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If you are…#3 Typhoon(烏羽空)

画像:KNT graphics 様より(http://kntgraphics.web.fc2.com/materialgallery.html)

いつも通りの朝は、一人の先輩によって壊されてしまった。

数多の模試が終わった後だというのに期末試験を目前に控える、それが進学校である。そしてその進学校の一つが我が高校である。

私はそんな試験のために自習室でワークを消化し終えいつものように教室に向かっていた。しかし、始業の遥か前だというのに人だかりができていた。例えるなら…そうだ、『お祭り騒ぎ』というやつであろうか。その台風の目はどうやら2階のようである。

台風の目の正体は一人の男だった…『男』というよりは『男の子』と表現した方が良いだろうか、そのくらい力はなさそうに見える。しかし愛らしいのは誰がどう見ても賛同を取れそうだ。だが、愛らしいだけでここまでの集団を作れるとは到底思えない。

と、集団が全体的にこっちに動いているように見える─どうやら彼がこちらにきているようだった。半径2メートル以内に入ってきたら、人混みは裂かれ、中央の彼が私と向き合った…なんだかモーセを想起させてくる。そして愛らしいモーセは甘い声で言ってきた。

「おはよう。僕の愛しい恋人さん。」

その瞬間周囲がどよめく。私だって驚きを禁じ得ない、なにせ彼とは初対面である。彼は私の腕を引っ張ると「今日は学校で〜」などと予定を楽しそうに説明するのだが、彼にはこの人だかりと私の顔が見えていないのだろうか。

しばらくそんな状態が続くと、人だかりはどこかへ消え、私は彼につれていかれる形で保健室にきてしまった。養護教諭は私たちを見てにっこりと笑うだけだった。

「烏羽君おはよう。」

「おはようございます。」と彼はそれなりに返した。

「今日は学校に来れたのね。」

「はい、彼女に会いたくて。」

すると養護教諭もまた衝撃を隠せなかったようで私を凄い形相━それこそぴったりの表現が見つからないような、そんな顔であった。そればかりか、彼女はたじろぎ「そ、そう。」と仕事に取り掛かってしまった。

烏羽と呼ばれた彼は保健室のベッドに私を連れ込んだ。一部の創作か何かであれば何かがおっぱじまるのかもしれないが、残念そんなことはなかった。

「嘘だって言ったら殺すから。」

彼からそんな言葉が聞けるとは思ってもみなかったので少しびっくりした。でもそんなことで納得できるほど私は単純じゃない。

「他人巻き込んで何言ってんの⁈大体さ…」

それ以上を言おうとしたのに彼の顔が急に目の前にきて、私の口は柔らかく塞がれてしまった。それが何であるかは、たとえわかったとしても知りたくない。

「口には気をつけた方がいいよ。」烏羽は意地悪そうに笑った。


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