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If you are…#Last Heart(吉野八重)
私は『彼の将来を守る』選択をした。
とある裏アカウントを作成、しかも私だとわかるようなものだ。そしてそれっぽいことと焼きイカのように切り裂いた手首を限定公開した。そうすれば案の定、八重先輩を守っている女子たちは働き蜂のように私と彼が近づかないようにする。
狂気じみているだろうか?それもわからない。ただ、こうでもしないと彼の将来を壊してしまうのでこうして、あとは働き蜂たちに任せればいいと思っていた…が、人間の心というのはそんな簡単じゃなかった。
数学の授業中でとても静かな教室、その上でははしゃぎ声が聞こえる。─そういえば彼のクラスは体育だったと思った。さらにいえばこの季節じゃ水泳でもやっていたんだろう。夏の日差し、青空と同系統の市営プール、マゼンタの海パン、白いUVカットパーカー、そして全てが異様なほどに似合ってしまう八重先輩…もう画面越しでしか見れないような過去の情景が目に浮かんで耐えられない。
━人の心なんかない方がよかった。
それらを忘れる最後の手立ては自習だった。テストさえ終わって仕舞えば教室に残る物好きな生徒はいない。その空いた教室でクーラーを独り占めしつつ勉強できるのだから好きだ。今日は現代文だったが、そのチョイスが行けなかった。
『蝶々夫人』、とある外国の軍人と結婚し子どもも授かった。しかし、この軍人は既に別の女性がいたので全てを失い、最後にはこの世を旅立つというものだ…私の彼もこのくらい酷い人だったら諦めがついたかもしれないのに。どうして彼はあそこまで一般的なのか。
すると、スライドドアの音がして誰かが入ってきた。片方だけのピアスと茶髪のせいで一髪で彼だとわかってしまった。彼は何故か滝のような汗をかいている。
「よかった〜、撒くの大変だったんだよー!」
その後に「涼しい〜!」と両手を広げる彼が愛おしくなって、私は最後の言葉を言うことにした。
「八重先輩。私、もう先輩とのお付き合いはできません!」
すると先輩は仰天…はせず、「知ってた。」とだけ短く返した。しかし、彼もそんなんで終わるような男子でなかった。
「社長になんか言われたでしょ。」
「なんで⁈」盗み聞きでもしていたのだろうか。
「もう数回それやられたらそりゃあわかってきちゃうっていうか…俺も普通じゃないから仕方ないなーって別れてた。」
そう言うと彼は襟足をいじった…そんなないくせに。
「でも、今回は本気だよ。もし本当に別れる決断しかないなら…俺が芸能人やめる!」
「はあ⁈」と私の方が仰天してしまった。彼の将来を壊したくない選択肢がここでなくなってしまった。
「選んで?『別れて俺を悲しくさせる』か、『別れないでアツアツのままでいる』か。」
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