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If you are…#16 Soaked(志麻せつら)
遅く梅雨が来ると、梅雨明けも遅くなるらしい。今日も下手に下校が遅くなればずぶ濡れネズミで帰る羽目になりそうだったので私はホームルームの後即座に帰宅した。
だからと言って勉強をしないわけではない。ただ、窓と対面する形で机を置いてしまったのは完全に失敗だった。降り頻る雨が窓を打ちつけ、その音が耳に入る度にせつらが脳裏を横切る─傘、ちゃんと準備したのかな?
せつらの心配とテスト直前という現実と向き合うと時間というものを忘れるらしい。「おやすみー!」という両親の声が聞こえてきて私は午後10時を回ったことを認識した。何かをやっていれば時間の進みが速くなるのは本当らしい。
さらにさっきの奴らと向き合うこと十数分、彼は突然やってきた。インターホンがなったので出てみれば、せつらがありとあらゆるところをびしょびしょに濡らした状態で「よ。」とだけ言った。最近美容院に行けてないのか、微妙にカラメルがかかり出した金髪は真っ直ぐになていた。そんな哀れな彼を見ているとやっぱり放っておけなくて「風邪ひきますから!着替えてください!」と半ば強制的に風呂場に収容した。
突然の訪問に驚きを禁じ得ない。それでもそれなりの対応はせねばと牛乳を用意し、単語帳でも見ながらくつろいでいた。ゆったりとしたオーバーサイズの袖がうっとおしい。
「ごめーん、シャワー借りたー。」と言う声が聞こえて振り向くと先輩が金髪を拭いていた…上裸で。「あああ!着てください!」と私は慌てて自分の大きいパーカーを着せてしまった。彼はそれにこう答えたのだった。
「計算通り。」
世の女性は『彼シャツ』なんてものに憧れることが多いそうだが、『彼女パーカー』なんてのはなかなかないんじゃないだろうか。私じゃ大きすぎたものも彼にはぴったりだった。そして袖のあたりをすんすんと嗅ぐと、「うん、智子の匂い。」と平気な顔で言ってくる。お風呂に入っていない私の方が茹で蛸になってしまいそうである。
「それでさー…彼氏を家に上げるとか不用心じゃない?」
せつらは牛乳を飲み干すと私に問いかけてきた。どうしてそんなことを聞かれているのか、私には全くもって見当が付かなかった。
「…先輩がずぶ濡れネズミになっていたからです。」
「もしそれが狙ってやってたことなら?」
するとせつらは私の手を引いて「部屋どこ?」と聞いてきた。咄嗟に教えてしまったが、その直後にどういうことか─いらんことを察してしまった。
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