書籍紹介『子ども・クラスが変わる!ソーシャルスキルポスター』
『子ども・クラスが変わる!ソーシャルスキルポスター(イトケン太ロウ)』という本の紹介です。
ソーシャルスキルの般化の難しさ
ソーシャルスキルとは、コミュニケーションやルールの理解、感情の理解/コントロールなど、対人関係や集団生活など社会(ソーシャル)の中で暮らしていくために必要となるスキルのことです。
障がいのある子たちの中には、周りの様子を見て学んだり、自分の状況を読み取ったりすることが苦手な子がいます。そんな子たちに、スキルを1つずつ訓練して身につけていこうというのが、ソーシャルスキルトレーニング(SST)です。
ソーシャルスキルトレーニングについては別の記事で紹介しています。
このソーシャルスキルトレーニングですが、学んで練習したスキルを普段使いできるようになること(般化といいます)が目的ですが、この般化の段階がとっても難しいんです。
ASD傾向のある子たちの中には、ある場所で習ったものを別の場所でもやっていくといった活用や応用が苦手な子がいます。他にもスキルを学ぶ意味がわからなかったり、具体的な言動を忘れてしまったり、せっかく学んでも「恥ずかしいからみんなの前ではやりたくない」なんて子もいます。
この般化の難しさはいろんなところで耳にします。
ソーシャルスキルをアイテム化する
この本のすごいところは「ソーシャルスキルをアイテム化した」ところです。わかりにくいと思うので、具体的に説明してみます。
例えば「今やってることを止めて、こちらを向いてください!」と声をかけて、こちらに注目してもらうことはよくあるかと思います。実際に注目するときの視線や正しい座り方などもソーシャルスキルトレーニングの一環として練習するかもしれません。
でも、説明が長いとイメージしにくいですし、聞いてすぐピンとこない子もいます。そんな子たちにソーシャルスキルポスターを使って、「今やってることを止めて、気持ちを切り替えて、相手の方を向くのがきりかえフラッシュだよ」とイラストと一緒に示すと、子どもたちはすぐに「ことば(きりかえフラッシュ)」と「イメージ(具体的な行動〈今やってることを止めて、気持ちを切り替えて、相手の方を向く〉とイラスト)」が結びつきます。
(画像はTwitter@Toyokan_Shuppanより)
「きりかえフラッシュ!」の言葉だけで、すっと行動できるようになるのです。静かにしてほしいときの「おくちチャック!」や、座る姿勢の「グーペタピン!」といった合言葉みたいなイメージでしょうか?
(画像はドラえもんひみつ道具完全大図鑑より)
(画像はみどりの学園義務教育学校より)
そしてそんなアイテムをゲットする(般化:普段使いしていく)ために進んで取り組んでいくようになるのです。
本に載っていた、子どもたちが「できない」のではなく「まだアイテムを持っていないだけ」という表現もすごくいいですよね。
アイテムをゲットすることゲーム感覚で、普段の生活の場で取り組んでいけるのです。
どんな種類のアイテムがあるの?
本には35項目のアイテムがあり、それぞれ低学年(ホップ)→中学年(ステップ)→高学年(ジャンプ)の3段階があります。
(画像はTwitter@Toyokan_Shuppanより)
「はやおしあいさつ」「きりかえフラッシュ」「きにしないシャッター」「やらねばエンジン」「えがおカウンター」「ゆずりゴコロ」などなどキャッチーなネーミングでワクワクしてくるアイテムがたくさんありますよね。イラストとセットのポスターが掲示してあるとすぐにどうするのかのイメージが湧いてきます。
本にはアイテムのポスターと読み聞かせのことばの例、ポイント、注意点が掲載されています。また付属のCD-ROMにはポスターと説明文のPDFデータが収録されています。
(画像はAmazon.co.jpより)
オリジナルのアイテム/ポスターづくり
付属のCD-ROMを使ってオリジナルのポスターも制作可能です。
葛飾区立新宿小学校のホームページには、週目標で活用しているオリジナルのソーシャルスキルスキルポスターが掲載されていました。
(画像は葛飾区立新宿小学校より)
実際にやってみると…
僕のクラスでは相担任の先生が中心となり、このソーシャルスキルポスターをクラスの月目標にしてトークンと組み合わせて取り組みました。
すると、驚くべき効果が発揮されました。子どもたちにとって、このソーシャルスキルポスターの内容は直感的になにをすればいいのかがイメージしやすかったようで、こちらの「きりかえフラッシュやでー」の言葉かけで、すぐに手を止めて前を向き、気持ちを切り替えているではありませんか。
それだけでなく、友だちへ「●●くん、きりかえフラッシュやで」とアドバイスしてくれる場面も増えてきました。つい「●●くん、できてない!」とチクチク言葉を使ってしまう子には、具体的なアドバイスの伝え方にもなったようです。
それだけでなく、お家で朝眠くてやる気が出ないときにも「きりかえフラッシュ!」をマジックワードのように使って、気持ちを切り替えてくれる子もでてきました。
月の終わりには、スキルをゲットできたかどうかや「どんな場面で使えたか」を振り返りました。月目標が終わっても、はやおしあいさつや、きりかえフラッシュなどに継続して取り組めている子たちがたくさんいます。
子どもたちにとって、このソーシャルスキルポスターは、「ことば(きりかえフラッシュ)」と「イメージ(具体的な行動〈今やってることを止めて、気持ちを切り替えて、相手の方を向く〉とイラスト)」が結びつき、イメージしやすいようです。
またクラス全体で取り組むことで、お互いに声をかけあってスキルを活用していくサイクルが生まれました。学校生活の中で活用していくので、普段使い(般化)にも繋がりやすく、子どもたちが便利さに気づくことで、活用の場面がさらに広がっていくのです。
子どもたちのコマンドを増やす
僕が働く支援学校には、上手く伝えることができずに怒って暴れたり、構ってほしくて友だちにイタズラしたり、納得できないことを示すために座り込んだり、何事にも全力で取り込みすぎてしんどくなってしまったりする子たちがたくさんいます。
彼らの多くは今までの経験から得てきた選択肢、RPGゲームのコマンドみたいなものがそれしかなく、他のコマンドがあることやそのコマンドの使い方を知りません。やらないのではなく、他のコマンドを知らない、上手く使えないのです。
「たたかう(がんばる)」だけでなく、「とくぎ」や「じゅもん」、「どうぐ」を使ったり、「なかま」を頼ったり、「さくせん」をかえたり、ときには「にげる」ことも大事です。僕はソーシャルスキルトレーニングはそんな彼らのコマンドを増やしていくためのものだと思っていました。
(画像はげーむのせつめいしょより)
「なんでできない(やらない)んだ!」と叱ることは簡単ですが、それではなにも変わりません。具体的にどうすればいいのかを彼らと一緒に確認し、試し、その有効性を彼らが納得してからはじめて彼らのコマンドになっていくのだと思います。
この本『ソーシャルスキルポスター』は、ソーシャルスキルをアイテム化して、増やしていくRPGゲームのような発想で、僕の思っていたコマンドを増やしていくイメージにピッタリでした。特に子どもたちが「できない」のではなく「まだアイテムを持っていないだけ」という表現は僕のお気に入りです。
コマンドやアイテムを使っていく中で有効性に気づき、普段使いして使う場面が広がりスムーズに使えるようになっていき、やがて自分のものにする。そんな良さがあるのです。
まとめ
僕のクラスではとっても効果があり、ぜひぜひ紹介しようと思って記事を書いてみました。
もちろん全ての子どもたちにピッタリ合う訳ではありません。「恥ずかしいからやりたくない」なんて言う子もいるかもしれません。
でも僕の関わった子どもたちのように自分から積極的に活用し、その活用がどんどん広がっているくようなすごいパワーがこのソーシャルスキルポスターにはあります。キャッチーなアイテム名やイラストが「●●をするんだ」というイメージや意識につながるからだと思います。
本にもありましたが、大人が「●●しなさい」とさせるのではなく、子どもたちがゲーム感覚でトライ&エラーを繰り返しながら取り組んでいく魅力がこのソーシャルスキルポスターにはあります。
気になった方はぜひ本を手に取ってみてください。
表紙の画像はAmazon.co.jpより引用しました。