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未来編集者K

「先祖を更生させるために未来からロボットがやってくるというお話なんです」

ここは某出版社のロビー。
男が持ち込んだ漫画原稿を見て、編集者のKは顔をしかめた。

「これはよくない」

「どうしてですか。面白いでしょう?」

「きみは来る時代を間違えとるよ」

「……」

「Fさんのその連載はすでに始まっている」

Kの言葉に男の顔が青ざめる。

今は197x年。アニメ化も某児童誌の刊行もまだ先の話だが、その作品自体はすでに生をうけていた。

「困るんだよ。著作権泥棒は」

「……すみません」

著作権は作者が「表現」した時に生じるものであり、形のない状態では保護の対象外とされている。つまり著作権泥棒は現代の法律では太刀打ちできない犯罪なのだ。

各出版社は航時法関係に明るい未来人を雇用していた。Kもそのうちの一人だった。

「ふつうは航時法で……過去改変の罪で、しょっ引かれるものなんだ」

「はあ……」

「ところがきみは、ただただ、著作権法を侵そうとしている」

「すみません……」

はたから見れば、持ち込んだ原稿を酷評されている漫画家志望者に見えなくもない。

「よくもまあ、こんな国民的な著作権に手を出したね。きみは何世紀人だ」

「28世紀です」

Kはそれを聞いて気の毒に思った。

「もう人類史も終盤じゃないか」

Kは男に幾許かの金を恵んでやった。

「これはいつの時代の通貨ですか」

「24世紀。わたしのいた時代さ」

次の打ち合わせの準備をしながら、Kは答えた。

「その時代なら未来からの移民を受け入れている。それともT.Pを呼んで強制送還させようか?」

男がとぼとぼと帰る姿を見て、Kはため息をついた。

「これはスケジュールにない未来だったなあ」

これからKは新人漫画家と3回で打ち切りになる新連載の準備をしなければならない。

あの男もその漫画家も、売れっ子になる未来は今のところないのだった。

(おしまい)

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