか?
(画像は世界ゆるスポーツ協会より)
僕自身もこのnote記事で、盲学校からの発信や特別支援学校からの発信をしているのも、マイノリティへのその配慮がみんなに役立つものでもあると感じているからです。
そんな澤田さんの軌跡やそれぞれの場面で考えたことを読むとワクワクが止まりません。「弱さ」を生かせる社会に向けた一歩を踏み出すためのヒントを探すため、なによりもワクワクを感じるために、おすすめの一冊です。
表紙の画像はAmazon.co.jpより引用しました。