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If you are…#1 Secretary(智北青葉)

画像:明宮村様より(https://winddorf.net/archives/04081901.html)

「これ、やろーよー!」

廊下を通っていた私と垣田─自分の友人が目の端で捉えたのは『生徒会のお手伝い募集』と書かれた簡素な紙だった。掲示板の隅に追いやられていたそれは私たちの目に飛び込んできたのだった。

「嫌だよ、そんなのロクでもないし。」

「コーヒー奢るから、ね?」

私の言葉をそれで押し切ろうとしている彼女に対して断る手立てはない、私はそれを知っていた。

さて、私はてっきり生徒会室に連れて行かれるものかと思っていたが現実は違った。技術室の横に付けられた準備室のような場所であり、ドアには『書記室』という札がかけられていた。まず技術室の横が準備室でないことからおかしいしなぜ書記専用室があるのかすら謎である。友達が臆せず入って行くので私も入ってみたが、中身は想像を絶するものであった。

ベッドや大型テレビが備え付けられ、勉強机だったり座椅子にローテーブルと学生の自室をそのままこの部屋に移し替えたような場所であった。おまけに冷暖房完備である。その座椅子には男子生徒が座っていたようで、立ち上がって私たちを見てきた。

「お手伝いに来てくれた子かな?改めまして、智北青葉━生徒会書記を務めているよ。」

『生徒会書記』と名乗った彼だが、私には彼がそうであるようには見えなかった。赤に近い茶髪は明らかに染めたものだったし、左耳にはピアスが2つも付いている。男だが化粧のせいか、甘美な印象をこちらに与える。

「早速だがこれの監査をして欲しくてね。」

そう言って彼は1枚のリストを出した。収入や支出だったり部活名だったり5桁を超える数字だったり…さしずめ部活の収支表と見え、近いうちに開かれる生徒総会の資料と化すものなのだろう。

「この資料に書いてある差額が合っているかどうかを見てほしいんだけど、そんなに難しいことじゃない。ただスマホの電卓をポチポチしてくれれば大丈夫だから。」

そう言うと彼は書記室から居なくなってしまった。ここまで不用心だと憤りや呆れを通り越して心配にすらなってくる。

電卓のポチポチ作業はものの数分で終わり、私はチェック済みの資料を生徒会室に持ち込んだ。そこには生徒会長はおらず、先の彼が悠々とくつろぎ、別の男子生徒がプリンを貢いでいた。

買ってきてもらったプリンを彼は美味しそうに頬張った。カップに入っていたプリンはみるみるうちに消えてしまいカップとスプーンのぶつかる音が聞こえたのはすぐだった。すると彼は私に近寄るとこんなことを言ってきた。

「次は君を食べたい。」

意味がわからない。私は可食物ではないし家畜でもない。もし性的な意味であるなら初対面に言っていることになるのだがそんなわけない。

「お断りします。」それしか私は言えなかった。

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