故郷とは。

今年も3月11日がやってきた。東日本大震災から9年だ。まだ小学生にもなっていなかった息子は、今年中学生になる。テレビでは、生まれ育った故郷に帰れず、原発の被害にあった故郷を捨てたいと語る息子に涙する母親の姿が写っていた。3月11日は、色々な人が、「故郷」を考えるきっかけにもなっているのではないだろうか?いっそのこと、「故郷の日」にしてしまうのもいいかもしれない。

でも、僕はいつも答えに窮する質問がある。それは「どこ出身?」という質問だ。僕の答えはこうだ。「岡山、ということにしています。」。

僕の父親は転勤族で、日本全国を転々としていた。僕が生まれた病院は母の地元、福島県いわき市だ。当時、父親と兄3人は千葉県松戸市に住んでいたと聞いていた記憶がある。もちろん、物心も付いていないので何も覚えていない。その後、すぐに兵庫県の明石市に転居しているはず。僕は記憶力がいい方でもない、というかむしろ色んなことを忘れながら生きているので、この明石の記憶もない。中学生くらいの時に、明石在住当時の団地を訪れたことがあるが、何も蘇ってこなかった。

その後、東京の三鷹市に転居。ようやく僕の記憶のカケラが拾える場所になってきた。三鷹では幼稚園時代を過ごした。職員宿舎には同世代の女の子がいて、仲良くしていた。三鷹での友達、というとその子だけが記憶に残っている。名前も覚えているが顔は思い出せない。20歳くらいだったろうか、三鷹を出たあとその子と会ったのは一回きり。もちろん連絡先も知らない。母親同士も友人なので、たまにその子やその子の妹、兄の情報を聞くことはある。元気に過ごしているようだ。

幼稚園を卒園して小学校に入学するタイミングで、我が家は北海道・美唄市へと引っ越す。見知らぬ土地、友達が一人もいない小学校入学式。不安だったのか、楽しみだったのか。多分、不安の方が大きかったんじゃないかと思う。僕は決して社交的な方ではない。どちらかというと人見知りだ。とはいえ、人並みに友達もでき、兄とも遊んだり、怒られたり、先生が怖いからと言って学校に行くのを泣いて嫌がったり、人並みの小学校低学年を過ごした。そして、小学4年生に進級するタイミングで、岡山へと父の転勤が決まる。「岡山ってどこ?」正直な感想だ。最初は怖かった先生も、今おぼろげに思い出すのは笑顔だ。流石に、3年生最後の日は、泣いた気がする。

小学4年生で岡山に引っ越してきた僕は、再び友達関係を作る作業を始めなければならない。人見知りなのでなかなか上手くは行かないが、4年生で同じクラスになった、学年でもイケてるグループの子が声をかけてくれたことで、比較的スムーズに溶け込めたのではないだろうか。岡山に来る前にいたのが北海道、というのも周りの興味を引いたのも事実だ。目立たない小学生高学年をそれなりに過ごし、中学校へ。実はこのタイミングで父親には転勤の辞令が降りているが、長兄が岡山で高校に入学していたため単身赴任を選択した。父の英断のおかげで、そのまま岡山の中学に進学し兄の金魚のフンのように陸上部に入り、恋愛をし、挫折を味わい、今の僕の表層人格の6割は岡山の中学生で完成したように感じる。中学時代の友人とは、たまに東京で酒を飲んだりもする。

そして岡山の進学校へ高校進学。進学校だったが、中学から続けていた陸上部が楽しくてしょうがなくなった。勉強そっちのけで走り続けた。陸上部では、親友、と呼べる友人ができた。この高校陸上部の繋がりは僕にとってはとても大切なものになった。先輩、後輩問わず、酒を飲んで冗談を言い合える関係だ。2つ下の後輩にも親友と呼べる奴がいる。

その後、大学で一度は岡山を出るも、途中大学で出戻り、岡山の専門学校に進んだ。当時、転勤で再び岡山に戻っていた父と母と、住んでいたが、専門学校の2年生に上がるタイミングで再び父に転勤の辞令。僕は岡山で一人暮らしをすることとなり、両親は赴任地の横浜へ。専門学校卒業後、岡山で仕事をしていたが2006年、転職を契機に今住んでいる神奈川県・川崎市に住むこととなる。

つらつらと自分の歩んできた道を振り返りながら綴ってみたが、物心が着いてから、東京・三鷹市3年、北海道・美唄市3年、岡山県・岡山市足掛け18年、そして川崎での暮らしは14年目になる。両親は、最後の赴任地となった横浜にマンションを購入して定年後も暮らしているので、岡山には今、家族がいるわけではない。友人もほぼほぼ結婚したので、結婚式で呼ばれることもない。もう長いこと岡山には行ってないのだ。今は距離的に近くなった横浜の両親の家にはたま〜に行くが、土地勘もなく、「帰ってきた」という感じはやはりしないのが現実。

思いを馳せる故郷がある、というのは、とても羨ましいと思う。もちろん、東日本大震災で思いを馳せる故郷を失ったり、悲しい思い出に溢れてしまった方もいるだろう。それでも、振り返った時、見える風景があるというのはとても大切な財産だと思う。自分にとっては、どこが故郷なのか、よく分からないが、住んできた土地はやっぱり愛着がある。お金と時間があれば、岡山と北海道を巡ってみるのもいいかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?