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If you are…#9 Absent(烏羽空)

画像:彩雅介様より(https://www.pinterest.jp/pin/588001295088403811/)

偽装カップルを演じることになったあの日以来、烏羽先輩を学校で見かけることはなかった。プライベートでの交流も無に等しかったのでマチナカで会うなんていうこともなかった。そうして平和な日々が1週間続いた。

…と綺麗に終わりたかったがそんなわけなかった。実際はやれ馴れ初めだ、デートだ、ふしだらな行為だとそこいらの芸能人もびっくりするであろう質問の数々を投げかけられた。適当にそれっぽいことを言っても真実を知っている者など存在しないので、毎回内容が同じになるように細心の注意を払って話せばそれで1週間は保てた。

そんな日々の1週間の節目となる今日、私は養護教諭に呼び出しを食らっていた。まあ、なんのことだかはわかっていた。彼女は保健室内の椅子に座らせると私と向き合う形で座った。

「それで?烏羽くんと恋仲っていうのは本当?」

「実際には人ばらいの口実だったそうです。」

「そんなことでカップルにされちゃうなんて、お気の毒ねえ。」と彼女は言うが、おそらくそこに心はない、ただの話の枕くらいであろう。

「で、呼び出してなんなんですか?」

「彼について一つ理解してほしいことがあるの。」

「理解して欲しいこと。」と私が繰り返すと、彼女は「彼の体質のことなんだけどね。」と話し始めた。

その後は結構長々していたので要約すると、脳の障害で突然意識がなくなる体質だそうで原因はよくわかっていないらしい。それも頻発する方らしく、必要最低限学校に来て、後は家で受ける━やってることはほぼ通信制なので学校ではほとんど会わないらしい。

「それでね、これをお届けできる?」

彼女は大量の紙が入った大きい茶封筒を持ってきた。重量は思ったよりはない。ご丁寧に住所が記載されていたのでネット検索をかけたところ、どうやら徒歩10分くらいのところらしい。

私は肯定的な返事をし、寄り道をしてから彼の家に行った。

お高いであろうタワマンの1階、しかもすぐ外に出れるような部屋であった。私はインターホンを鳴らすと彼の返事が聞こえたので名乗って先生から頼まれた旨を伝えた。空いてるから勝手に入れと言われたのでそうした。

彼がいた部屋にはカウチとマッサージチェア、そして姿見しかない簡素な部屋であった。カウチはエアコンの真下にあり、その涼しさを彼は堪能していた。

紙の束とパンパンのスーパーの袋を持った私をみて先輩は仰天した様子だった。「僕のためにここまでしてくれるのって君以外知らないんだけど。」と言っている横でお菓子を広げてみた。彼は何が好きだかはわからないので私の感覚で買ったのだが、どうやら彼はお気に召したらしい。


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