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地域の活性化と、デザインキャンプ。

先日、ドイツ北部のWendland / ヴェントランドという地域の、放射性廃棄物保管に反対する住民の闘いについて書きました。

ヴェントランドは、とっても自然が豊かで、ゆるやかに過ごせる素敵な場所。先日の記事でも書いたように、円形の集落が多く見られ、住民同士の絆も強い地域です。放射性廃棄物貯蔵反対の運動によって、集落や地区を超えた住民同士のつながりも更に強まったようです。

2006年から、ヴェントランドを休暇に訪れたくなるような場所に、移住したくなるような地域にしようと、住民たちが動き出しました。放射性廃棄物保管の問題によってついてしまった負のイメージを払拭するためにも、地域活性化のための様々な活動が行われています。コンサートや劇場、いろいろなフェスティバルが行われ、共同ワークスペースが作られ、遊びに来る人や移住してくる人が増えてきているようです。

2010年から非営利団体 "Grüne Werkstatt Wendland"(「緑の工房 ヴェントランド」とでも訳しましょうか。)によって開催されているデザインキャンプもその例のひとつ。Grüne Werkstatt Wendlandは、ヴェントランドに既にある可能性を見出し、外部とのネットワークを作り、新しい風を取り入れながら長期スパンで地域の特性を生かしていく、ということをコンセプトにして様々な活動を行っています。


私がGrüne Werkstatt Wendlandが企画するデザインキャンプに参加したのは2014年とずいぶん前のことになりますが、今日はそのことについて書きたいと思います。こちらに記録が残っています。

ここで行われているデザインキャンプでは、デザインを学んでいる学生や駆け出しのデザイナーと地元の企業とのコーポレーションという形で、2週間レンガ造りの素敵な建物に宿泊し、いろいろな所を見学、視察し、プロダクトや空間、イベントをデザインしていきます。デザイナーにとっては、企業とのつながりができたり、実際にデザイナーとしての仕事の経験となったりするありがたいチャンス。参加する企業にとっては、新しい視点からの意見や提案を取り入れるきっかけにもなりますし、地域にとっては、地域の企業や団体間や外部とのつながりを作ることのできる機会。ウィンウィンのプログラムです。

動画の中にもあるように、初めの一週間で飲料メーカー、金属製品メーカー、地域の博物館、給水塔、オーガニック農場、バイオガス・天然ガス発電所などを見学。2週目はグループに分かれて作業。飲料メーカーとのプロジェクトでは、飲料のラベルなどのデザインのリニューアル。金属製品メーカーとのプロジェクトでは、地域の住民や移住してきた人たち、多世代をつなぐようなインスタレーション。博物館では、古くなってしまった建物と展示の新しいイメージづくり。長らく使われていない給水塔は、空間の新しい利用の提案。

などなど、いつくかの企業や団体とのプロジェクトからひとつ選んで、グループで取り組みました。私は、遊びと人のつながりの要素が一番強そうな、金属製品メーカーとのプロジェクトを選択。メンバーは、プロダクトデザイナー、金属製のアクセサリーデザイナー、私と同じ遊びと学びのデザイナーと、私の4人。

たくさんアイデアを出し合ってスケッチやモデルを作りながらプロジェクトを進め、最終的に、テトリスのブロックようなカラフルで座れて遊べるオブジェをつくることに決定。こちらはプレゼンテーションの様子になります。

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(当時データの管理が雑だったため、写真が見つからず、こちらは掲載していただいた新聞記事の一部です。)

そしてこちらは、金属製品メーカーさんと一緒につくったプロトタイプ設置の様子。

動画の最後にもあるように、ひとつひとつが回るようになっているので、迷路のようにして遊べたり、1人で休憩したり、ひとつをテーブルにして周りに座って何人かで食べたり飲んだり、多世代に多目的に使ってもらえることを目的につくりました。

他のグループは、飲料メーカーのCIデザインをしたり地域の博物館の展示がいろんなところに出向く出張バスやポップアップストアをデザインしたり、給水塔でのイベントを企画したりと、どのプロジェクトもとってもおもしろかった!最終日には地域の方たちや外部からのデザイナー、大学の教授などが招待され各々のプロジェクトのプレゼンテーション。それぞれの視点からのフィードバックがいただけたのもとてもためになりました。

地域に根付いた様々な企業の特色について知れることはもちろん、様々な分野のデザイナーたちと昼夜共に過ごし作業をすることができ、とっても有意義な2週間となりました。
夜はキャンプファイヤーのように火を囲んでギターを弾いたり歌を歌ったり順番に一行読んで韻を踏む詩をつくったり(私にとっては平安貴族の歌遊び並みに高度な遊び。。。私に順番が回ってくる度にリズムを乱してしまって申し訳なかったです)、参加していたみんなとのつながりも強くなりました。

また、この2週間の間、3人のコーチも同じ敷地に滞在していて、いろいろなワークショップを行ってくれたり、プロジェクトの進行やメンタルのサポートをしてくれたり、この3人から学ぶこともとても多かったです。

コーチによって行われた初日のワークショップの一部では、それぞれの名前と、自分が教えられること、教わりたいことを紙に書き、自己紹介をしました。用意されたプログラムの間の自由時間や夜には、それをもとに、自分たちの得意分野のワークショップをそれぞれ行い、みんなで教えたり教わったりと、毎日本当に充実していました。
滞在していた場所は自然に囲まれいていて、ジョギングしたり、サイクリングしたり、星を眺めたり、気分転換しながら作業ができる、この上ない環境です。


地域の特性を生かした充実したプログラムで、地域の中でのつながりを強化し、外部からの新しい風も積極的に取り入れる、地域活性化の理想的な形のひとつだと思います。

昨年は人が集まるイベントははほぼ中止になってしまったようですが、今年はまたこのようなプログラムが開催されますように。

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