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If you are…#11 Normal(吉野八重)

謎のゴシップについては事実をお伝えすることによって(少なくとも学校内では)消滅したらしい。何事もなく、なんでもない1日を過ごすことができた。

さて、部活もない私は帰っていたのだが、あることに気づいた━体育着忘れた。忘れたからといって特に何かあるわけでもない(強いて言えばカビの繁殖が早まる、くらいだと思う。)。私は急いで学校まで走り、そこから更に4階まで駆け上がる。汗だくになってやっと教室に着いた…のにそこには今朝、問題になってしまった彼がいた。

『清純派』と呼ばれる彼の容姿はそのまま、意地悪な笑顔を見せる彼。もしこれがファンタジーの世界だったら優等生に怪人が憑依したような、そんな感じだろうか。

「退いてほしい?」

そう彼は私を見つめる。世間も認める美貌がなんと言おうが関係ない。

「退いて。」と私がタメで言っても退こうとしなかった。そして私に一つの提案を持ちかけてきた。

「俺と付き合ったらいいよ。」

…私は今、乙女ゲームか逆ハー的な物語にでも巻き込まれたのだろうか。あるいは撮影中に入ってきちゃった…まあそのくらいのことでないと聞かない台詞を聞いた─いや、聞かされた。というか忘れそうになるのだが、私はただ体育着を持って帰ろうとしただけである。しかもこれはできなくたっていいことなのだ。

私は仕方ないと割り切って教室から出ようとした。しかし、後ろから急足の音がしたら目の前で扉が閉まった…当然ながら自動ドアでない、ただのスライドドアなので誰かが閉めないと閉まらない。もうお分かりであろう、彼が犯人である。

それもダンッと大きな音とともに強化ガラスのあたりに彼は手をついた。私は心の反動でつい振り返ると、彼の端正な顔が間近にあった。普通の女子なら壁ドンだなんだと騒ぐのだろうが私にはそんな気力はなかった。私が逆から出ようとしたらそちらも『壁ドン』されてしまった─すなわち囲まれた。

「早く答え出して。」

彼は急かす。何をそんなに急ぐことがあるのか全く検討が付かなかった。しかし、これは私が折れないと体育着どころではないと悟り、根負けすることにした。

「…わかりましたよ。」

すると、彼は驚いたような顔で3秒ほど静止するとさっきの怪人の容貌はどこかへ行った。

「や…やったー!」

私はこの時、改めて彼がありふれた男子高校生であることを認知した─ただ少し、特殊要素が強いというだけで。

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