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画家が見たこども展@三菱一号館美術館

ナビ派の画家による、子どもが描写されている作品だけを集めた、ユニークな視点の展覧会。
三菱一号館美術館の開館10周年記念展覧会で、フランスのボナール美術館との共催でもあります。
何かと不安を感じる状況下で、子どもたちの表情が想像以上に癒しをくれます。

展覧会で配布されている「みどころガイド」によれば、西洋においては子どもは「不完全な大人」と見なされていたのが、哲学者ルソーの著作『エミール』(1762年)をきっかけに「独立した個性を持つ人格」という捉え方に変化したそう。

そして19世紀末、ナビ派の画家たちにより、描かれた「子ども」の表現に更に劇的な変化が表れます。新たな時代の芸術を模索するナビ派の画家たちは、都市とその活気に魅了されてパリの街をくまなく散策し、街路で繰り広げられる光景を注意深く観察しました。彼らにとって、都市生活の風景に現れる「子ども」はまさに近代生活の総合的な体現者でした。ナビ派の画家たちは、子どもたちの天使のような可愛らしさ、優しさだけでなく、力強い生命力、そして、小悪魔のような辛辣な側面をも描き出したのです。
(みどころガイド「本展のみどころ」より))

「日本かぶれのナビ」と言われるくらい、ナビ派は日本の絵画から影響を受けたそうですが、ボナールの「乳母たちの散歩、辻馬車の列」という作品は、屏風のような形状の作品。
平面的な画風も浮世絵の影響だそうで、乳母や馬車が連続模様のように配置されて、確かに日本的。
色遣いはフランス的なので、懐かしいような斬新なような、不思議な雰囲気です。
そもそも、この頃のヨーロッパでは子どもを題材にすることがほとんどなく、日常の子どもの絵というのが珍しいというのに驚きました。
展示の中には日本の浮世絵もあるのですが、それには市井の人々の日常が描かれています。
ナビ派の画家たちは、そういう点でも影響を受けていたのでしょうか。

今も昔も変わらない子どもたち

乗合馬車で窓を向いて座り、外を眺める姉妹とか、公園で遊ぶ男の子たちとか、子どもの様子は今も昔もちっとも変わらないし、画家たちもそういう子どもの素の様子に同じように感情を動かされていたんだなと感じます。
子どものかわいい一面、ちょっと残酷な一面など、画家によって視点も様々なのですが、ヴァロットンは特に、子どもの純粋だからこその残酷さなどをよく描写していて、なかなかシュール。
パリで日常起こる出来事を取り上げた木版画はとても風刺的で面白く、ヴァロットンのファンになりました。

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(三菱一号館所蔵のヴァロットンの木版画は撮影可能)

フォトスポットもあり、ここでは同じくヴァロットンの描く子どもたちに囲まれて撮影ができます。

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”真実”の子どもの表情

他に印象に残ったのは、写実的な赤ちゃんたち。
ゴッホの「マルセル・ルーランの肖像」は達観したおっさんみたいだし(女の子なんだけど)、ボナールの「アンドレとその息子ジャン」「家族の情景」の赤ちゃんは偏屈なおっさんみたいだし……。
でも、ぷっくりした頬や手の動きなんかは、まさに赤ちゃんのそれ。
かわいく描かれがちな赤ちゃんだけど、実際はこうだよね、と思わず笑ってしまう。

ドニは自分の子どもたちをモデルにたくさんの絵を残しているそうですが、母と子を聖母子像のように書いた一連の作品がとても素敵でした。
母親の慈愛の表情、子どもの無邪気に母に向ける笑顔が、素晴らしい。
開口部を背にした光の表現もとても美しいんです。
中でもいちばん惹かれたのは「ノエルと母親」なんですが、背景が金泥のように見えて、これも日本画の影響かなぁと勝手に想像しました。
このノエルちゃんはドニの作品にたくさん登場、「サクランボを持つノエルの肖像」もとてもかわいいです。

夢の子ども部屋のような展示室

三菱一号館のもう1つの楽しみは展示室のデザインなのですが、今回はとても可愛らしい雰囲気。
パステルカラーの壁とか、手書き風の文字とか、夢の子ども部屋のようなイメージです。
バナーや壁の一部に前述のヴァロットンの木版画が使われているのですが、パステルカラーで描くとまた違う印象……毒気が抜ける(笑)
出口には「街頭デモ」の中にいるおじさんたちの逃げる姿が。
くすっと笑いながら退館です。

大人も子どもにかえって

ミュージアムショップも童心にかえれるような内容でした。
サコッシュやピンズ、ミニタオルなどが入っているガチャガチャは、大人も子どもも楽しめます。
サコッシュはちゃんと両面がポケットになっていて、大き目のスマホも入るサイズ。
平らなつくりで、くるくる丸めてバッグに放り込んでおけるので、ポケット代わりにちょうどいい。
美術館や博物館鑑賞のお供に仲間入りです。
ストアのスタッフの方も皆さんつけているのですが、実にカワイイのです。
ストアを出る際に、早速サコッシュをかけていく方も多いようでした。

サコッシュは好きな作品のをGETできました。
ピンズはゴッホの赤ちゃん、じわじわ可愛く感じてくる(笑)

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友人へのお土産に、かわいいピーチフレーバーのクッキーも購入。
メリーさんのひつじをモチーフにした、フランスの商品だそうです。
スタッフの方によれば、子どもが喜びそうなアイテムを集めたのだとか。

みどころガイド「子どものファッション」とオンラインセミナー「ナビ派に見る大人のファッション」

別日に、学芸員さんによるオンラインセミナーに参加しました。
テーマは「ナビ派に見る大人のファッション」。
ボナールの作品「街角(パリ生活の小景)」を題材にして、服装について解説がありました。
身近な人々を、美化せず現実を描いているのもナビ派の特徴だそうです。
女性たちは長いスカートと帽子が必須、まだコルセットをつけていた時代です。
帽子の飾りには本物の鳥(!)をつけるのが流行ったそうで、写真も見せてくれましたが衝撃でした。
おしゃれのためには何でもするというかなんというか……。

当時の子どもたちの服装については、展覧会で配布されている「みどころガイド」に詳しく解説されています。
セーラー服を着た子どもがたくさん登場するのは、イギリスの王子が着たのを真似して非常に流行ったとか。
服はおあつらえの時代なので、きょうだいでお揃いの服を着ている絵も多かったです。
女の子はエプロンドレスが一般的、足元も完全に覆われています。
今MXテレビで放送している「赤毛のアン」がまさにこの時代の物語で、女の子はみなエプロンドレス姿、夏でも長い靴下にブーツ。
肌を見せてはいけないというこの時代のルールをしっかり描いていたことがわかりました。

コロナ禍でリアルでのセミナーができなくなり、オンラインでの開催も増えていますよね。
美術館に行かなくても参加できるのはとても便利なので、ぜひオンラインも続けてほしいですが、絵を見ながら解説を聞く、または聞いてすぐ絵を見ることができる贅沢さも改めて感じます。
コロナの影響で展示できなかった作品もあるようで、次に巡回する予定だったボナール美術館は開催自体が中止になったそう、そのおかげで日本の会期が延ばせたわけですね。
これからの展覧会は同じような状況になっても支障なく運営できるように考えなければいけなくなると思うので、今までと同じようにはいかなくなるのでしょうか。

一時休館をはさんで再開されたこの展覧会も、会期はあとわずかです。

画家が見たこども展
三菱一号館美術館 ~2020年9月22日(火)まで
※新型コロナの影響で事前予約制になっています


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