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芸の道一筋、「飛び級」女将のハッピー経営 | 箱根芸者物語#8

日本屈指の温泉街、人々の心と体を癒す箱根湯本。

賑やかな商店街の一歩奥をゆくと、そこには箱根の芸者衆が集う歴史ある「湯本見番」がある。
見番が建ってから70年。今や令和の時代に。
何がどう変わってきたのだろうか。

変わりゆく時代に合わせ、伝統を守り花柳界文化を継承する「湯本見番」。
知れば知るほど奥が深まる花柳界文化の世界。

ちょっとのぞいてみませんか。

・・・

今回は、Meet Geishaのショーにも出演し、お座敷の場で皆さまを魅了する現役芸者として活躍し、女将としても置屋経営に邁進する温味(あつみ)さんの登場です。20年以上の芸歴を支えたストーリーとは。

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やっぱり芸事が好き

私は九州にある置屋の家に生まれ、芸者さんがいるのは当たり前の日常でした。小学生の頃から、置屋を手伝っていて、毎日毎日拭き掃除をしたり働いていたので、「なんでだろう」とは感じていましたね。

周りのお友達のお母さんから「水商売のとこの子とお友達になるな」と言われたこともありました。当時は芸者にはそういうイメージを世間に持たれていましたので。

中学生に入ると運動には長けていたので、部活動のバスケットボールを一生懸命やりました。はじめて自分から「やりたい」と思えるものに出会った気がしました。すると、踊りのお稽古には行きたくないな、、という気持ちが出てきて、ゆっくり抵抗していましたね。

それが高校生になると激しく抵抗をし出して、大きな発表会に出なかったことがあったんです。その時に、私と同じお師匠さんに習っていた他の人が、自分が踊るはずだったところを踊っていたのを見て、はじめて悔しいという思いをしましたね。

泣くほど悔しかったんです。
「芸事が好きだったんだな」と改めて認識しました。

踊りは、どんなものも全部好きです。習っていたことはないけど、独学で社交ダンスやマハラジャなども、踊っていたことがあります。

一人前になるということ

半玉(お座敷で支払われる「花代」を「玉代(ぎょくだい)」と言っていて、「半分の代金」という意味から半玉(はんぎょく)と言うそう)として2年間の修行を経て20になって、一人前の芸者として働き始めたのですが、人に迷惑かけること、大人として働くことの大変さを痛感しました。

お座敷で宴会の延長が決まり、2次会に行ったのですが、
会が終わって伝票を受けとったお客さんが、延長分のサインがされてあったのですが「僕は知らない、みんなが行くって言ったから」と旅館さんに伝えたんです。

そうすると、旅館さんは芸者を責めることになるのですが、なぜ何も悪いことをしていないのに謝らないといけないのか、と悔しい思いをしました。

それでも歯を食いしばって、頭を下げたのを今でも忘れないですね。
「人に頭に下げることができる」というのは、大事なことだと後から分かりました。

年下のお姐さんに囲まれて

箱根では池田家さんという、初代組合長の本家に入りましたが、その時私はすでにかなりの経験者でした。花柳界というのは、地域によって、ルールなどが全く違っています。私の長い芸歴から当初は、周囲の年下のお姐さん方から警戒されている感じはありましたね。

何を言われても「そうなんですね」と受け入れていました。
だけど、お座敷に入ると、どうしても踊りができるので目立ってしまう。裏では「お着物手伝います」と一生懸命若いお姐さんたちのサポートをしていました。

ちなみに箱根は、組合の福利厚生などがしっかりしていて、他の花柳界にはできない素晴らしいことをしているところだなと、外の花柳界を知っている私はとても感心しましたね。

飛び級で独立して

箱根に来たばかりの頃は、まったく独立しようとは思ってなかったです。
箱根には踊りのランクがCからAに登る三段階であるのですが、踊りは得意でしたので、すぐにAをとりました。

周囲の人たちから「置屋さんするんでしょ」と言われて、「出してもいいんだ、私でも出せるのかな?」と初めて思うようになり
箱根では本当は7年間勤めないと独立できないのですが、色々調べて買看板という買取制度で5年で独立をしました。

本名が「北見」、本家の池田家さんの「田」を入れて、縁起がいいように「七」が三つの「㐂」の字を使って「㐂田見」という名前にしました。なかなか変換で出ないので通称「喜田見」とも書きますね。

長い芸の道で苦労してきたので、私の置屋はとにかく楽しい場所にしよう、と思っていました。みんなが笑っていて、いつも楽しく仕事に向かえるような、ファミリーみたいにフレンドリーな置屋です。

女の子には「働かせてやってる」とは思わないですね。「働いていただいてる」と思って経営してます。

ただ、昔から情に弱くて、新しく採用をする時に「頑張りたい」と言われると、芸者には不向きな子でも、かわいそうになって採用してしまっていました。

すると、うちの置屋の右腕の子に「売れなかったら、もっとかわいそうでしょ!」と怒られて、彼女も面接に同席するように(笑)
今はきちんと適性を見て、お断りできるようになりました。

夢を見せる仕事で羽ばたかせる

これからも伝統芸を目指す若い子たちの育成に燃えたい、尽くしていきたいと思っています。
今いる子たちにも、「みんな7年やったら必ず社長になれるんだよ」と伝えています。夢を持って欲しい、羽ばたいてほしいです。

置屋業の魅力は、自分の手で育てた子が、育っていく姿を目の前で見れること。踊りや芸事を披露する場は、夢を魅せる場所で、それを受け取ってくれる人がいるのはとても幸せなことなんです。

私はこの世界しか知らないので。だから、大変なことも笑っていられるんだと思います。だからファミリーみたいにしたい、と思ったんです。「笑う角には福きたる」ですね。

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温味さんの明るさ、美しく力強い踊りに触れませんか。
ぜひ箱根に会いにきてくださいね。
Meet Geishaは毎週土曜、日曜、14時〜と16時〜で開催しています。


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