書籍紹介『自立活動指導書』
『自立活動指導書ー視覚障害のある幼児児童生徒のためにー』という広島県立広島中央特別支援学校(旧広島県立盲学校)が作成された冊子を紹介します。別冊として点字研修資料と歩行研修資料もあります。
冊子はこちらの学校ホームページからPDFデータが無料でダウンロードできます。
(画像は広島県立広島中央特別支援学校より)
衝撃の一冊
この冊子は、製本されたものが全国の盲学校に届けられました。当時、盲学校の伝統的な歩行・点字・弱視レンズだった自立活動の取り組みに対して、「生徒の実態に合わせて、日常生活やソーシャルスキルトレーニング(SST)、ICT関連の内容を取り入れた方がいいのではないか」や「自立活動の時間だけでなく、各教科の中で自立活動的な内容を取り入れられないか、教科の目標だけでなく、自立活動の目標も個別の指導計画に載せてもらえないか」と訴えて、どうすればいいのかを悩んでいた僕にとって、まさに『衝撃』の冊子でした。
「取り組もうと思っていた内容や実践例の説明、生徒の実態把握のためのチェックリストまで載っている…自分でやらなくていいやん。この本を使おう、広めよう」そう強く思いました。地区盲学校の研究会で他盲学校の先輩も全く同じことを言っていました笑。
少し自立活動についての説明を
「自立活動」というのは馴染みのない言葉かもしれませんので少し説明します。自立活動は障害がある児童及び生徒が自立を目指して、教育的な活動を行う指導領域で、特別支援学校と、それ以外の学校に設けられている特別支援学級、及び通級指導教室等で設定されます。自立活動の学習指導要領もあります。
内容については6区分27項目があります。これはそれぞれ個別に取り組むと言う訳ではなく、それぞれが関連し合っています。例えば歩行なら、環境の把握も身体の動きもコミュニケーションも関わってきますよね。その目的や内容について学習指導要領より引用します。また改定された学習指導要領には障がい種別ごとの具体例が掲載されています。自立活動についてはまたどこかでお話しできればと思っています。
第1款 目標
個々の生徒が自立を目指し,障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服するために必要な知識,技能,態度及び習慣を養い,もって心身の調和的発達の基盤を培う。
第2款 内容
1 健康の保持
(1)生活のリズムや生活習慣の形成に関すること
(2)病気の状態の理解と生活管理に関すること
(3)身体各部の状態の理解と養護に関すること
(4)健康状態の維持・改善に関すること
2 心理的な安定
(1)情緒の安定に関すること
(2)状況の理解と変化への対応に関すること
(3)障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服する意欲に関すること
3 人間関係の形成
(1)他者とのかかわりの基礎に関すること
(2)他者の意図や感情の理解に関すること
(3)自己の理解と行動の調整に関すること
(4)集団への参加の基礎に関すること
4 環境の把握
(1)保有する感覚の活用に関すること
(2)感覚や認知の特性への対応に関すること
(3)感覚の補助及び代行手段の活用に関すること
(4)感覚を総合的に活用した周囲の状況の把握に関すること
(5)認知や行動の手掛かりとなる概念の形成に関すること
5 身体の動き
(1)姿勢と運動・動作の基本的技能に関すること
(2)姿勢保持と運動・動作の補助的手段の活用に関すること
(3)日常生活に必要な基本動作に関すること
(4)身体の移動能力に関すること
(5)作業に必要な動作と円滑な遂行に関すること
6 コミュニケーション
(1)コミュニケーションの基礎的能力に関すること
(2)言語の受容と表出に関すること
(3)言語の形成と活用に関すること
(4)コミュニケーション手段の選択と活用に関すること
(5)状況に応じたコミュニケーションに関すること
第3款 指導計画の作成と内容の取扱い
1.自立活動の指導に当たっては,個々の生徒の障害の状態や発達の段階等の的確な把握に基づき,指導の目標及び指導内容を明確にし,個別の指導計画を作成するものとする。その際,第2款に示す内容の中からそれぞれに必要とする項目を選定し,それらを相互に関連付け,具体的に指導内容を設定するものとする。
2.個別の指導計画の作成に当たっては,次の事項に配慮するものとする。
(1) 個々の生徒について,障害の状態,発達や経験の程度,興味・関心,生活や学習環境などの実態を的確に把握すること。
(2) 実態把握に基づき,長期的及び短期的な観点から指導の目標を設定し,それらを達成するために必要な指導内容を段階的に取り上げること。
(3) 具体的に指導内容を設定する際には,以下の点を考慮すること。
ア 生徒が興味をもって主体的に取り組み,成就感を味わうとともに自己を肯定的にとらえることができるような指導内容を取り上げること。
イ 生徒が,障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服しようとする意欲を高めることができるような指導内容を重点的に取り上げること。
ウ 個々の生徒の発達の進んでいる側面を更に伸ばすことによって,遅れている側面を補うことができるような指導内容も取り上げること。
エ 個々の生徒が,活動しやすいように自ら環境を整えたり,必要に応じて周囲の人に支援を求めたりすることができるような指導内容も計画的に取り上げること。
(4) 生徒の学習の状況や結果を適切に評価し,個別の指導計画や具体的な指導の改善に生かすよう努めること。
3.指導計画の作成に当たっては,各教科・科目,総合的な学習の時間及び特別活動(知的障害者である生徒に対する教育を行う特別支援学校においては,各教科,道徳,総合的な学習の時間及び特別活動)の指導と密接な関連を保つようにし,計画的,組織的に指導が行われるようにするものとする。
4.個々の生徒の実態に応じた具体的な指導方法を創意工夫し,意欲的な活動を促すようにするものとする。
5.重複障害者のうち自立活動を主として指導を行うものについては,全人的な発達を促すために必要な基本的な指導内容を,個々の生徒の実態に応じて設定し,系統的な指導が展開できるようにするものとする。
6.自立活動の時間における指導は,専門的な知識や技能を有する教師を中心として,全教師の協力の下に効果的に行われるようにするものとする。
7.生徒の障害の状態により,必要に応じて,専門の医師及びその他の専門家の指導・助言を求めるなどして,適切な指導ができるようにするものとする。
(「特別支援学校高等部学習指導要領 第6章 自立活動」より)
お待たせしました、冊子の紹介です
さて衝撃の一冊である『自立活動指導書』について説明していきます。まずは目次をご覧ください。
表紙・目次
はじめに
活用にあたって
第一部 障害の理解・アセスメント
第1章 実態把握
第2章 見え方について
第3章 自立活動チェックリスト
第二部 主要指導内容
第4章 点字指導
第5章 視覚補助具に関する指導
第6章 歩行指導の実施
第三部 幼児期段階に重要な指導内容
第7章 感覚学習
第8章 視知覚学習
第9章 日常生活動作の指導
第四部 学齢期の学習を支えるために
第10章 読速度の向上指導
第11章 書字指導
第12章 学習用具の使用技術の向上
第13章 ICTの活用
主要参考文献・資料
執筆者・編集者一覧,イラスト作成者
1つの学校だけでこの内容を網羅するという業績には頭の下がる思いしかありません。指導の道筋や具体例も載っていて、とても参考になります。
この中でも特に「自立活動チェックリスト」は、子どもの実態を把握するためや社会に出るときにどんな力が必要なのかを知っておくためにとても有効だと思います。以前、別の記事「地図をもって支援しよう」に書いたように、支援する側が知っておくべきことでもあると思います(もちろん、現実の子どもを見ずに地図ばかり見ることは、子どもたちを過度に追い込んでしまう危険もあるのですが)。
自立活動チェックリスト
自立活動チェックリストは7つの項目があり、それぞれに内容とチェック項目があります。
I. 障害受容と障害の克服・改善に関する観点
II. コミュニケーション能力に関する観点
III.補助具の使用に関する観点
IV.文字使用に関する観点
V. 環境の認知と歩行に関する観点
VII.コンピュータ使用に関する観点
例えば、I.障害受容と障害の克服・改善に関する観点の眼疾に関する理解には、「目の構造や目の機能について理解している」「自分の眼疾患について理解している」「自分の眼疾患による日常生活上の留意事項を理解している」「自分の視機能に応じた,見えやすい文字の大きさや濃さを知っている」「自分の見え方と晴眼者の見え方との違いを理解している」「他人に自分の視覚障害について理解してもらえるように説明することができる」「自分の身体障害者手帳の障害の種類,等級を知っている」などといった項目があります。とても細かく、自分の今の位置と、社会で必要とされるであろう事柄がよくわかります。
(画像は広島県立広島中央特別支援学校より)
これは視覚障がい児向けのものですが、厚生労働省の「就労移行支援のためのチェックリスト」よりもかなり細かく作られていますし、他校種の支援学校でも同じようなものへのニーズはあるのではないでしょうか。繰り返しになりますが、子どもの実態を把握するためや社会に出るときにどんな力が必要なのかを知っておくためにとても有効なツールだと思います。
まとめ
自立活動指導書の紹介いかがでしたか。自分自身が日々の子どもたちとの関わりや授業づくりの際にとても助けられた本なので、個人的にとても思い入れがあります。校内でも何度も布教しましたし笑。
この冊子の「はじめに」には、このような内容があります。
日々,技術は革新されていき,新しい専門性が生まれています。私たちは,継承されてきた専門性を次代につなぎ,併せて,新しい専門性を習得することも求められています。今後,本誌に新しい専門性が付加されていくことを期待します。
視覚障がい教育の現場では、「専門性の維持、継承」が切実な想いと共に声高に叫ばれています。
僕は今盲学校を離れた身ですが、Twitterなどで日進月歩で再生医療やICT機器やアクセシビリティ機能などのハード・ソフト両面、あるいは当事者の方も含めた様々な情報発信が進んでいるのをひしひしと感じます。
社会の仕組みが変わっていけば、「自立」の形も変わっていくでしょうし、それに合わせてこの自立活動指導書の中身も変わっていくのでしょう。
ですが、今の時点での重要な指針あるいは地図となってくれる一冊です。こちらの広島県立広島中央特別支援学校ホームページで無料で公開されていますので、よれけば読み、また必要とされる方へと繋げていただければと思います。
表紙の画像は広島県立広島中央特別支援学校ホームページより引用しました。