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2022年3月に読んだ本

『塞王の楯』 今村翔吾著

「あのうしゅう」という言葉自体を初めて聞いたくらい何も知らなかったけど、読んでいるうちにこの集団に惹かれてしまいます。穴太衆とは石垣積み職人の集団で、ライバルである鉄砲鍛冶職人の集団、国友衆の人たちにも同時に惹かれてしまいました。実際に戦をする武士とは違う立場だけど戦には関わっている職人で、その職人の立場から戦をどのように見ているか、世界をどのように見ているか、その視点が現代の課題にも通ずるところがあり考えさせられました。

絶対に破ることができないと思わせる圧倒的な石垣を作ることで争いをなくせると考える穴太衆と、絶対に敵わないと思わせる圧倒的な鉄砲を作ることで争いをなくせると考える国友衆。でも結局はバランスをとることでしか争いを減らす努力をし続けることしかできないのかもしれません。今のロシアを見ていると、矛ばかりを巨大化していて対話したり折り合いをつけたりする楯が全然足りてないように見えます。プーチン京極高次立花宗茂のような人であったらよかったのに…など今にリンクさせながら読むと、今起きていることに対する視野が少し広がります。ウクライナ侵攻はどう考えてもひどいことなので、リンクさせる作業は楽しいことではないんですけどね。

世に矛があるから戦が起こるのか、それを防ぐ楯があるから戦が起こるのか。いや、そのどちらも正しくなく、人が人である限り争いは絶えないのかもしれない。

この文も考えさせられました。そうなんだろうけど、そうであってほしくない、でも…と。大きなテーマです。


『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』 鈴木忠平著

落合さんは全くブレることがなく、そのブレない落合さんを基準にして周りの人が自分の価値を見出したり、そうはならずに翻弄されたり、なんだかすごいものを目撃してしまった気持ちになりました。川崎憲次郎森野将彦福留孝介宇野勝岡本真也、中田宗男、吉見一起和田一浩小林正人、井出峻、トニ・ブランコ荒木雅博。これらの人を通して「嫌われた監督」落合さんが描かれています。上記の人の中には知らない人もいましたが、そんなことは関係なくのめり込むように読めてしまいます。現役時代も監督時代も、その成績と聞こえてくる評価との間に常になにかしらのズレがあった人は、この人だけかもしれません。そのズレはなぜ生じていたのか、ズレていたのは誰なのか。そんなことを突きつけられる内容です。落合さんに惚れていた人、惚れてはいないけど気になっていた人、活躍を知っている人、そんな人にはおすすめの本です。落合さんにも野球にも興味のない人でも、星野源さんに興味がある人は星野さんの思考を知るために読んでみるのもオススメします。

「第3章 福留孝介 二つの涙」で登場したシーンをyoutubeで見つけました。2人が交錯するシーンも映っています。ジーンときますね。


『いのちの車窓から』 星野源著

本を読んでみて、すごく正直な人だと思いました。自分の思いをシンプルな言葉で表現してあるので、見事にこちらに届いてきます。シンプルな文であることについて、こんな風に書かれていました。

伝達欲というものが人間にはあり、その欲の中にはいろんな要素が含まれます。こと文章においては「これを伝えることによって、こう思われたい」という自己承認欲求に基づいたエゴやナルシシズムの過剰提供が生まれやすく、音楽もそうですが、表現や伝えたいという想いには不純物が付きまといます。それらと戦い、限りなく削ぎ落とすことは素人には難しく、プロ中のプロにしかできないことなんだと、いろんな本を読むようになった今、思うようになりました。

星野さんもエゴを削ぎ落とす作業をしているということになりますが、エゴがあるなんて別に書かなくてもいいと思うんです。でも自分にはエゴがあると言い、そのエゴを削ぎ落としたいと言っている、そんな正直さが読んでいてとても心地いいです。

新垣結衣という人」という章があります。褒めるのが好きな星野さんが、褒められるのが苦手な新垣さんのことを、こっそり本の中で褒めています。読んでいて恥ずかしくなるくらい、ものすごくやさしくストレートな言葉で褒めています。やっぱり正直な方です。星野さんがここまで褒めている新垣さんの本も読みたくなったんですが、どうやら本は出していないようですね。残念です。


『知られざる皇室外交』 西川恵著

外国の大統領を国賓として招待するかどうかで議論されていることをニュースで知ったりします。でもなぜ議論するのかが分かりませんでした。国賓として招待し、天皇陛下がお迎えするのはどんな意味があるのかについてもよく知りませんでした。そんなわけで、単純に知らないことを学ぶ目的で読んでみました。

天皇陛下は政治には関わらないルールは知っていて、でも皇室が行っていることはどこかで政治とつながっていて、だからこそタイトルにあるように「皇室外交」と捉えることもできるという話はすんなり理解できました。上皇上皇后両陛下がどんなお人柄だったか、そして他国に対してどんな影響を与え、それが日本にとってどんな意味を持っていたかを知ることができ、このことを知った上で当時の行動を見ていたかったと残念に思ってしまうくらいです。今後も続く皇室外交のもつ意味を少しでも理解しておいた方が、日本と外国の関係を違った視点から見ることもできると思うので、できるだけ早いうちに読んでおいた方がいいと思う本です。


『PTA モヤモヤの正体』 堀内京子著

この本を読めば、いろんな課題を生み出しているPTAのシステムについてよく分かります。まあそうなんだろうなというのが正直な感想です。PTAで苦しんでいる人はたくさんいて、反対に恩恵を受けている人も少数ではあるでしょうが確実にいるはずです。どちらにも言い分があると思われるし、おそらく理解はし合えない難しさがあると思われます。現状のPTAは上にいけばいくほど課題があるというか、何を代表しているのかが見えにくくなると思っていて、できることならあまり関わりたくない世界です。でもそうも言っていられないんですよね。

「子どもたちのために」というのがPTA側の言い分としてよく出てきますが、この言葉はどんな行為でも肯定してしまいかねない怖い言葉です。どっちの立場でも使えてしまいます。この言葉抜きにそれぞれの立場の説明を聞いてみたいです。純粋に興味があります。

今PTAに関わって悩んでいる人がいれば、そもそもの原則がここにはきちんと書かれているので、ぜひ一度読んでもらいたいです。現状を変えることは難しいかもしれませんが、何が起きているか、何に巻き込まれているのかは掴めると思うので。

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