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こどもとメディアの関わり ー 調査対象のこどもたちに想いを馳せる

こんにちは。
私は現在、ドイツの遊具デザインスタジオとこどもミュージアムで遊びと学びのデザイナーとして働きながら、遊びとメディアの教育学の勉強をしています。

先週のセミナーでは、こどもたちのメディアとの関わりの事例についてディスカッションがありました。オーストリアの各地で、数年にわたって、取り巻く環境の異なる数人のこどもたちを調査したものでした。

例えば、ヘンリー君(仮)。
6歳から12歳までの間に研究者が数回訪れ、ヘンリー君の家庭や学校での状況、お友達との関係やメディアとの関わり方の調査が行われました。
ヘンリー君の家族は引っ越しが多く、金銭的な状況により、都心部から田舎へ転居。ヘンリー君は俊英で、政治や世界の動向への関心が両親よりもはるかに高く、学校の授業も宿題も簡単すぎて退屈。同年代のこどもたちともなかなか話が合わず、現在住む田舎では友達もほとんど見つけられません。また調査期間中にお母さんが2回脳卒中を起こしてしまい、家族での遠出も難しくなり、旅行することもなくなりました。お母さんや弟、妹の面倒を見る優しいヘンリー君ですが、学校もつまらない、友達も見つからない、家族にも理解してもらえない。
そんなヘンリー君にとって、デジタルの世界は、自分でいられる場所。スマートフォンで世界の最新情報を入手し、世界のいろいろな人たちとコミュニケーションを取り、大人のための戦闘ゲームで挑戦の欲を満たし、怒りや滞りを発散する。
デジタルの世界こそが、ヘンリー君にとってのリアルな世界なのです。
両親はヘンリー君のスマートフォンにフィルター機能をかけたりSNSのアカウントをチェックしたりしていますが、ヘンリー君の方が一枚も二枚も上手です。
しかし一見大人びた性格の中にも、愛情を求めるこどもらしさが見え隠れし、自分を理解してくれる身近な存在を求めていることが見えてきます。

メディアとの関わりをテーマに、このようないろいろなこどもの状況の調査結果を読み、話し合いました。

こういった調査・研究結果をもとに、現状を把握し、分析し、親、先生、ソーシャルワーカー、メディア教育学者、児童福祉課や地域の大人たちなど、みんながそれぞれの立場で何をすべきなのかということを考え実行していくことができる。

世界中で、こどもたちの現状を理解し大人が手を差し伸べられるようにといろいろな分野で調査が行われているでしょう。

そういう過程がとても大切なのはもちろんです。
ですが、こういう事例を読む度に、ヘンリー君のような、そのひとりひとりのこどものことを想い、胸が苦しくなるのです。

研究者さんが、数年にわたって何回か会いにきて。
自分のことを、自分の状況を、理解しようと、興味を持ってくれる大人が現れて。
少しずつ心を開いていって、自分のこと、家族のこと、いろいろなことを話して、自分の気持ちを伝えて。
そして、調査が終わると、さようなら。
ヘンリー君の開きかけた心はどうなるのでしょうか。必死に塞ごうとしていたかもしれない穴の蓋が少し開きかけた、その後のサポートまで考えられていることを願わずにいられません。

✳︎

また数年前、ドイツのとある機関による「恐れや不安に関する研究」に、以前住んでいたホストファミリーのこどもたちが参加したときのことです。

この研究では、たしか6〜12歳のこどもたちが何をどの程度恐れているのかを分析し、そのこどもたちが大人になったときには何をどの程度恐れるのか、そこにはどのような関連性の傾向が見られるのか、といった内容でした。

調査直後のこどもたちの話によると、蜘蛛や猛獣の写真をたくさん見たり、「×××はこわいですか」といった質問に答えたりしたそうで。

その質問とは、
「夜の暗闇は怖いですか」というものや、
「お父さんとお母さんが離婚することを恐れいていますか」だったり、
「家族や大切な人が死んでしまうことを恐れていますか」なんてものも。

その時には「怖くない」「恐れていない」と答えたそうですが、その後しばらくすると、「今まで考えていなかったけど、不安になってきた」と。
私は、嘘はつきたくないし保証できないことを約束もしたくないので、「人生では何が起こるかは誰にもわからないけれど、何があっても、パパもママも私も◯◯ (名前)のことがだいすきなことには変わらないから、大丈夫だよ」と言うことしかできませんでした。
私のこの言葉で何かできたのかは分かりませんが、口に出してくれたから、そのことについて話せて、よかった。

大きな研究結果のために、ひとつの質問でひとりのこどもの心に大きな穴を作ってしまったり、言葉にできない闇を植え付けてしまったりしてしまうかもしれない。
そういうことを忘れてはいけないと思うのです。

✳︎

全体のためにできること、すべきこと。
そして、個々のためにできること、すべきこと。

そんなことをぐるぐると考えて、論文のテーマがなかなか決められない私です。

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