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If you are…#8 Hair(外垣秋)

画像:フリー素材.comより(https://www.pakutaso.com/20180722212post-16947.html)

当然の話だが、夏は暑い。そうすると人間はどうやら髪を気にするらしい。最近登校していると、黒髪ストレートが自慢の彼女はポニーテールにしているし、茶髪で癖毛のあの子はお団子にしている。これらはみんな女子の例であって、男子はあまり見かけない気がする…一人を除いては。

今日、来てみると隣の秋くんがスッキリしていた。痩せたわけではないということは日頃から細いところからも察せられる(というか今よりも細くなったら栄養失調を考えてもいい気がする)。なんというか…横側がスッキリしたような─差し詰め髪を切ってきた、ということであろう。

「髪きった?」と聞いてみたら彼は少しびっくりした様子を見せてから「…だから?」と言った。「ちょっとかっこよくなったんじゃない?」とふざけ半分に言うと彼は顔を真っ赤にしてしまった。

なんだか、申し訳ない。ただ、この反応により私はある仮説を立てた。

「ねね、このことに気づいた人いないでしょ?」

そう私が聞くと彼は「友達いなかったらそりゃそうでしょ。」と一刀両断してきた。しかし、そこで折れるような私じゃない。

「正直さ、寂しかったとか思った?正直に答えなかったらお昼ご飯あーげない!」

もうほぼ意地悪だった。それこそ彼は「完全食あるからいいし。」とはいうものの、ワークの上を走らされているシャーペンはワナワナと軌道を外れている。それを見てニヤニヤしている私は心底嫌なやつなのだろう。

ついにはそのシャーペンを走らせるのをやめ、彼は考え込んでしまった。それは明らかに問題が難しいわけじゃないというのはわかっていた。しかし、その後の答えは予想だにしなかった。

彼が私の背中に手を回したと思ったら彼が近づいてきて、唇に柔らかくて無駄に熱い感触があった。それもここは教室で、恋愛脳の巣窟なので周りはキャーキャーヒューヒュー言っている…くそ、低脳たちめ。

「『お前がいたら友達いらない。お前さえ気づいてくれればそれでいい。』これじゃ答えにならない?」

そう言われて私はその採点を出せなかった。秋くんが出す答えなら全部正解にしたいけど、これは不意打ちすぎて解読が追いつかない。

それで迷っているうちに荷物を漁られていたようで、秋くん用の水色のバンダナに包まれた弁当箱を発見されてしまった。

「ま、正解ってことで。今日は…ふーん、エビピラフか。」

私はまだいろんな意味で彼に勝てない、その証明が今されたのであって、私の『寂しかった』仮説については結局闇の中に消えていった。

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