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If you are…#4 Chicken(志麻せつら)

画像:http://www.flickr.com/photos/grenade/9478590395/ by grenade (modified by あやえも研究所)

結局自分の勉強のために友人を帰してしまい、完全下校である7時ギリギリに校門を出た。幸い夏なのでまだ空は明るい。しかし、私の腹時計がそれで騙されることはなかった。

最寄駅にくっついているとあるフライドチキンチェーン店で夕食を食べることにした。その旨を親に伝えたら「いいなー。」とだけ返された。まあ、それなりのことはしているつもりなので怒られても、というところはある。

私は一番安いものを頼み2階のイートインスペースの隅に行った。なぜ、と言われても落ち着く以外の理由はない。あとは窓がないので外から見えない、くらいだろうか。そして視界に入る情報が少ないのもその魅力だが、今日はどうやら男子生徒の軍団がどんちゃん騒ぎをしているようで、その中の一人に目がいった。

金髪の彼は一言で言うなら妖艶であろう。周りで騒いでいる陽キャラ軍団をまとめ上げる彼はとても落ち着いていて、精神年齢は間違いなく高校生をとうに超えているように思える。

すると、陽キャラ軍団の一人がこちらにやってきた━どう考えてもおちょくるために。

「へい彼女!こんな時間に一人かい?」

「勉強終わりです。大変迷惑ですし後日学校内で会ったら気まずいので一人にさせて頂けませんでしょうか?」

すると彼は機嫌を損ねたようで、フライドチキンの1ピースを掻っ攫っていった。私はその事態に「あっ」以外何も言えなかった。

「じゃあこれ貰ってくわ。良かったな一個減って、ダイエットになるんじゃない?オ・デ・ブ。」

デブかどうかは知らんが人の金で購入されたものをパクられるのは心底嫌であった。しかし、体格差からして勝ち目はない。

すると、そのフライドチキンは同じくらいの男子生徒━先ほどの金髪が掻っ攫っていった。

「それ、人のこと言えないでしょ。今集計してるから250円出してきて。」

そう言われた陽キャラの子分は軍団の中に戻っていった。

「大丈夫だった?」と彼は尋ねてチキンをカゴに戻してくれた。

「いえ!ありがとうございます!あの…」

「どうしたの?」

「お名前お伺いしてもよろしいでしょうか?」

すると彼は少し笑って緩く答えてくれた。

「志摩せつら。3年生だし会うことないかもだねー。」

「あの!いつかこのご恩お返ししますので!」

肩がこわばる私に志摩先輩は「どこの武将なのやら。」と呟いた。

どうやら集計が終わったようで、軍団の一人が志麻先輩を呼んだ。もう帰ってしまうのか、一抹の寂しさが自分の中に漂い少し驚きもした。その驚きは先輩が放った去り際の一言で増大することになった。

「あと、別におデブじゃないし可愛いから自信持った方がいいよ。」


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