過去世や前世を探究する価値①


過去世や前世を探究する価値   ① 2022年10月


さてさて。私はかれこれ3年ほど前から、自身の前世についての研究・探究を続けております。

きっかけは、5年前に大怪我をしてしまい、それによって鬱屈した生活を送っていたところから始まります。
これまで真面目に一生懸命やってきたのに、怪我をしたせいで普通の生活ができなくなってしまいました。真面目が報われないのは、過去世で何か悪いことでもしたせいなのでは?なんて思うようにさえなりました。

そこで、どうせなら本当に前世鑑定をしてもらって、今世の身に起こる不幸を過去世のせいにして気を紛らわせようと思って、ある占い師さんの元を訪ねて行くことにしたんです。それが今から3年前のことです。

当時の私はスピリチュアルやオカルトには興味はあったものの、それらを体験したり、本格的に勉強したり研究するというつもりもありませんでした。前世鑑定に対しても、単に「悩んでいる日々の、ほんの気分転換になれば良い」程度の認識でした。

で、前世鑑定というのは「あなたの前世はホニャララです。そのときのカルマによって、今世でうんちゃらかんちゃら…」というようなものを想像していたのですが、実際はそうではありませんでした。

私が鑑定を受けた占い師さんは、私の前世について断言せず、代わりにヒントとなるキーワードをいくつか教えてくれました。重要な部分はぼやかして、本当にざっくりとだけ教えるんです。
そうなると、そこのぼやかした部分を知りたくなるじゃないですか。なので私は家に帰ってから、占い師さんから教えてもらったキーワードについて調べてみることにしたんです。

キーワードは「中世ヨーロッパ」「宗教絡みの戦争」「その戦争には民衆も参加した」「あなたの前世はその戦争のリーダーだったかも」というようなものです。

これはとてもざっくりしていて、そこから時代や国を絞り込むのはとても困難だろうと思いました。

でも、何だか楽しそう。

この、「何だか楽しそう」という気持ちが、後々かなりの価値を持つことになります。調べ始めた当初はまだ気づいていませんでしたが、自分の前世を自分で突き止めてやろうとしていろいろ調べることによって、ワクワクするような発見や出会いがたくさん現れるようになり、結果としてそれまで悩んでいた気持ちがすっかり明るくなった、という運びとなったのです。

前世を言い当ててもらうことが必要な方もいるでしょうが、私の場合は「前世を自分で調べて突き止める」という行為自体が「人生の救い」となったと言えるのではないか、と感じています。

さて、キーワード探究に話を戻しますと、まず中世ヨーロッパというものが厄介極まりない。

中世という時代区分は、その初めから終わりまでに約1000年ほどの開きがありますし、ヨーロッパというのもフランス、イギリス、北欧、などなど、面積だけでも広大な範囲となります。中世ヨーロッパというくくりだけでは、時間も空間も範囲が広すぎるということです。

なので、次のキーワードである「宗教絡みの戦争」で、「民衆も戦闘に参加した」ものを探すことにしましょう。

中世ヨーロッパの戦争なんて、宗教絡みがほとんどじゃん!なんて思うかもしれませんが、そこに「民衆も参加した」と言うワードがあると、絞り込みの幅はグッと縮まります。「参加した」と「巻き込まれた」ではニュアンスが全く異なります。民衆が率先して戦闘を起こした戦いというのは、実はそう多くはなさそうです。

私は、歴史の教科書にも載っているルターの宗教改革をまず想起しました。
しかし、それらの記事をいくつか読んでみたところ、全く「面白い」とは感じなかったのです。ルターの肖像画を見て「これじゃないな」という気持ちになりました。ルターには申し訳ないけれど(笑)。

しかし、ルターに続く歴史を遡って行くと、カトリックとプロテスタントの争いのさきがけとも言える紛争があったことが判明します。

それが、1400年代にチェコで起きた、フス戦争と呼ばれるものでした。

この戦争は、カトリック教会の腐敗を糾弾したヤン・フスという学者が焚刑にされたのをきっかけとして起こり、チェコの各地で民衆が武力蜂起し、チェコからカトリック勢力を駆逐して行く、という戦争でした。

まさに、占い師さんが言ったキーワードに当てはまるものだと思いました。非常にワクワクいたします。

心惹かれるものを感じたので、私はこのフス戦争に焦点を当てて調べてみることにしました。

ネット検索してみるといくつかの関連記事は出てくるものの、日本ではまだまだマイナーなジャンルのためか、情報量がとても少ないという印象でした。
日本語で出版されている書籍も数冊程度で、それはフス戦争の研究者自体がごく少数だということを示しています。

ですので、日本語をベースとしたフス戦争の調査は、すぐに行き詰まりに陥ってしまいました。
しかしながら、ぼんやりとしたフス戦争の輪郭を掴むことはできた感じです。

まず、15世紀初頭のチェコはボヘミア王国という名前の国で、神聖ローマ帝国の支配下にありました。
そこに住む市民や貴族らは、カトリック教会の権力増大による利権侵害と、数々の搾取に不満を持つようになっていました。
特にカトリック教会の聖職者による汚職は目に余るものがあり、神学者のヤン・フスはカトリック教会に対して宗教改革の必要性を説きました。

その説はカトリック教会に不満を持つ民衆や貴族らの支持を得て、「フス派」と呼ばれる反カトリックのコミュニティを形成するようになります。

やがて反カトリックの勢力が大きくなってくると、それを恐れた権力者による弾圧がかけられて行きます。
言い出しっぺのヤン・フスは、見せしめのために焚刑にされてしまいました。
そして、ここからがフス戦争の難解な部分となるのですが、戦争の原因はヤン・フスの死そのものではなく、フスの支持者たちによる内乱が戦争に発展して行く、という構造となるのです。

ヤン・フスの死は1415年で、フス戦争の開戦は1419年です。この4年間は、ボヘミア王国の政権がフス派のものとなったり、カトリックに塗り替えられたりと、勢力図がめまぐるしく変わって行った時期でした。

フス派の中には武力で権力を手に入れようとする「主戦派」と、あくまでも穏便に改革を進めるべきだとする「穏健派」が発生しており、その対立がボヘミア王国に戦争を呼び込むことに繋がって行くのです。

日本語ベースの資料で調べることができたのはこのくらいまでで、あとの詳しい事はチェコ語の歴史書を紐解いて行かねばなりませんでした。

しかしここまで調べただけでも、かなり魅力的なストーリーだなと感じていましたし、登場人物にも興味が出てきました。
フス戦争には「ヤン」と名のつく人物がたくさん登場します。

カトリック教会を糾弾し、改革の必要性を訴えたヤン・フス。

フスの死後、その信者を煽動して武力蜂起の先陣を切ったヤン・ジェリフスキー。

非力な民衆に武器と統率を与え、無敗の軍団に変容させた天才的軍事指導者、ヤン・ジシュカ。

そして、フス派とカトリックの和解のために奔走し、幾度となくプラハを戦禍から救った穏健派、ヤン・ロキツァナ。

これらの人物像に触れていくうちに、私は、彼らのことを一つの小説として描きたいと思うようになったのでした。
彼らの中で、物語の主人公にするとしたら誰だろう。そう考えたとき、真っ先にイメージできたのはヤン・ロキツァナでした。

彼は平和主義者であり、戦禍からプラハを守るために奔走したり、弁舌で大軍の進行を止めたりしたという逸話が残る人物でした。彼の人生をモチーフにして物語を描けば、きっと面白いものになるだろうとおもました。

私は早速、ロキツァナを主人公とした物語の構想にとりかかりました。
彼について不明な部分もまだ多かったので、そこはフィクションを織り交ぜれば良いと考えました。フィクションの部分は現実の私の生い立ちをモデルにしようと思いました。

まず、私の実家は町工場を営んでいるので、ロキツァナの生家も鍛冶屋という事にしました。
それから、私には姪っ子がいて、彼女は若いのにボランティア活動に熱心な子なので、ロキツァナにも姪っ子を持たせることに。そして姪っ子が成長すると、平和主義団体を立ち上げて戦争を終結させる、というストーリーにしようと考えていました。

しかしいざ小説を書きはじめてみると、もっと史実を調べなければいけないな、と強く感じるようになりました。物語を紡ぐには、日本語の文献から得られる情報だけでは全然足りないのでした。

そこで私は、チェコ語の歴史書や論文を翻訳する作業を開始することにしました。
学生時代は英語の成績がすこぶる悪く、それよりももっと難しそうなチェコ語など、翻訳する日が来ようとは思ってもみませんでした。
しかしスマホの翻訳機能やGoogle翻訳などのツールを使い、なんちゃって翻訳ぐらいならできるようになって行きます。

そして、ヤン・ロキツァナについての研究論文やら歴史書を翻訳して行く中で、驚くべき発見に出会うのでした。
なんと、私がフィクションとして設定していた「ロキツァナの生家は鍛冶屋」というのが史実であり、また、ロキツァナには「甥っ子」がいて、それが後年、平和主義団体を創設する人物となるのだと。

これを発見した私は興奮します。

「あれ?ひょっとして、私の前世はロキツァナ?」

小説のためのフィクションとして考えていたことが、まさか二つともほぼ史実だったなんて!私の前世はロキツァナかもしれない!

そうでなくとも、少なくとも私の前世は、この時代のチェコに生きて、ヤン・ロキツァナのことを知っている人物だったに違いない!

そう思いたくなるような、不思議な発見でした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?