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If you are…#19 Stay

今日は先輩の家でお泊まり、今日は先輩の家でお泊まり、今日は先輩の家でお泊まり…そうやって緊張していた私の気持ちを返してほしい。

「こないだまではベッドだったんだけど試しにマット式のやつにしてみてー、後は作業がしやすいようにネット環境も整えてパソコンも置けるようになったんだよねー。」

「…先輩。」

「どしたの?」

「ここ、書記室ですよね。」

そう、ここは学校の技術室の隣なのである。模様替えしたとしてもちょっとしか代わり映えはしないのであって。さっき説明してもらったパソコンの横ではカロリーバーの箱が積み上がっている。

「ホント、期待した私がバカでした。」

「…言ってなかったっけ?」

「『僕のお家でお泊まりしよ?』って言ったの先輩ですからね?」

「ああ、そうじゃなくて。」と先輩は前置きするとこんなことを言い出した。

「僕、家がないの。」

一瞬固まってしまったが、先輩の冗談だろうとわかった『つもりでいた』。

「もー、そしたらどうやってこの学校入ったんですか。」

「理事長に拾ってもらった。思い返してみて、なんで僕が生徒会長に言っただけで校則がすぐ変わっちゃったのか。普通そんなの起こらないよね。」

冷静に考えたら確かにそうだ。(もう感覚が麻痺してて忘れそうになるが、)普通校則というのは会議にかけたりそれなりの人数が賛同しないと変わらないものだ。なのにこの人が言っただけで全てが変わる。

「あれって僕が理事長の息子…扱いになってるからなんだよねー。」

「でもどうしてわざわざ学校に住んでるんですか。」

「『守ってもらうため』って説明で足りる?」

「足りないです。」と即答すると「うーん、これはなんて説明したらいいかなー…」と先輩はちょっと悩んだ様子で続けた。

「全てが嫌になったというか…これって多分一部の家にしか起こらないんだけど…後継がどうのこうのって話に実家でなって逃げ出しちゃったんだよね。」

そう言うと先輩は下を向いてしまった。いつもだったら美しいだなんだと思ってしまうところだが、今日はそんな余裕なぞ存在しなかった。『後継』と言っていると言うことは、差し詰めいいお家なのだろうという察しはついた。

「あ、ああその…すみませんでした。」

「何が『すみません』なの?」

その先輩の一言はとても刺さった。それこそぐうの音も出ないくらいに。

「なんだかしらけちゃったなー…まあでも、今日は遅いからそのまま泊まっちゃっていいよ。」

彼はそう言うと書記室から出ようとした。

「先輩はどうするんですか?」

「保健室で寝てくる。」

引き戸はピシャリと閉められた。

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