If you are…#17 Ice(吉野八重)
画像:フリー素材.com様(https://free-materials.com/かき氷02/)
普通、芸能人は恋人がいることを隠す傾向にある。それは八重先輩もそうで、私のことを知っている人は限られる…だというのにお忍びどころかSNSにかき氷屋にきたことを晒してどうする。
まあなんでこうなったかというと、『暑いし学校はほとんど仕事で来なかったしで夏っぽいことできていないからとりあえずかき氷食べたい』というシンプルな理由である。なお、この文言は彼が連絡してきた原文ママである。
久しぶりの外出だったからかもしれないけど彼はとても生き生きしている…パパラッチのことを気にしながらじゃないといけない私は心が休まらない。そして吊橋効果だとは思うが、幸せそうな彼を見てもドキドキしてる。
それでもかき氷の味は変わらない。屋台にあるチープな出来でお祭り価格のそれしか知らなかった私からすればこれは『未知』だ。
ごろっと乗ったマスカットらしきものはメロンボールと言うらしい。『園田さんちのメロン』なるものらしいが、シロップではなく牛乳をかけていただく代物であった。1000円するだけあってあのお祭り価格のカキ氷とは比べ物にならないほど甘くて美味である。で、彼は側からみれば豪華なイチゴのカキ氷なのだが、実際にはマンゴーも入っているらしい。ちょっと気になる。
すると、すでに4分の1食べ進めた彼がスプーンを置くとある提案をしてきた。
「ねえ…『あーん』しよ?」
彼が言うと、なんだか少女漫画のワンシーンか何かかと思われる。しかし、ここは現実だということを忘れてはならない。それもわかっているが私は彼のお願いを優先することにした。
私がメロンの氷を掬うと彼は仰天した様子であった。
「あ、智子ちゃんがやるの⁈」
「だってスプーン置いてたので。」
「こ、こういうのってさ…」
「氷溶けるのではやくしてください。」
彼は身を乗り出すと大変恥ずかしがりながらもメロン氷をぱくっといただいた。その体制のまま咀嚼するものだからシャリシャリと一瞬だけ聞こえた。そしてさっきの緊張は全て甘さに消されたらしくすぐ笑顔になった。
「よくできました。」
私はついついまだ同じ体制の彼の頭を撫でてしまった。するとちょっとむくれた後に私のスプーンを取り、イチゴ氷を掬った。
「選手交代。」
彼はいつにない意地悪な顔で私を誘うのであった。私はとても気恥ずかしくなったが、とにかく舐められたくなかった。先の彼がしたように身を乗り出し、イチゴ氷をいただいた。ちょっと咀嚼すれば果実の美味しい甘味が気恥ずかしさなんて忘れさせてくれた。
「よくできました。」
彼に頭を撫でられ、すっかり忘れていたそれは帰ってきてしまった。
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