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If you are…#5 Medicine(吉野八重)

画像:フリー素材.com様より(https://free-materials.com/飲み薬・錠剤02/)

『マチナカで学校の先輩と会った。』これだけ言ってればありふれた偶然かもしれない。しかし、私に起こったこの偶然はどう考えたってありふれちゃいけない。

話は昨日の午前10時から始まる。私は胃腸炎の薬を買うためにドラッグストアに来ていた。特に胃を壊したとかそういうことではなく、単に薬箱のストックというただそれだけである。私はそれを取ろうとしたら、逆側から違う手が伸びてきたので思わずそちらを見てしまった。

芸能人オーラって本当にある、そのことを彼は証明していた。イケメンというチープな言葉で表しては申し訳ないように思わせてくるのも、イケメンでなかったらそこらへんの男子とあまり変わらないのもオーラだろうか。

彼━吉野八重は少し慌てた様子で手を引っ込めた…別に慌てる要素はどこにもないのだが。

「ご、ごめんなさい!あの、先取って貰って構わないので!」

それだけ言って彼はどこかへ行ってしまった。話している最中にも彼のお腹がギュルルと鳴っていたので、なるほどつまりはそういうことであろう。あまりに哀れだったので胃腸薬を2つ買った。

その薬局のトイレというのは何故か外にある。そうするとどういうことが起こるか、答えは出入り口で再び遭遇する、である。彼の顔は血の気が抜けていてお化けでも見たのかと思えてしまう。(まあ、あのトイレは薄暗いので何が出たっておかしくないのだが。)

「よければ、どうぞ。」と私は胃腸薬をプレゼントした…こんな日が来るとは思わなかった。

「ありがとう…あの、ここに俺がいたことって内緒にしてもらえる?」と彼は答え問いた。芸能人の休日に特段の興味はないので肯定的な返事をしてその日は終わった。

しかし、それで終わらせてくれなかった存在がいる。世間とメディアである。

そして今日、電車に揺られながら見てしまったネットニュースに私と彼が載っていた。別にトップというわけではなく、芸能ニュースの下の方にいた。何故スクロールしてしまったのか、暇だからとは言ったってやることはもっとあった筈だ。

でもこれについては遅かれ早かれ知ることになっていたのであろう。それが今こうして囲まれている状態である。取り囲んでいる女子はハイエナ、或いは女豹のような形相であり、私はこれからこのメス集団に食いちぎられるのではないかも知らんというような状態という形容をしたい。その中のボス猿(メス)が質問してきた。

「吉野先輩とはどういったご関係?」

「ドラッグストアにて偶然会ってしまった他人です。」

「じゃあこの熱愛報道はウソってことでいいのかしら?」

「はい、出版社が売り上げを上げるためのデマであるかと。」

そう答えると「なーんだ。」と言って囲みは散り散りになった。こういうことが起こるかもしれないから事実は伝えるべきである。

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