見出し画像

If you are…#14 Moon(外垣秋)

画像:Fermoraes様より(https://pixabay.com/ja/photos/月-月夜-夜空-自然-月光-4097889/)

期末テストを目前に控えると一緒に完全下校時間まで勉強に勤しむ、そんなカップルは私たちだけかもしれない。今日も担任と警備員さんに半ば追い出される形で学校から出た。

「何もあんな追い出し方しなくてよくない?寧ろ学生の本分に努めているんだから褒めてほしいくらいなんだけど!」

「バカで居残ってる奴を褒める先生なんて激レアだと思うんだけど。」

と秋くんに軽く流されると軽くムッとする。けどそれが秋くんなんだよね、となっている私も私な気がする。

駅までの道は全てが全て繁華街というわけじゃなくて、学校からそこまでの間は暗い住宅街を進んでいく。勿論街灯がないわけじゃないけど、月明かりが照らす方が多い。

「月の模様って何に見える?」と私は考えなしに聞いて見るけど、秋くんはやっぱり…ではなくちゃんと答えてくれた。

「女性とか蟹とかいっぱいあるらしいけど、なんだかんだでうさぎが一番しっくりくるかな。」

「やっぱりそうだよね。月ではうさぎとかぐや姫が楽しく遊んでいるのかなあ。」

「そんなわけないでしょ。あんなだだっ広い砂浜なんてすぐ飽きるし。」

そういう答えが返ってくると秋くんらしいな…と思ったりする。私はそれをわかっててちょっと意地悪した。

「…もし私がかぐや姫みたいに月に帰らなくちゃ、とか言い出したらどうする?」

「証拠がなければ『疲れてんなこいつ』って思い始める。」

秋くんはそう言った後に「もし本当だったら…」と私を塀に追い詰めた。そして逃げ場のない私に接吻をしたようで、彼はいつになく本気だった。

「『離れたくない』って駄々をこねられるようにする。」

月の逆光で顔は見えないことにできるが、この言葉は聞かなかったことにはできないみたいだ。しかも向こうが逆光ということは私の顔はバッチリ見られているわけであって。

「ま、智子がそういう顔になってるってことは嘘なんだろうけど。」

そんなことを言って彼は離れた。さっきのことはまるでなかったかのように振る舞っているのを見ると、聞いたはずのこっちが恥ずかしくなってくる。

そのまま無言で歩いていると、飲み屋の赤提灯だったりカフェのお洒落なライトだったりと月明かりを消し去るような光の街道がお出迎えしていた。それに照らされ見えた彼の顔は未成年で酒なんて飲めないくせに赤くなっていた。

━私たちが大人になるのはいつなのだろう…法的にも、精神的にも。この制服がいつになくもどかしく感じている。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?